GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
先日開催された、筆者も末席を汚しているある委員会でのこと。Codex食品表示部会(CCFL)において15年を費やしても結論が出せないGM食品表示が話題になった。その時、「GM食品表示を義務化している国は、日本以外に世界でどれくらいあるのだろうか?」という質問を座長がされた。もちろん、誰も即答なんか出来っこない。そこで、分かる範囲で調べてみましたよ、かなり大変でしたが……。
アジア州(48カ国、国数は財務省統計国名符号表2009年版に拠る。以下同じ)
<中国>義務表示。安全性証明書と組み合わされた原料5品目(ダイズ、トウモロコシ、ナタネ、ワタ及びトマト)とそれらを成分に含む加工食品を対象に、農業省が所管する。閾値はない。02年3月発効。
<香港>任意のガイドラインを06年10月から食品・衛生局が導入、閾値5%。GMO free表示は推奨せずゼロ・トレランスが課せられる。法制化を検討中。
<インド>公式にはBtワタしか承認されてこなかったため、輸入規制が先行しており、義務表示が検討されるも実現していない。
<インドネシア>義務表示化を99年に、閾値5%を02年に各々定めたものの、全く実行されていない。
<イスラエル>義務表示案が02年11月に保健省から提案されたが、産業省の反対で頓挫し、現在まで実現せず。閾値案1%。
<日本>義務表示。DNA、タンパクが残存する一部加工食品が対象。閾値5%までで、原料のIPハンドリングを条件にNon-GMO任意表示を許す。農水省(JAS法)・厚労省(食品衛生法)主管。01年4月発効。
<マレーシア>保健省による義務表示がバイオセーフティ法施行に合わせて実施されると、07年に伝えられたが実現していない。閾値3%を予定。
<フィリピン>任意表示。05年から複数の義務表示法案が議会に諮られているが、決着していない。
<サウジアラビア>義務表示。03年より農業省主導。05年に法改正し閾値1%を追加。
<シンガポール>非常に複雑な問題と認識した政府は、世界の動向を慎重に観察中、とか。
<韓国>義務表示。01年3月農産物(農林省主管)、同年7月に加工食品(食品医薬品安全庁主管)に施行。閾値3%だが、Non-GM表示にはゼロ・トレランスを要求。
<スリ・ランカ>義務表示。07年1月より保健省主管。閾値0.5%。
<台湾>義務表示。衛生局主管によりダイズ・トウモロコシのみを対象に、原料(03年)、低度加工品(04年)、加工食品(05年)と段階的に施行。閾値5%。
<タイ>義務表示。03年5月施行、食糧医薬品局主管。全体または上位3成分中の1つの閾値5%、Non-GM表示は禁止。
<アラブ首長国連邦>現行制度なし。表示は検討中だがCodexが決定次第、それに整合させたいと当局者。
<ベトナム>義務表示。閾値5%で食品局が所管。03年3月発効。
ヨーロッパ州(46カ国、*印はEU非加盟)
<EU加盟27カ国>義務表示。90年の(旧)環境放出指令 90/220/EEC以来、様々な変遷を経て、現在は03年9月のGM食品と飼料規則1829/2003およびGMOの表示とトレーサビリティ規則1830/2003により律せられている。DNAやタンパクが残存しない油などを含む全食品に対する閾値は0.9%だが、公式に承認手続きを経ていなくてもEUとして安全性評価済みのGMOには0.5%の閾値が認められている。飼料は表示対象だが、畜産品は表示不要。同じく酵素(チーズ用)など微生物が加工助剤として用いられ、最終製品に残留しない場合も表示不要。<*アルバニア>栽培・使用・輸入を禁止中。
<オーストリア>栽培禁止中。
<*ボスニア・ヘルツェゴビナ>輸入禁止中。
<ブルガリア>07年1月EU加盟以前の05年10月から義務表示(閾値1%)。ハンガリーの栽培禁止を支持(自国は法的に禁止してはいないが、現実的に栽培せず)。
<*クロアチア>義務表示。05年よりEUに準拠。
<フランス>07年10月より栽培禁止。09年4月より食肉・乳製品にNon-GM表示認める。
<ドイツ>09年4月より栽培禁止。
<ギリシャ>栽培禁止中。09年5月から2年間延長。
<ハンガリー>栽培禁止中。
<ルクセンブルグ>栽培禁止中。
<*ノルウェー>義務表示。99年以来で、閾値はEUに倣い0.9%と0.5%(未承認)。
<*ロシア>義務表示。DNA・タンパク残存ベースで02年9月施行、04年6月閾値0.9%に改正。
