GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
夏休み明けのGMOワールドは、世界各地で様々な動きがあった。クロニクル形式でまとめてみようかとも考えたが、今後を占う上で大きなウェイトを占めるかもしれない公表がEUと米国においてあったので、取り敢えずこれらに絞って紹介したい。欧州共同研究センター(JRC)のGM食品・飼料のヘルスリスクのレビューに関する報告書と、米国食品医薬品局(FDA)のGM動物の商業化ガイダンス案の公表である。
2008年9月8日、欧州委員会は独Bayer Cropscience社の除草剤耐性GM大豆A 2704-12に対し、10年間の輸入と食品および飼料への使用をデフォルト承認した。A 2704-12は、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランド、中国、台湾、日本、ロシアおよび南アフリカがすでに輸入を承認し、米国とカナダでは栽培が認可されており、これで09年クロップからの商業栽培が懸念なく可能となった訳だ。
しかし、さらに注目されるEUの動きが、2日後の08年9月10日に来る。EUの科学技術研究機関であるJRCが、GM成分を含む食品と飼料はヒトや家畜が摂取するのに安全であるという報告 を発表したからである。
TITLE: GM study adds to pressure on Brussels
SOURCE: Financial Times, by Jenny Wiggins
DATE: Sep. 11, 2008
「EU scientific study gauges current approaches to addressing potential health effects from genetically modified food and animal feed」と題されたこの報告書は、06年11月に欧州議会と欧州委員会健康と消費者保護総局(DGSANCO)からの要請に基づき、欧州食品安全機関(EFSA)をはじめGMOの査定と評価に関係している20人の国際的な専門家パネルによってまとめられた。
パネルからの結論は、GM食品摂取による短期的および長期の影響に関する既存の証拠を大規模にレビューした結果「これまでのところ、規制上の承認プロセスに提出されたどのようなGM食品も、健康への影響を示すいかなる証拠も記録されていない」というものだった。
食糧危機を理由の一つとして推進を訴えてきた欧州委員会や英国政府などEUのGMO上げ潮派は、有力なカードをさらにもう一枚手にしたことになる。アンチGMロビーが流布してきた理由がない偏見と恐れの感情を無視して、事実の科学的証拠に依拠したGMOについての理解に基づく議論を促進すべきだという意見は説得性を持ち、承認の迅速化を迫られている欧州議会などのEUの政策部門は、さらにプレッシャーを受けるだろうと上記のFinancial Timesは分析している。
GMOについては、常に一歩先を行く米国に話を移せば、今までラボ内での実験に限定されており、ほとんどタブー視されてきたGM動物の商業化に向けて、慎重だったFDAが舵を切ったことが注目される。
http://news.yahoo.com/s/nm/20080918/us_nm/food_modified_fda_dcTITLE: FDA issues rules for genetically modified animals
SOURCE: Reuters, by Christopher Doering>
DATE: Sep. 18, 2008
08年9月18日に、FDAは、商業化を前提としたGM動物と畜産品の健康リスクと環境リスクの有無を、どのように査定していくのかという法的枠組みの提案を発表した。
GM植物規制と同じく、開発企業に対し上市前のガイダンスを提供し、肉、家禽と魚などは食品栄養成分などに変化がない限り義務表示は求めないというのが基本方針である。植物、動物を問わずGMOに対する基本的安全性は、既存の国内法体系により十分カバーされうるというのがFDAの揺るぎない理念だ。
米国内で開発が進められているGM動物は、成長を速めたサケ、飼料コスト削減や環境改善にリンの吸収性を高めたたり、ヒトの病気研究にモデルとなるブタ、天然痘とインフルエンザに対するヒトの免疫抗体生産あるいは狂牛病に抵抗性を持つウシ、乳からスパイダー絹を生産するヤギなどである。
成長を速める、栄養改善などの食品用途以外にも、臓器や体液にホルモンや免疫抗体のようなヒトや他の動物への医学用物質の生産(biopharm 動物)に区分され、さらに移植臓器提供や万能細胞などもスコープに入ってくる。
そして、バイオインダストリー協会(BIO)など専門家が指摘する通り、最も大きな利益を得るのは食品業界よりむしろ製薬業界だろう。なお、すでにラボで広範囲に利用されている実験用のGMマウスなどはFDAの関心外にあるようだ。
食用GM動物で商業化の先頭を切ると予想されているのは、米Aqua Bounty Technologies社のGM技術により成長を速めたスーパーサケだろう。商業化認可を渇望する同社は、すでに10年以上にわたりFDAに働きかけてきたが、これで09年からの上市の可能性も出てきた。
しかし、植物に比べ環境影響防止の難しさは措いても、食用GM動物に対する消費者の心理的抵抗感は、植物の比ではない。「ネズミの遺伝子を持つブタなんか食えるか!」とGM反対派はもっぱら心理的動揺を誘う作戦に出ており、08年11月28日に締め切られる60日間のパブリックコメントは大荒れも予想される。
FoodScienceの読者各位にGMとクローンの相違の説明は不要と思うが、FDAは08年1月15日に、ウシ、ブタおよびヤギに限り(体細胞)クローン動物由来食品は安全であると発表している。
この時のFDAの手順は、かなり時間をかけたものだった。クローン動物に対する安全性評価報告書とリスクマネージメントプラン案および畜産業向けのガイダンス案がセットで公表されたのは06年12月28日、90日間のパブリックヒアリングは30日間延長され07年5月3日まで継続された。
しかし、08年1月の連邦政府による安全性宣言にも拘わらず、消費者の宗教観や倫理的抵抗感を配慮したカリフォルニア州はじめいくつかの地方州政府は、クローン動物由来食品の禁止を宣言している。一般市場への流出・混入事故防止に納得のいく対策が講じられれば、医薬目的のGM動物は経済的効果もあって実用化の可能性は高いだろうが、食品用に限っては、連邦政府が始めて包括的規制案を打ち出したとはいえ、まだ紆余曲折を経ることだろう。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)