GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
2008年5月29日、OECD(経済協力開発機構)とFAO(国連食糧農業機構)から「農業アウトルック2008-2017年」が公表された。同報告書としては4回目のリリースになるが、今回が特に注目を集めたのは、08年6月3-5日にローマで開催されるFAO主催の食糧サミットにおけるベーシック・テキストの性格を併せ持つからだ。という訳で、この報告書については、各国メディアも競って様々な切り口で扱っている。
FAOの食糧サミットは、気候変動とバイオ燃料の食糧供給に及ぼす影響を論じるために当初は計画されていたが、いまや一部途上国で暴動まで引き起こしている食糧価格高騰問題がアジェンダのトップに入れ替わった。当然、OECD-FAO報告書も、食糧価格高騰の分析と対策に焦点が絞られている。
世界的に食品コストが急上昇しているが、食糧はこの期間も平行して増産されてきており、この問題は需要と供給の単純な経済関係では説明しきれないことを、この報告書は前提とする。その代わり、非効率な貿易政策、市場への過熱した投機、原油価格など生産と流通に直結するエネルギーコスト上昇などによる影響が主因であるとの分析がなされる。
この結果、08年2月にピークに達した記録的高値からは若干落ち着くものの、2008-2017年の食品価格は依然高止まりし、世界の貧しい人々の食糧へのアクセスを遮断するであろうと警告する。過去の10年と比較して、2008-2017年はビーフやポークで20%、砂糖で約30%、コムギ、トウモロコシ、スキムミルクで40-60%、バターと油糧種子で60%以上、植物油にいたっては80%以上の平均価格上昇が予測されるというのだ。油糧種子と植物油が突出した理由には、バイオ燃料も絡んでくる。
現在でも、およそ8億6200万の人々が飢えと栄養不良に苦しんでいるが、この食品価格高騰は22カ国を特に危険にさらすだろうと報告書は言及する。もっとも影響を受けるのがエリトリア、ニジェール、コモロ諸島、ボツワナ、ハイチ及びリベリア、次いでブルンジ、タジキスタン、シエラレオネ、ジンバブエ、エチオピア、ザンビア、中央アフリカ共和国、モザンビーク、タンザニア、ギニアビサウ、マダガスカル、マラウイおよびカンボジア、そして北朝鮮、ルワンダおよびケニア。
一方、この食糧危機への対策として報告書が推奨するのは、農業投資の増額と貧しい国に対し経済の多角化と政治・経済システムの改善を援助することである。同時に先進国に対しては、時に食糧援助の足かせともなる高価格維持や国内生産者保護を目的とした輸出税や禁輸など貿易を制限する政策を再考するよう求めている。また、バイオ燃料(エタノールとバイオディーゼルとも)需要が穀物、油糧種子、砂糖の価格を引き上げたとし、代替アプローチの採用を促す。
さらに、気候変動や水資源の有効活用と農業生産性や反収との影響を調べるよう勧めている。そして、GMOに関し「(途上国に対し)さらに利用できる可能性を提供する」と、肯定的評価を与える。これは、主に反収増加と環境ストレス耐性についての可能性であるが、GMOを落第生と決めつけた農業科学技術国際評価(IAASTD:International Assessment of Agricultural Science and Technology for Development)最終報告書とはまた異なった見解を提示する。
こういった流れから食糧サミットでは、バイオ燃料とGMOが特に論争的主題になるだろうという見方もある。バイオ燃料エタノールへの狂奔を責められそうな米国と、GMOに懐疑的な姿勢が途上国のGMO採用を潜在的に抑止しているとそしられそうなEUとの対立は、毎度おなじみの構図だ。
現に、米国を代表して食糧サミットに参加するUSDA(米国農務省)のEd Schafer長官は、08年5月29日に開催されたいざ出陣!の共同記者会見で、自国のバイオ燃料政策を擁護すると共に、すべての国が研究を拡大し科学ベースの規則を促進して、バイオテクノロジーを含めて革新的技術を奨励することを提案すると述べた(なお、GMOに関してはNHKの日本人女性記者が質問を出し、健闘している)。
Schafer長官のバイオ燃料擁護論は、燃料向けエタノール生産は食糧価格高騰要因の2〜3%しか占めていない、逆に1日百万バレルずつ高騰した原油の消費を減らしてきたというかねてからのUSDAの主張の繰り返しだ。ただ、08年5月1日に発表されたBush大統領の約800億円の緊急食糧援助増額など、米国がこの燃料向けエタノール批判にかなりナーバスになっていることは事実だ。
食糧サミットには、我が国福田首相はじめ40名以上の各国首脳が参加する。大国や有力陣営のポジショントークや内輪もめ、精神論だけの共同声明に終わることなく、具体的政策を是非提言してもらいたい。もちろん農業(問題)は、一般に考えられている以上にたいへん複雑なものだから、簡単に万能な解決論は見出せないことも良く分かる。しかし、途上国の飢えと栄養不足も、食糧価格高騰も明白に「いま、そこにある危機」なのだから。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)