斎藤くんの残留農薬分析
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
「残留農薬検査100項目検査しました」「200項目検査しました」「300項目検査しました」「『全項目検出せず』でした」—-。万歳、万歳。食の安全・安心が保たれていますね。安心して美味しく食べてくださいね。ところで、世の中はそんなにうまくいくものだろうか?「出ないこと」と「安心」は同じなのだろうか?
今年も、輸入食品、特に中国関連商品では、残留農薬・動物用医薬品検査が必須項目として検査され、その検査結果はいろいろなメディアを通じて報告されたり、商品の品質確認のために使われるだろう。商品を扱う流通業者としては、検査結果が「すべて検出せず」ならば、すっと通るだろうし、1つか2つ出ていると、その濃度が基準と比べてはるかに低いことだけチェックして終わりだろう。うるさい事業者なら、出たというだけでその商品を引き受けないところも出てくるだろう。ということは、出来ることなら「すべて検出せず」がベスト、かつ簡単な話となる。
海外から輸入される生鮮品は、通常検疫所での残留農薬モニタリング検査(今年度は2万6000件余)や業者負担の命令検査、自主検査などで基準に合っているかどうかの検査が実施されている。2002年の中国産冷凍ホウレンソウ事件は、当時の加工品(ゆでると加工品になる)は検査対象でないというエアポケットから発展した。
現在の中国などからの輸入生鮮品を見ていると、いわゆる大手が取り扱う商品は、ほとんど検疫で引っかからない状況までレベルアップしてきている。厚生労働省の07年4月から9月の速報では、中国の違反は0.3%と輸入量は圧倒的に他国より多いのに、違反率はむしろ悪くはない。中国だから農薬まみれという状況とはかなり様子が違っている。もっとも、中国の国内供給品はまだいろいろは問題を抱えているが。
残留実態はどんなものかと、インターネット上で探してみると、数は多くはないが自社商品の検査データを積極的に情報開示している業者もある。ある大手の業務用冷凍食品を扱っているK社のホームページを参考にさせてもらう。
自社の安全品質の取り組みをエダマメを例に紹介している。管理された圃場での生産、農薬管理、衛生的な工場での徹底した品質管理、急速冷凍、包装後異物チェック、検査室で残留農薬検査(写真の分析機器では一斉分析は出来ないと思うが)で安全と確認したものを日本に輸出。冷凍コンテナで輸送し、輸入ごとに品質をチェックして各店舗へ配送していると、写真入で説明している。
エダマメの検査結果は、国内分析機関による447項目の「すべて検出せず」の証明書が掲載されている。そのほかにも48の取り扱い品目について、国内での分析機関と検疫所の検査結果が載っている。自主検査では検疫所のモニタリング検査項目から選んだ100項目の検査を100件以上行っているから、費用としても300万円以上かかることになる。大変なコストとなるが、よく見ると同じ検査証明書が結構あるので、ロットをまとめて検査をやっているのだろう。
検査証明書を見ていて気になるのは、自主検査の場合100項目を選んで検査しているが、唯一パプリカからクロルピリホスが0.01ppm検出されているほかはすべて「検出せず」ということだ。冒頭に書いたが、実際そうかもしれないが、きれい過ぎるというか、出なさ過ぎる感じがするのである。中国は一概には言えないが、現地を見た感じでは確かに、日本よりも農薬の使用回数は少ない感じがする。中国の方が減農薬?か。
日本国内で、使用実態を把握しながら200項目以上の農薬を検査すると、違反はほとんどないが、おそらく4割くらいの商品から、微量ではあるが何らかの農薬が検出されるだろう。残留濃度を見る限り、農家の適正な使用方法と農薬を気遣って使っている努力が垣間見える結果である。
この事業者のエダマメの検査データを見ると興味深い。12回の検査データが並んでいるが、ダブりを削除すると検疫所2回、自主検査5回のデータだと思われる。自主検査100項目は「すべて検出せず」。検疫所の2回の検査では、1件はインドキサカルブが0.02ppm、もう1件はイミダクロプリド0.02ppm、シペルメトリン0.01ppmと検出下限に近い値が検出されている。自主検査の100項目にはインドキサカルブ、イミダクロプリドは入っていない。この100項目の検査は分析機器としてガスクログラフ・質量分析法(GC/MS)を使用しているため、検査項目に入っていないのだろう。これら2農薬は通常液体クロマトグラフ・質量分析法(LC/MS/MS)で行う。
全体としては、すべての検査で基準を満たしているからよいのだが、検疫所の検査結果がなかったら一例を除いて「すべて検出せず」の検査結果となってしまう。確かに世の中では「すべて検出せず」の検査証明書が尊ばれる。しかし、全体像を掴めないような「すべて検出せず」だったら、かえって高いお金をかけてやっても検査の価値が下がってしまうし、出るべき農薬の検査をやってないだけじゃないのという話になってしまう。どうすべきか。
以前から言っていることだが、残留分析は大きく2つの方向に分かれていくだろう。検疫所のようにどういった食品がどこから来るか分からないような検体では、「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」(失礼!)的な手法をとらざるを得ないだろう。1つ目は、そういった中からターゲットを絞り込んでいくやり方である。
一方、上記の輸入業者のように栽培履歴がある程度把握できるところは、散布履歴と検査結果をマッチさせるような項目にプラスαしたくらいの項目で、農薬使用状況の適正管理のために使うべきだろう。その結果で「すべて検出せず」ならば、それなりの評価があるだろうし、微量に残っていた場合は、基準値との比較でその散布方法の適切性を吟味すればよい。いわゆるプロセス管理のための検査による検証である。その結果こそ、購買者に見せたり、それぞれのホームページに情報公開してほしいものだ。
通常の気象条件で普通の農薬などの使い方をしていれば、検査結果はほとんど問題ないものであろう。違反事例には必ずそれなりの原因があるはずである。突然の病気などイレギュラーな事態にどう対応して、その結果の残留分析の結果はどうであったかなど、きちんと情報公開してくれると、その会社本来の品質管理のレベルの高さが理解してもらえるのだろう。通常の商品調達なら、誰でもといっては語弊があるが、ちょっと技量があれば誰でも出来るものである。
検査結果は1つであるが、どう使うかは多様であり、こういった話題を提供してくれたK社のホームページに感謝である。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)