斎藤くんの残留農薬分析
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
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4月から5月頃、長野から青森ではリンゴの花が開花する。冬は厳しいが、春の津軽は岩木山を眺めながら、桜に続いてリンゴの花見ができるとてものどかな季節である。先日も、テレビの健康番組で青いリンゴが紹介された。リンゴポリフェノールの成分であるプロシアニヂンが脂肪吸収を抑えダイエットにとても効果があると言うものであった。特に王林など青リンゴを皮ごと食べるのが良いとのこと。プロシアニジンは果皮のほうが果実よりも4倍ほど含有量が高いという。皮に多いのであって、実にないわけではない。リンゴを6分の1切れ食べると、実の部分が50gくらい、皮の部分が5gくらいである。実を食べただけでも、皮の2.5倍は取れる計算になる。皮をむいても食べることは良いということだろう。
こういう番組があると、生協でもとたんにリンゴの予約注文点数が増える。しかし、急に木になっている実が増えるわけでもない。おかげで担当者はあちこち走り回り何とかかき集めてくるのである。これが継続すれば本当に健康にもいいであろうが、皆さんとても気まぐれで、すぐに注文点数は元に戻ってしまう。古くは「紅茶キノコ」以来、何十回、何百回とこれを繰り返している。
私が学生の頃は、まだ食物繊維の効能などはそれほど知られておらず、ゴミに近かったと思う。当時はビタミン学に力があった頃で、先生に「斎藤君、リンゴはビタミンCが少ないんだよ」と言われ、「果物でビタミンCがないなんて、果物かよ!」とがっくりし、ビタミンCの多いイチゴが好きになった記憶がある。
すべてに言えることだが、保存技術も進み、昔よりも食べられる時期が長くなったリンゴをおいしく食べていると、腸内に食物繊維のペクチンなどが恒常的にあり、腸を刺激して腸内環境も良くなり整腸効果を示すので、結果として健康に良い体調を作ってくれる。その結果が肥満を防ぎ元気な体となっていくのだろう。継続は力なりだ(一番耳が痛いのは私なのだ)。
今回のリンゴの話で書きたかったのは、農薬残留の話だ。リンゴは半年くらいの長丁場の作物。やり直しが利かない。冒険が難しい作物なのである。失敗しても誰も保障してくれないのだ。通常の栽培では、40回弱の農薬散布を行う。それを環境にやさしい農業、農薬残留の少ないリンゴということで、生産農家が農薬使用を1割、3割、5割減と病気、虫と戦いながらおいしいリンゴを作ろうと頑張って作ってもらっているのだ。数字で言うのは簡単だが、現場は大変だ。予防的にあまり使えないので、リスクも高くなる。
そうやって作っていただいたリンゴを分析してみると、結構面白い結果が分かってくる。私たちは「栽培自慢」という減農薬を中心に管理した農産物の認証制度を持っており、生産者の農薬使用履歴が手に入る。それと照合してみると、9月下旬の収穫のリンゴだと7月以前に使用した農薬は検出されず、7月以降に使用した5種類の農薬が微量(基準の40分の1から100分の1くらい)残留している結果だ。
当たり前と言えば当たり前だが、結果を見てみるとやはり実感できる。収穫2週間くらい前に散布した農薬でも、100分の1くらいだった。きちんと生産しているとこの程度か、という分析結果と散布履歴のきれいな相関がみられる。収穫に近い散布のものが残留して、3カ月以上前のものは検出されない状況を鑑みると、収穫前3カ月の農薬管理をどう慎重に行うかにかかっている。
生産意欲のある農家の方が、適切に農薬を使用し(無農薬やいい加減な使い方という極端な部分ではなく)、見た目も良く、おいしいリンゴを生産してもらい、私たちは皮をむいても丸かじりでもその人の好みで毎日楽しく食べるのが望ましい。不規則になりがちな現代社会で腸のバランスを整えてくれ、結果として整腸が基本である健康に寄与してくれるのではないだろうか。継続は力なり(耳が痛い)!(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)