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斎藤くんの残留農薬分析

「中国産、やっぱりねえ」なのだろうか?

斎藤 勲

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 最近の新聞などのマスコミ報道は中国製品バッシングオンパレードである。今年に入って、ペットフードの原料にメラミンが(意図的に)混入、それを食べた猫などペットが死亡。当初原因不明で、大手ペットフード屋さんの商品だったため大騒ぎとなった。幸い現時点では日本国内への影響はないという。また、昨年秋にパナマで「Mystery Illness」が発生し、多くの人がなくなった。米国疾病予防管理センター(CDC)が協力して原因調査した結果、国が作った安い咳止め・抗アレルギーシロップに使った原料の中国製グリセリンが、実はジエチレングリコールであったことが再報道された。このシロップはsugar-free(無糖)をうたっており、ついつい手が出たのだろう。「中国産はやっぱりね」という感じであろうか。

 追い討ちをかけるようにパナマやドミニカなどで中国製練り歯磨きにジエチレングリコールが3%から4%含有されてものがあり、米国食品医薬品局(FDA)も使用しないよう警告した。日本では中国製土鍋の縁から鉛が溶け出し、食品衛生法の定める基準値よりは低いが店頭からは撤去し回収するという。恐らく焼成温度不足であろう。先月の新聞では中国産アンコウの中にフグが混入して売られておりこの魚を使ったスープを飲んで具合が悪くなり入院する人が出たともある。

 中国製品踏んだり蹴ったりである。20年位前にも、ドイツ産ワインから甘みやとろみを出して安いワインを高級品に変えるためにジエチレングリコールを入れた、いわゆるワインスキャンダルがあった。毎日毎日ワインの検査をしていたのが懐かしい。おかげでドイツワインの規格と味覚の勉強をさせてもらった。

 中国政府はFDAと協調して対処したり、外国の関係者を招いて国内での対処方法を説明したりして、中国製品の全体的なイメージ低下を食い止めようとしている。しかし、昨年のパナマの風邪薬に入っていたジエチレングリコールは、中国から出る時点では医薬品には合わない旨を説明したにもかかわらず輸入業者が勝手に使った、あるいは練り歯磨きも毒性は低く大量に摂取しなければ人体に影響はないとの報道(6/1中日新聞)からも読み取れるように、強気の姿勢も伝わってくる。さながら昭和20、30年頃の日本の安かろう悪かろうの時代の再現のようにも見える。直接の被害のない日本でも、中国製品のイメージダウンはボディブローのように効いてくる。

 昨年の5月29日の残留農薬ポジティブリスト制度の施行以来、シイタケ、ニンニクの芽、マツタケ、ネギ、ショウガ、ウーロン茶、キクラゲ、シソ、ソバなどいろいろな食材が違反となり、ネギなど6品目は命令検査に移行し、時間もお金も掛かる商品となっている。ただ、コスト面では競争力は低下するが、品質面では相当良くなってくる。輸出商品の品質レベルの高さは、即他の国への輸出商品、一部の国内流通商品の品質の良さにつながる。一部といっても一割で日本と同じ人口であるが……。

 食品業界もすべてコスト競争である。その流れの中、食品安全にかかる事件や事故がいろいろと発生する。そうすることにより、少しずつ品質管理が進んでいる。言い方は悪いが、誰かが人身御供にならないとなかなか良くならないのが残念ながら現実である。

 品質管理の仕組みは、勉強したこと、予想したことは守ることが出来る。しかし、予想外のことがおきるのが事故であるが、その程度を低くすることは可能である。今の日本は、通常の流れの商品では今回のような事件は起きないであろうが、その蚊帳の外となると心もとない。

 端的なのが、個人輸入(業者含む)された中国産ダイエット用食品、強壮用健康食品などである。漢方薬的なものを中心に処方されたとなっているが、そんなもので急激な効果を期待するほうが根本的におかしい。それでは漢方薬ではなく西洋医薬である。その効果を出すために、信じられないがN-ニトロソフェンフルラミン(フェンフルラミン自身副作用があるのに、さらに発ガンの可能性もあるニトロソ化してある)が配合してあったり、強壮剤ではシルデナフィル(勃起不全改善作用)やその類似品を含むものもある。

 医薬品(認可されているかは別)であるから効くはずである。シルデナフィルを含む薬剤は国内では高いし、医師の処方もいるので、個人の責任で危険を承知で中国製を買われる方もいるだろうが、それならそれで仕方がない。ダイエットもそうだが、中国・東南アジアの人が全般的にスリムなのは、ひとえにカロリー摂取が過剰でないだけの話で、米国や日本のような栄養過多の社会そのものを個人個人のレベルで自覚しないとどうしようもない問題である(これは多分に自分に言っている)。

 農産物の分野でも、2006年の冷凍ホウレンソウ事件、昨年のポジティブリスト制度施行で、中国は人様にものを売るとはどういうことかを高い代償を払って勉強している。中国は全体ではまだまだであろうが、一部分が目覚めただけでも日本と同じ人口であり、影響は出始めている。なにしろ、商魂たくましい人たちである。

 私たちが直接目に触れる部分では、急激に中国産は増えていかないかもしれないが、食品製造、食品販売の分野での原材料としては、コスト、品質面から確実に伸びていくだろうし、中国で製造し国内へ加工品として輸入される商品は確実に増える。全体のレベルの低さと日本へ輸出するもののレベルを混同しないほうがよい、日本の規制の厳しさ、検疫体制強化は、彼らにとって見れば格好の勉強道具でしかないかもしれない。日本が彼らの努力目標を設定してあげているのである。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)

(今回紹介したパナマのシロップ事件や中国産偽薬の話は以前私が所属した職場のホームページを参照していただきたい。参考になることが書いてありますよ。)