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GMOワールド

年末・年始のGMOワールドを整理・整頓(上)〜ヨーロッパ編

宗谷 敏

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 毎年、年末・年始は執筆期間が空いてしまうのでキャッチアップするために、昨年から世界をブロック別に分けて日付順に並べるログ形式で世界の動きをスナップショットしている。という訳で、今年もこれを試みるが、先ずは注目のヨーロッパの2008年12月と2009年1月を眺めてみよう。

<ヨーロッパ編>

注記:EU全体に係わることは日付→機関、主要国の動きは国名→日付で時系列に並べ、日付の後に<キーワード>を追加してあります。なお、リンクは適宜選択。

 12月1日<EFSA>は、米Pioneer Hi-Bred International社が輸入を申請した害虫抵抗性と除草剤耐性の掛け合わせGM トウモロコシ 59122 x NK603系統をリスク評価した結果、健康と環境のために安全であると結論した。

 12月4日<欧州委員会>は、Monsanto社のGMダイズRoundupReady2 soybean (MON89788)の輸入を承認した。11月19日の農業閣僚理事会による承認失敗を受けて、異例のスピード承認となった。

 12月4日<欧州環境閣僚理事会>は、GMOのリスク評価をレビューしてきたが、環境影響評価及びモニタリングを強化する、GMOの社会的な影響も評価する、EFSAが独占してきたリスク評価に加盟国の意見も反映させる、種子へのGM混入率に閾値を設定する、禁止されているGMフリーゾーンの設置を認めるなどの結論 を出した。

 12月4日<EFSA>は、オーストリアのGMトウモロコシMON810に対する緊急輸入制限条項適用には,科学的根拠がないと欧州委員会からの08年4月18日の諮問に答申した。また、GMトウモロコシNK603 x MON810を長期給餌したマウスに生殖障害が起きたとするオーストリアの研究結果(08年11月11日)に関しては、示されたデータだけからではいかなる結論も導き出しえないとコメント した。

 ドイツ12月4日<BASF社>は、通常サカナに10〜20%含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)を15%含むナタネ(Brassica napus)(油)の開発に成功したと公表した。

 スウェーデン12月8日<GMOフリー表示>は、GM成分を微量含むものもあり、消費者をミスリードして「紛らわしい」と政府機関が報告書で非難した。
12月9日<欧州裁判所>は、欧州規則に定められたGM作物栽培国内法整備の6年に及んだフランスの遅延行為に対し、1千万ユーロ(1,285万米ドル)の罰金を課した。

 スイス12月9日<GM食品禁止令>は、05年に導入され10年11月に終了するが、さらに3年の延長を政府が計画中と報道された。

 スペイン12月9日<Lleida大学>の研究者がBtトウモロコシ導入9年後の非標的害虫が感染源であるトウモロコシウイルスの分布などを調査し発表 した。

 12月11日<欧州委員会環境委員会>が、除草剤耐性作物(サトウダイコン、ダイズ、ナタネ)をEUに導入した場合の査定に関するオランダの研究 を公表、除草剤使用量は減るが生物多様性への影響懸念もありと結論。併せて、GMトウモロコシの現在の隔離距離ガイドラインは、交雑防止には不十分というフランスの研究 やBtトウモロコシ栽培に伴う土壌中のCry1Ab毒素がミミズで浄化されるというドイツの研究 も紹介。

 オランダ12月18日<Wageningen大学研究所のPlant Research International (PRI)>は、ジャガイモ疫病菌に抵抗性のあるGM(cisgenic)ジャガイモの開発に成功し、09年に栽培試験を計画中と発表した。

 12月18日<欧州議会と閣僚理事会>が、現行の指令91/414/EECに代わる新農薬規制法で合意 。厳しすぎる農薬の禁止や代替は、域内農業に深刻な打撃を与えるだろうと懸念する声 も根強い。

 12月18日<EFSA>は、米Monsanto社が輸入を申請した害虫抵抗性GM トウモロコシ MON89034系統をリスク評価した結果、健康と環境のために安全であると結論した。
ベルギー12月30日<GMポプラ>をバイオ燃料用に開発中のフランダース・バイオテクノロジー大学間研究所(VIB)の試験栽培申請が枢密院(The Council of State)の反対に遭い難航中。

 英国12月19日<DEFRA>は、Somerset州の(非GM)ナタネ試験圃場で、GM種子のコンタミネーションが発見されたと発表 した。

 1月1日<EU議長国>がフランスからチェコ共和国に交替した。なお、09年後半はスウェーデンが就任の予定。
ポーランド1月1日<GM栽培法改正>が発効、一見EU規則に従った形だが、実際は農家のGM種子栽培をより困難にすると言われている。

 英国1月3日<Wales州>の生物学者が州政府のGMフリーゾーン宣言に反抗して自分の土地に密かにMON810を栽培したと主張し、GM反対派は告訴しろと激怒した。1月19日<欧州農業閣僚理事会>は、独Bayer CropScience社の除草剤耐性ナタネT25および日サントリーグループの豪Florigene社のGM色変わりカーネーションMoonaquaの輸入承認に失敗 した。

 1月21日<欧州委員会>は、2系統のGMトウモロコシ、すなわちスイスSyngenta社のBt11ならびにPioneer Hi-Bred International社(米DuPont社の子会社)と米Mycogen Seeds社(米Dow Chemical社に帰属)のTC-1507に対する域内栽培承認を提案 、専門家会合の審議へ。同時に、既に域内栽培が承認されているGMトウモロコシMON810の栽培を08年2月から禁止しているフランスと、05年からの緊急輸入制限条項適用を継続しているギリシャに対して、2月に専門家会議で撤廃させるかどうかを検討すると発表した。なお、ハンガリーの輸入・栽培禁止は、3月に欧州環境閣僚理事会において撤廃させるかどうかが論じられるが、ハンガリーは欧州委員会に激しく抵抗している。

 英国1月22日<DEFRAの最高科学顧問>Bob Watson博士が、GMが気候変動と戦い世界の人口を養うのを手助けするだろうと講演。

 英国1月26日<Winston卿>といえば、英国が世界に誇るXenotransplantation(異種移植)の第一人者だが、ヒトへの臓器提供を目的として拒絶反応を抑えるためにヒトの遺伝子を導入したGMブタの育成計画を発表した。

 1月27日<欧州議会>の気候変動に関する円卓会議で、EuropaBio代表者が農業バイオテクノロジーには域内の問題解決に果たすべき重要な役割があるが、科学技術企業の育成振興に失敗し続けていると主張した。

 英国1月27日<英国内のGM試験栽培圃場>の所在地を秘匿する立法措置を食用GM作物研究者が要求。EU規則では公表が原則だが、相次ぐ圃場破壊活動にたまりかねた結果。

 ドイツ1月27日<BASF社>は、米Cibus社と協力して、GMを使わない突然変異技法で除草剤耐性を与えたClearfieldシステムのナタネを改善(カナダでは既に実用化)し、早ければ13年にヨーロッパ市場に投入すると発表した。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)