<*セルビア>義務表示。05年以来で閾値0.5%。栽培も禁止中。
<*スイス>義務表示。99年より閾値2%、05年に0.9%に更新。Non-GM表示の閾値0.2%。
<*トルコ>01年1月より輸入禁止(Non-GM輸入証明が必要)。
<*ウクライナ>義務表示。09年5月13日の閣議決定により、同年7月1日から閾値0.1%で実施されると現地新聞報道されている。
南・北アメリカ州(50カ国)
<アルゼンチン>任意表示のみ。
<ブラジル>義務表示。04年4月より。閾値1%。
<チリ>任意表示のみ。閾値1%。99年の法令化は国内産業と米国の圧力で頓挫。
<カナダ>米国に大筋準拠するも、04年4月より閾値5%(Non-GMにも適用)で任意表示を認める。NGOなどを中心に表示義務化を求める声も強い。
<メキシコ>立法がしばしば検討されるも論争中(らしい)。06年3月のカルタヘナ議定書MOP3では、パラグアイと共にNAFTAを遵守したい立場から義務表示に猛反対し、米国の隠れ馬と揶揄された。
<米国>01年1月に任意表示ガイドラインが公表されたのみ。組成・成分、栄養価、用途に重大な変更があった場合のみ他法令から表示が必要となるが、GMという技法に対する表示ではない。
<ベネズエラ>07年6月に大統領が栽培禁止を発表した。
アフリカ州(59カ国)
<アルジェリア>00年より輸入・商業利用を禁止中。
<アンゴラ>04年より輸入・商業利用を禁止中。
<ベナン>02年より輸入・商業利用を禁止中。
<カメルーン>義務表示。03年決定。
<エチオピア>全面禁止中。
<マリ>バイオセーフティ法案を検討中。
<モーリシャス>09年3月、バイオセーフティ法案フレームワークを発表。
<モロッコ>01年より輸入禁止。
<モザンビーク>加工した(挽かれた)食糧援助品を除き輸入禁止。
<南アフリカ共和国>02年より米国に倣った任意表示制だが、義務化を検討中。
<ザンビア>02年より輸入禁止。
<ジンバブエ>02年より加工した(挽かれた)食品を除き輸入禁止。
大洋(オセアニア)州(25カ国)
<オーストラリア・ニュージーランド>義務表示。01年12月施行。閾値1%。主管は、ANZFA(オーストラリア・ニュージーランド食品基準局)からFSANZ(オーストラリア・ニュージーランド食品基準機関)に引き継がれ、細かな部分改訂は頻繁に行われている。
<後記>纏めてみて気がついたのは、一言にGM食品(義務)表示と言っても、各国の実情や事情により、規制や運用にはかなりの相違があることだ。例えば、一部アジア諸国なども採用する日本の閾値5%は、EUの0,9%と比較して甘いとよく批判される。しかし、日本とEUは同じ未承認ゼロ・トレランスでも、公式承認前(EUで安全性確認済み)GMOの混入(AP)についてEUは0.5%の閾値を与えている。これでは、アフリカはじめ途上国に対しなんらかのモデル提示が必要だとしても、Codexが長年纏めきれないのは無理もないだろう。
本稿を作成するに当たり、主に参照したのはUSDA/FASのGAIN Report (米国政府の他国調査の底力には脱帽!)、それに06年と07年のNGOおよび米国民間調査資料(これらの資料をご提供頂いた皆様に深謝)。さらに、直近の海外報道から一部を補足した。もちろん、すべての国に正確な最新情報が反映されている訳ではない点はご容赦下さい。あくまで「たたき台」とご理解頂きたく、内容に誤りがあれば全て筆者の責任です。お気づきの点があればFoodScience編集部 までご連絡頂ければ幸いです。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)
<2009.6.22.訂正>早速読者からご質問があり、EUの未承認APに関して確認したところ、相手先国承認済みは当然として、EUが安全性確認を終えてはいるが、公式承認にはまだ至っていないGMOに対する閾値が0.5%でした。承認手続きにあまりに時間がかかりすぎるための妥協のようです。そのように本文を訂正させて頂きました。
<2009.7.16.追記>米国のReview of International Economics 誌Volume 17 Issue 3 (August 2009)には、世界のGM食品表示政策の相違等を論じたExplaining International Differences in Genetically Modified Food Labeling Policies* というタイトルの論文が掲載されています(筆者)。