GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
正月休みとカレンダーの配列から、一ヶ月以上執筆が空いてしまった。動きが激しく、しばしば予想を裏切るGMOワールドにおいて、このブランクは長い。限られたスペースでどうキャッチアップしようか悩んだが、昨年最後に書いたEUの年間ログ 形式で2回に分け世界の動きをスナップショットすることにした。なお、クローン技術に関しては、通常本稿では扱わないが報道量が多いため参考として入れていく。また、バイオ燃料を巡る動きにも多少触れておきたい。
先ず世界をブロック別に分けて日付順に並べる。今回は米国中心の北米、南米及びオーストラリア・ニュージーランドを取り上げたい。日付の後に<キーワード>を追加した。<GJ>は筆者お薦めの必読記事、<BF>はバイオ燃料の略。記事へのリンクは全部貼ると煩瑣になるため適宜選択し、直リンさせない場合には最後に(媒体名)を置いた。
<米国編>
12月17日<GJ・Monsanto>、Business Week誌12月6日号掲載の「Monsanto: Winning the Ground War 」 は、嫌われ者のバイテク巨人から世界一の種子会社へ変身した米Monsanto社を巡る出色の論評だが、日経ビジネスに邦訳 も載った。
12月19日<BF・エネルギー法案>エネルギー法案が成立(APなど)。
1月7日<知的財産権農家訴訟>98年に購入したGMダイズから自家採取した種子を99年と00年に栽培し、Monsato社への損害賠償金37.5万ドル支払いを不満として控訴していたミシシッピ州農家に対し、最高裁は地方裁判所と米国控訴裁判所の判決を支持し、Monsato社の勝訴が確定した(APなど)。なお、12月11日にはカナダ連邦裁判所も、同様のケースでオンタリオ州ダイズ農家に対し、Monsanto社へのC8800ドル(1エーカー当たりC160ドル)の損害賠償を命じている(CPなど)。
1月9日<BF・スイッチグラス>Nebraska大学Lincoln校の研究者が、必要とされるバイオ燃料の540%をスイッチグラスが供給可能と見積もる。脱トウモロコシのセルロース系エタノールへの期待高まるが、商業化にはまだ値頃感がない(Science Dailyなど)。
1月9日<BF>米ADM社、独Bayer CropScience社及び独Daimler社が、食料供給に影響しないバイオディーゼル共同開発で覚書を締結(SeedQuestなど)。
1月13日<GJ・BF>U.S. NEWS誌掲載の「The Pros and Cons of 8 Green Fuels」 は、代替エネルギー8種類の特質、利点と欠点を簡潔に比較整理しており便利だ。
1月13日<BF・General Mortors>米デトロイトで開催された北米国際自動車ショーでは、各社がエコカー開発をアピールした。米General Motors社は、非トウモロコシエタノール開発専業で廃材など様々な原材料からエタノールを得る酵素技術に特許を持つベンチャー企業米Coskata社への投資を発表する。現在はまだコスト的に競争力を欠く酵素利用セルロース系燃料へ舵(この場合、ステアリング?)を切ったことが注目された(USA Today他多数)。なお、トヨタは、プラグインハイブリッド車の開発を表明した。
1月13日<GJ・干ばつ耐性>Reutersが米Pioneer Hi-Bred International社と米DuPont社、Monsanto社と独BASF社、スイスSyngenta社などのバイテク開発メーカー各社の乾燥・干ばつ耐性への研究開発を特集している 。また、1月17日付Agriculture Onlineは、Syngenta社と米AgroFresh社の協力による干ばつ耐性を目的としたInvinsa技術開発について詳述している。
1月14日<GMニンジン>テキサス州のTexas A&M大学とBaylor医科大学の研究チームが、sCAX1遺伝子の組み換えにより通常のニンジンよりカルシウムの吸収レートが41%高いGMニンジンを開発 したと、全米科学学会誌(PNAS)に発表した。この技術を他の青果物にも応用することにより、果物や野菜による骨粗鬆症などの病気予防が可能となる。
1月15日<クローン>FDAは、体細胞クローン家畜(ウシ・ブタ・ヤギが対象、ヒツジはデータ不足で除外)とその後代種の肉や乳は在来のものと違いがなく、食品として安全との最終報告を発表した。ただしUSDAは上市への体制整備からクローン由来食品の販売はしばらく控えるよう通達した。食品業界も及び腰で、市販までにはなお数年かかるとの観測がもっぱらだ。科学的安全性と消費者の受容を拒む倫理や感情(米国ではGMOよりむしろ根深い)との間のジレンマは、商品選択のための表示要求へと今後つながるだろうが、安全で在来食品と変わらないものに義務表示は不要(「クローンフリー」任意表示は微妙)というFDAの不動の信念は揺るぎそうにない。
1月16日<GMタローイモ>ハワイ州では、Hawaii大学などが行っているGMタローイモの研究開発の10年間モラトリアムを決める法案に対するヒヤリングを求めて積極行動主義者らが国会にデモを行った(Honolulu Advertiserなど)。
<カナダ編>
12月17日<未承認GMコメ>Greenpeaceは、バンクーバーとモントリオールのスーパーで販売されていた米国からの輸入コメに、Bayer社のカナダ未承認GMコメが微量含まれていたと発表した(Vancouver Sunなど)。
<南米・ブラジル編>
12月11日<アマゾン破壊>この日、カバー記事が目立ったが、オリジナルは米Center for International Policy (CIP)が12月3日に発表した大論文 である。ブラジルを中心に南米に流入したGMダイズがアマゾンの熱帯雨林を破壊に導き、地球温暖化を50%促進するという告発。
1月17日<GMサトウキビ>ブラジルのバイオ燃料用エタノール原料はサトウキビだが、そのゲノム解析の成果及びエタノール生産に特化したGMサトウキビの開発について、独 GMO Compass がレポートしている。
<オーストラリア・ニュージーランド編>
12月18日<GM農作物支持声明>オーストラリア科学アカデミー(AAS)は、GM農作物を支持すると12月10日付新聞に声明を発表した(Ageなど)
12月20日<GMトウモロコシ認可>ニュージーランド食品安全機関(NZFSA)は、Monsanto社の飼料用高リジンGMトウモロコシの食品安全性を確認したと発表した(Scoopなど)。
1月3日<気候変動GMO>GM(カノーラ)栽培モラトリアム解禁に踏み切ったニューサウスウェールズ州とビクトリア州、モラトリアム堅持の西オーストラリア州とタスマニア州、迷う南オーストラリア州という構図を巡っては、この期間にも何本か関連報道がなされたが、特段目新しい動きには至っていない。そのような状況下、連邦政府農業大臣が干ばつ被害を受けた農民は、GMOの使用増加を考慮に含めで、気候変動に対処するための変更を受け入れなくてはならないと語った(AAPなど)。
1月15日<GMマツの木>ニュージーランド王立林業研究所で試験栽培されていたGMマツの木19本が、フェンスを破って侵入した何者かによって伐採されていたのが発見された。科学者たちはエコテロリズムの蛮行と嘆いている(New Zealand Heraldなど)。
次回は、ヨーロッパ、アジアおよびアフリカを纏める予定です。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)