斎藤くんの残留農薬分析
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
中国の公安省警察鑑識専門家グループが来日し、3月25日から日本の警察庁と情報交換を始めた。ギョーザの袋の外側に付着した農薬が中にしみこむという中国側と、ありえないという日本側の主張、袋での実験の条件検討など、科学的に一致させておくべき点のすり合わせの場である。誰が入れたのか(犯人は誰?)ということではなく、どのようにしてこの混入が起こったのか、双方努力して解明してほしい。
3月13日、千葉県警から千葉県市川市の家族が1月22日食べて吐き出したギョーザの一部を分析し、皮には3580ppm、具には3160ppmという高濃度のメタミドホスが検出されたと発表した。12月28日に千葉市の母娘が食べて中毒症状を起こしたギョーザから検出されたのが130ppmであるから、それをはるかに超える濃度だったわけだ。分かりやすく言うと、ギョーザの重量の0.3%位がメタミドホスだったということだ。
報道によれば、1月5日に兵庫県の息子さんは11個くらいギョーザを食べているが、少ない人は1.2個、しかも吐き出した人でも中毒症状を呈している。正直なところ130ppmを1.2個食べて中毒症状が出るのかという疑問があった。それが、0.3%である。状況を説明するのに十分な量が含まれていたギョーザがあったということだろう。
おそらく均一ではなく、高いものは0.3%くらいや130ppmのもの、低濃度のものが混在していたのだろう。だから、兵庫県の息子さんのように、はじめは5個食べて何もなく、次に11個食べた時(味はおかしいと感じていたが)急性中毒症状を発症してしまった。人間疑って食べていない時は、お腹が空いていて、ギョーザが好きだったらパクパクと食べてしまうこともあるのだろう。食べてしまって、「あれー?おかしい」ということになる。原因はともかく大変な事件であった。食品衛生学の歴史に残る事件である。
このギョーザ事件に関連して、いろいろな殺虫剤問題が発生した。袋にべったりと油がついていて(中にしみこんでいて臭くて食べられないものもあったが)、溶剤のトルエン、キシレン、ベンゼンが検出されたもの、後で検査してジクロルボスを検出。中毒事件の事例と何か関係があるのだろう。
それ以外の事例で意外だったのは、包材や原材料の魚などに付着したジクロルボスであった。施設燻蒸で使用するジクロルボスが空気中に漂い、冷やされて液化し、接触した袋や魚などに付着したのだろうか。日本国内でも食品関係での防虫マットの使用を注意しないと、徳島の生協で発生したギョーザの袋の外側から微量のジクロルボスが検出され、問題となったような事例をまた起こしてしまう。
そのほかの新聞を賑わした殺虫剤の残留問題は、食品の問題として食品衛生法上の残留基準で処理できる問題である。ニラ肉まんからメタミドホスの検出、ソースカツからホレートの検出と、加工食品でありながら原材料に戻っても明らかに違反の状況で回収された。この辺りの問題は、まだまだ圃場管理、薬剤管理、収穫時や入荷時の適正な検査(原料として受け入れたものが全体として適正かどうかの判断)など、一層のレベルアップが求められている。残留農薬検査の有効活用がポイントにもなり、知恵の使いどころである。
それ以外の大部分の事例は0.01ppmから0.06ppmくらいの微量の検出である。加工食品は基本的には基準が設定されていないので原材料に戻ってその違反を評価するのだが、先ほどのニラ肉まんのメタミドホス0.55ppmのように、どの原材料でも駄目と明らかなものは対処できるが、0.06ppm程度で一律基準適用の原材料なら駄目だが、ニラならよいとか、そんな判断不能な加工食品が大部分である。
イカ天ぷらからジクロルボス0.11ppm検出も対応が分かれた事例である。販売先は自主回収し、製造元は原料の小麦粉の割合から0.2ppmまでは良いとの判断から供給停止のみ。同じ商品でも対応は異なる、どちらが良いのか判断は微妙である。基本的には一日摂取量ADIや急性参照量ARfDからみて問題になる量ではない、すなわち健康影響とは別の問題である。
メタミドホス、ジクロルボス、ホレート以外にもパラチオン、パラチオンメチル、クロルピリホス、ピレスロイドのシペルメトリン、シハロトリンなどいろいろの農薬が微量ではあるが出てきた。今まで検査をあまりやってこなかった加工食品の検査を今年になってから皆が一斉に開始したというのが実態であり、中国製の加工食品を中心に2008年度時点でのモニタリング調査の結果が日々発信されているのである。
大部分は、生鮮の野菜や果実と違って検出率は高いわけではない、また検出される農薬の種類も限られているのが現状である。そういった情報を元にこれからどう判断、評価するのか皆で考えていきたい。最新の分析機器を駆使して膨大な経費を使って検査結果を出しているのだから。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)