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GMOワールド

GMO版「不都合な真実」-米国の不満とEUの憂鬱

宗谷 敏

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 やや早めに今年を回顧すると、地球温暖化問題とバイオフューエルブームが、他のあらゆる事象を押しのけてしまった感がある。GMOワールドもこれらにマスキングされてか、推進・反対両派とも大きく目立った動きは感じられなかった。そんな停滞感を嫌気する米国と英国の推進派サイドからの論評が10月末に相次いだので、今週はこれらを読んでみる。

 最初は、米国Washington, D.C.ベースHudson研究所のアナリスト2名による論評から。

参照記事1
TITLE: Biotech Deaths May Already Total Millions
SOURCE: The American Daily, by Alex & Dennis Avery
DATE: Oct. 25, 2007

 「2007年10月21日、ブラジルにおいてGM試験圃場を占拠していた反対派と警備員との武力衝突から双方に1名ずつ死者が出たため、高反収の農業を巡る対立はより険悪になった。不幸にも、近代的農業技術をめぐる衝突は、既に何百万人もの犠牲者を出している。

 毎年何百万もの生命を救うかもしれない新技術が『もっと多くの試験』を口実にする積極行動主義者に怯えさせられた規制当局者に抑えられてきた。

 *02年に干ばつに見舞われた南部アフリカでは、積極行動主義者が地方政府に米国の食糧援助はGMOを含む『毒』だと言いふらした。ザンビアでは政府が米国からの食糧援助物資を封印したが、後に暴徒により開放させられた。

 *子供を盲目や栄養失調死から救えるゴールデンライスは、8年前にScience誌に発表されたが、まだ農家は入手できない。このコメは環境への悪影響や栽培する貧しい農家の負担なしに貧しい人たちの何百万もの生命を救えると開発者は言う。にもかかわらず、Greenpeaceはじめ環境保護グループは、ハイテク種子で救われるよりは人々が死ぬ方がマシとばかり、このコメとあらゆるGM種子に強く反対する。

 *アフリカ諸国は、トウモロコシの根に寄生し農地の4000万ヘクタールを荒廃させているウィッチウィードを克服するはずのGM種子の輸入を拒んだ。このため、International Maize and Wheat Improvement Centerは除草剤イマザピルに耐性を持つ非GM種子開発に余分の10年を費やさなければならなかった。新しい種子は、確実に4倍の反収増をもたらした。

 *アイルランド政府は、1840年代に100万人以上が餓死し、さらに100万以上が国外へ脱出したジャガイモ飢饉の原因となったジャガイモ疫病に抵抗するGMジャガイモの試験栽培を拒否した。研究者は、50年も前にジャガイモの野性近縁種からジャガイモ疫病抵抗性を発見したが、それを国内でジャガイモに付与するのには成功しなかった。現在、3つの大学がジャガイモ疫病抵抗性ジャガイモを育成しているが、ジャガイモ飢饉被害国は、それらの栽培を許さないだろう。ジャガイモに依存するブルンジのようなアフリカの国も栽培しないだろう。より悪性のジャガイモ疫病菌が英国で抑止されないままでいる。

 機械破壊主義崇拝の戯画的な力の前に、何人の人々が死ななければならないのか? ゴールデンライスの果てしない試験がそれを必要とする家族に配られるのを許す前に、何人の無力な子供たちが盲目にならなければならないのか?

 Greenpeaceと世界野生生物基金(WWF)が、ただ熱帯雨林についての説教だけのために、高価すぎるソーラーパネルや風車によって近代文明とその長い寿命を巻きもどそうとしていることを世界はいつ気がつくのだろうか? 緑の革命とバイオテクノロジーの高反収がなかったなら、飢えた人々は低反収の農作物のために世界の残る雨林をもっと早く伐採することを、彼らは見誤っている。」(最初の記事抄訳終わり)

 次の論評は、英国のScience Business紙に掲載されたヨーロッパのGM受容に関する女性サイエンスジャーナリストの見解である。

参照記事2
TITLE: Don’t let the GM crop wars obscure the agbiotech vision
SOURCE: Science Business, by Nuala Moran
DATE: Oct. 31, 2007

 「昨年ヨーロッパにおけるGM作物の栽培面積が77%拡大したニュースは、技術の受け容れを推進してきた主唱者には一筋の光明だ。しかし、ヨーロッパは農業バイオテクノロジーへの研究と投資や商業部門を発展させることに失敗し、費用がかかった論争に落ち込んだままだ。

 このこぼされたミルクは重要な経済的損失をもたらしているが、もっと大きな問題は1980年代の第1世代GM作物の技術について継続している議論が、未来のもっと洗練された農業バイテク開発に対しても大規模な道路封鎖を行ってしまっていることだ。

 ヨーロッパの反GMの固定観念は、持続可能性を促進して環境を保護するだろうバイオテクノロジーの決定的な進歩を妨害している。第1世代のGM作物に対する行き詰まりにがんじがらめになったヨーロッパは、技術の進歩に気がつくのに失敗している。

『農業バイテクへの嫌悪』
 これらの初期製品は本当に魅力を欠き、ヨーロッパで栽培する条件には合わなかったかもしれない。しかし、このような疑いが農業バイテクのすべての局面に対し嫌悪を発展させてしまった。もし大衆が『これっきり』判断基準で、初期のモデルはレンガほども大きかったからと携帯電話を拒絶していたらどうなっただろう。

 2030年までに化学製品と資材の約3分の1が生物学的ソースや天然の触媒を通して生産されるだろうと見積もられている。これらの達成は、収益を向上させ産業的処理を容易にする新規植物の開発に依存するだろう。しかし、GM作物への反対運動が、持続可能な工法を発展させるために応用されたバイオテクノロジーのより大きなビジョンを不明瞭にし続ける。地球温暖化現象と戦うためのバイオ燃料、医療用タンパク質、酵素やバイオポリマーの生産工場、−第1世代の後に続く従弟たち−反収を増やし、そして生産に不適だった土地を利用可能にするGM植物。

 バイオ農作物の受容を勝ちとることの失敗は、リスクに対する公共の嫌悪に帰着した。

 しかし、大衆は告げられるべきだ:なにもしないということはもっと危険である。

 もちろんリスクはある、そして次世代バイオテクノロジーの開発と応用には逆行もあるだろう。それが、開発される以前に製品を評価し、商業化されたときモニタリングを行う規制管理者を私たちが持つ理由だ。

 しかしながら逃れられない真実は、これらの緑の技術を応用しないことの社会的影響は、環境でも経済でもより大きいだろうということだ。」(2本目の記事抄訳終わり)

 EUでは、農業の「緑のバイオ」と工業プロセスの「白のバイオ」、医療の「赤のバイオ」という区分をしているが、この論表は改めて「緑」が全ての基本と主張している。米国の不満とヨーロッパの憂鬱は、まだまだ続くようだ。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)