斎藤くんの残留農薬分析
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
厚生労働省輸入食品監視業務ホームページによると、中国産食品で命令検査になったものは、8月3件、9月1件、10月2件となっている。順調と言うか、輸入される種類の割には、まあ少ない?と解釈できるか。10月の検査対象は、大粒落花生の除草剤アセトクロール(9月にマツタケで命令検査となっている。日本では登録なし)と青ネギの殺虫剤テブフェノジドである。
中国における大手のほ場管理では、食品衛生法11条3項に違反する一律基準違反は通常考えられない。ということは、スポット買いとか市場で調達した商品が日本の検疫所で検査され違反となった事例が多いのであろうか。資本投資できない弱小生産者は淘汰されていく構図を目(ま)の当りにしている感じがする。トウショウヘイさんの白い猫、黒い猫の話ではないが厳しいものである。
中国には「残留農薬測試器(簡易検査器)」なるものがある。2002年の冷凍ホウレンソウ事件(クロルピリホスが基準(0.01ppm)違反)があって以来、中国国内でも残留農薬検査の体制を構築する必要があると言うことから、急遽こういった簡易試験機があちこちに導入された。いわゆる、コリンエステラーゼの活性を阻害するカーバメート系農薬、有機リン系農薬を判定する定性検査機器である。
初期モデルはあちこちに置いてあるが、ほとんど現在は使用されていない。現在のモデルは吸光度測定で数値化して判定している。大きな食品工場では検査室を持っており、農薬残留が陽性になった場合は、そこで機器分析を行う。ガスクロマトグラフィー分析が中心、最近ではガスクロマトグラフ・質量分析器(GC/MS)を装備しているところも多い。すごい時代である。
簡易測定器によるスクリーニングで引っかかることがあると言う。その際機器分析でどんな農薬が検出されたかを聞くと、0.?ppmのDDVPが検出されたという。確かにこれらのキットは物によっては0.?ppmのコリンエステラーゼ活性を阻害する農薬もあるが、通常は1ppm、2ppm、3ppm程度の農薬残留を測定するのに適している。コリンエステラーゼ活性阻害の強い殺虫剤が、必ずしも残留基準が低いとは限らないので、検査の判定がなかなか難しいところである。
この簡易測定器の現状での問題点は、ポジティブリスト制度施行で一律基準の概念が導入されたことである。先にも述べたが、こういったキットは農薬によって感度の強弱がある。だから、反応しないから無いともいえない事例が多くなり、結局のところ機器分析に頼らざるを得ない。それなら、最初から簡易測定は止めようかと言う話になってしまう。ますます機器分析に頼らざるを得ない状況にポジティブリスト制度が現場を追い込んでいく。そしてまた難問が待っている。
使用されている農薬がどんどん新しくなっている。それは何を意味するかと言うと、GC/MSでも測定しづらい農薬が増えると言うことである。イミダクロプリド(アドマイヤー)やメソミル(ランネート)など液体クロマトグラフィー(LC)、確認手段まで入れるとLC/MS(/MS)と言う話にもなってくる。
中国の食品工場にとって、GC/MSはとても高価な機器(職員の給料は月1万円から2万円)であるのに、さらにLC/MS/MSと言う話になると、どこまでお金を掛けたらいいのという話である。冷静になって考えれば、そもそも食品工場レベルでそこまでやる必要があるのかと言うことである。
それよりも何よりも、今でも技術者、担当者が充分機器分析、GC/MS分析ができているとは思われないのに、さらにLC/MS/MSでは装置メーカーさんは儲かるかもしれないが、中国国内あちこちに設置された残留農薬簡易測定器がほとんど役に立たなかった(一部では役に立ったと思われるが)の二の舞、いやさらに壮大な無駄を生み出す気がしてならない。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)