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斎藤くんの残留農薬分析

残留農薬問題で「MOTTAINAI」をどれほど実現できるか

斎藤 勲

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 ケニアのノーベル平和賞を受賞したWangari Muta Maathaiさんによって「MOTTAINAI」が世界に広まった。仏教用語に由来すると言われるこの言葉、日本人には馴染みのある言葉であるが、大量生産、大量消費のこの世界の中で私達のあるべき道を示していると言う。この気持ちを基本にして、諸々の問題に落ち着いて取り組んでいくと、自ずと方向が出てくるのかもしれない。ポジティブリスト制度の一律基準0.01ppmを2倍も超えた0.02ppmの残留違反に対して、コンプライアンスでの対応、リスク評価と「MOTTAINAI」に基づく処理について皆で知恵を絞ってみませんか、今年は。

 2007年が始まった。昨年5月29日のポジティブリスト制度施行後半年が過ぎた。国内ではドリフトが心配されたが、現状ではあまり大きく問題にはなっていない。むしろ、土壌残留による北海道のカボチャのヘプタクロルエポキシドや、水田除草剤の流入による宍道湖などのシジミのチオベンカルブの方が話題となった。

 盲点というか、新しい基準になるともめるであろうことは、知る人は知っていたと言う問題である。また、輸入農産物では、検疫所の月次報告では農薬の残留基準違反などを取り締まる食品衛生法第11条の違反は40件くらいであったものが、100件を超えるようになった。その3分の1位が11条3項、いわゆる一律基準違反の割合となる。

 ガーナやエクアドルからの生鮮カカオ豆などが何件も違反で引っかかっているが、輸入業者には大手も入っており、今時全く生産事情を知らないと言うことは無いはずなのに、この状態である。2002年の冷凍ほうれん草は特にそうだったが、秋から冬に栽培したホウレンソウを冷凍加工して、翌年日本に輸出していた。

 農産物の難しいのは、検疫所で違反が見つかったからといってすぐに作り方を変えて供給できるものではないことである。大体その年の収穫は既に終わって倉庫に寝ているものや既に育ちつつあるものが多い。

 となると以前なら駄目もとで輸出して、うまくいけばパスという事例もあったであろう。しかし、今はそれでは商売にならないし、商社の信用にもかかわってくる。来年は決して起こさないぞということを勉強するための高い授業料である。

 ポジティブリスト施行後、半年間で厚生労働省の管轄であるリスクマネジメントは十分機能していることは皆が理解した。残留基準を超過するサンプルは100件検査して1件弱。検出される農薬と農産物の組み合わせも、ある程度明らかになってきている。

 残留基準(暫定基準含む)を超過するものは、その使用方法が適切であったかどうかをきちんと検証して改善してもらう。一律基準違反の場合は、どうしてそういう事態(普通は使われないものが検出された)が起こったのかの検証を行い、その国での使用実態がある場合は双方で協議し、必要ならば暫定基準値を設定して、定期的なモニタリングを行い残留実態を把握評価する。

 それが無理ならば適切な農薬に変更してもらうといった、双方で違反のトラブルを減らす努力が必要であろう。当然のことながら、これらの判断基準はADI(1日摂取許容量)に基づいて行うのだが。

 また、一律基準0.01ppmの設定の際、毒性評価が十分でない未知の化学物質の許容される暴露量の閾値1.5μg/dayを用いたが、実際には農薬は安全性などを評価されて使用されているはずであり、ADIの最も厳しいディルドリンなどの0.0001mg/kg/dayを用いると、ADIを上回らない摂取量は0.01ppmならば0.5kg、0.05ppmならば100gとなる。ということはコメとコムギの場合は摂取量が100gを超えるので0.01ppmを採用し、それ以外は0.05ppmを採用しても十分に人の健康を損なうおそれが無い量といえるのではないであろうか。

 その辺りの論議や考え方を、厚生労働省がまとめてくれるとよいが、厚生労働省の担当者としては食品衛生法の11条を決め、施行に努めている手前、食べてもよいよとは言えないだろう。リスク評価をする食品安全委員会が魚の水銀について行った妊婦へのバランスの良い注意喚起のときのような積極的な情報提供を消費者にしてもらえるとありがたい。

 消費者は「MOTTAINAI」の心を持って、飽食、貧困、飢餓が同居している世の中で貴重な食品をどう取り扱っていったらいいのかを、考える素晴らしいきっかけになると思う。そろそろ誰かが先鞭をつけないといけない時代になってきた。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)