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斎藤くんの残留農薬分析

中国メラミン混入事件の前に国内での事故米を整理しておこう

斎藤 勲

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 2008年9月22日、水産庁はマリアナ諸島近くのスルガ海山の南方水深200〜350mの海域で5匹の親ウナギをはじめて捕獲したと発表。発達した精巣を持ったオスと産卵後のメスが含まれるとのこと。どこから、どうしてそこにたどり着くのかはまだ不明であるが、この付近が産卵場所であることは間違いない事実となってきた。ワクワクする話である。しかし、その前に事件としては全容が解明されてきた事故米穀のおさらいと、中国でのメラミン混入乳製品のことを考えなくてはいけないだろう。

 農林水産省に設置された「事故米穀の不正規流通に関する対応検討チーム」が発表している「事故米穀の不正規流通事案に関する対応策緊急取りまとめ 平成20年9月22日」から、今回の事件の概要を把握しよう。
1. 唯一自給が可能な食材のお米をWTO協定に基づき年間約77万tを輸入している事実の確認。主に食品加工用に使用しているという。

2. 残留農薬が基準以上に検出された事故米(正式には事故米穀)は、今回の政府が非食用米として販売されたコメの51%(メタミドホス違反3469t)と商社が売却したアセタミプリド違反598tが占めている。カビなどの品質劣化で事故米(アフラトキシンは検出されない)となったものが48%。

3. 残留農薬基準の2倍で「基準違反」と言われるが、もともと国内での米への適用がなく基準がないから食品衛生法第11条3項の規定の一律基準0.01ppmが適用される。その法律が実際に運用されたのは、ご存知のように06年5月29日からである。それまでに輸入されて倉庫に保管(この保管料が馬鹿にならない。国の負担であるから、担当者は早く売りたい。買ってほしいというわけだ)されていたコメが市場に流通する場合は、浦島太郎ではないが世の中の雰囲気はガラッと違っていて、「おい、こら!」となるのである。普通の輸入米が(晴れて?)事故米となるのである。

4. ここが大切な部分だが、カビ毒のアフラトキシンB1が検出されたコメは幸いなことに売り渡したコメの0.14%であり、しかもそのうち3割の2.8tが酒などの食用に回ったことが判明している。また、カビがはえていて事故米となったコメからは、アフラトキシンは検出されていない。ということは、今回の事故米の流通では、長期の摂取で肝臓がんなどが発生するリスクのあるアフラトキシンは主たる問題ではなく、残留農薬メタミドホスやアセタミプリドを問題とすればよいことが分かる。

5. 有機リン系農薬メタミドホスは、冷凍ギョーザ事件で一躍有名になった農薬であるが、国内では使用されておらず海外ではよく使用された農薬である。急性毒性が強い分、虫にも良く効く。その半面、取り扱いが悪いと人様が中毒を起こした農薬でもある。今回の事故米に関して食品安全委員会のホームページでも毒性評価の紹介がある。

 メタミドホスについては、一日摂取許容量ADI0.0006mg/kg体重/日、急性参照用量ARfD(今回のような事故が問題となる時は、一時的に摂取した場合の健康評価であるこの基準が参考になり、最近は日本でもこの基準が使われるようになった。良いことだ)0.003 mg/kg体重/日とあり、0.05ppmメタミドホスが残留したコメを体重25kgの子供が食べたら、1.5kg(10合、ご飯にして茶碗で20杯ちょっと?)食べたら届く量である。いくら何でもという量であり、安全係数がかかっているからこの量で症状が出るわけではない。たまたま食べても健康影響を心配する必要はありませんと書いてある。もう一つのアセタミプリドはARfD0.1 mg/kg体重/日だから、体重50kgの大人の場合、平均的日本人が1年間に食べるコメ(61.4kg、お米1俵位)の2.7倍食べると届く量だと説明してある。

 新聞報道などで保育園で子供が食べて蓄積が心配というお母さんの記事が載っているが、どうして取材した記者が、「メタミドホスなど微量で蓄積するものではありませんよ」と食品の常識を伝えてから取材しないのだろうかといつも思ってしまう。冷凍ギョーザ事件を経験しているのだから、新聞記者ならそれくらいの知識は備わったのだろうし、無駄な不安を助長する方向での報道は少なくしてほしい。

 要するにどちらの農薬をとっても、気分は良くないが今回の事例は食べることによる健康影響は気にすることではなく、只々、農林水産省が事故米穀を流用されないように破砕して色をつけて米屋以外の業者に売却する。用途はきちんと確認して売却する(工業用のり原料にするといわれているが、実際は余り使われていないのが現状といういい加減な部分もある)。米屋以外のところから、米屋が分からない米を買えない仕組みをきちんと作ってくれることを、みんなが強く国に要望していくことこそが今回の事件の唯一の教訓である。今回の事件で米というものがどういうルートでどこへ行くのかを如実にトレースしてくれ、今後の危機管理上とても有用な情報となった。入り口がきちんとしていれば、何も起こらなかった事件である。

 「入り口がきちんと」という面では、中国のメラミン混入の粉ミルク・乳製品事件も同じである。しかし、こちらは自らの利得のために食べる人の健康を害するものを入れてしまう背景がある場所で、商品を製造する場合、品質管理面でメラミンの検査を追加しても、それ以外の何をされるか分からないという不安は残る。悩ましい問題を提供してくれた。昨年の米国でのペットフード事件でメラミンは問題となったが、たんぱく質の含量をごまかす手段としては同じで、前回のコラムで、「悪の権化の中国より、日本の金の亡者のほうが余程悪い」というタイトルにしたが、そうも言えないなあとやや反省している。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)