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3議題ともステップ5/8へ進む–Codex第7回バイオテクノロジー食品特別部会

宗谷 敏

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 2007年9月24日から28日まで、千葉の幕張メッセ国際会議場において、52カ国および17団体から約200名が参加しCodex第7回バイオテクノロジー応用食品特別部会(TFFBT)が開催された。Codex部会の中で、唯一日本が議長国を務める会議であり、既に厚労省のホームページには、結果概要が公表されている。特筆すべきは、扱われた3つの議題のすべてがステップ5/8へ進み、この結果、来年予定されていた第8回は原則的に開催されない合意が達成されたことだ。

(1)GM動物由来食品の安全性評価ガイドライン原案および(2)(既存の)GM植物由来食品の安全性評価ガイドライン付属文書となる栄養又は健康に資するGM植物由来食品の安全性評価原案については、上記結果概要を参照願いたい。9月30日現在、筆者の目に触れた本特別部会に関する報道は下記2本だが、いずれも(3)GM植物由来食品の安全性評価ガイドライン付属文書となる微量に存在するGM植物の安全性評価原案を中心に報道しており、あらゆる国が国際貿易上直面するこの問題に対する関心の高さを反映している。

参照記事1
TITLE: UN body wants data sharing on GMO crops
SOURCE: Reuters
DATE: Sep.28, 2007

参照記事2
TITLE: CODEX Paving The Way For Safety Assessment Of Products With GM Low Level Presence
SOURCE: Medical News Today
DATE: Sep.29, 2007

 今までの経緯は、昨年の拙稿を参照願いたい。当初、GM微量混入を認める閾値をどうするのか? など激論(というよりまず合意不可能)が予想された。しかし、閾値などのリスク管理には踏み込まず、各国が自国の規制制度の中でこの付属文書を「どのような場合にどのような形で利用するかを決定できる」と原案に明記された時点で、ワーキンググループなどの関心は「データ及び情報の共有に関する指針」の方へ移った感があった。

 筆者が特に興味を持って見守ったのは、記載事項にディテクションメソッド(検知方法)が含まれるかどうかであった。これを欠いては「未承認GMO」のリスク管理は、理念のみの画餅に過ぎないからだ。結論的には「可能な場合には記載すべし」となったが、各開発メーカーは、種子生産の段階で管理上の理由から検知方法を持つのが一般的だから、かなりの確率でFAOのポータルサイトに公表されると見てよいのだろう。

 未承認ゼロトレランスに基づく従来からのリスク評価システムが維持されることを本議題採択の条件としていた日本とEUが、直ちに規制制度を変更することはありそうにない。しかし、日本とEUではやや立場が異なる。

 既に多くのGMOについてリスク評価を行ってきた日本は、今後輸出国側の承認とのタイムラグを無くすことに注力し、ますます増えてくる掛け合わせ品種(日本とEUはリスク評価が必要、親の安全性が認められていれば米国などは不要、米Monsanto社と米Dow AgroSciences社との技術提携により10年までに8トレイトを含むSmartStaxコーンも登場する)に用心すれば、この付属文書のお世話になることはまず無いだろう。

 一方、モラトリアムの後遺症で、承認済みGMOの数が圧倒的に少なく評価システムが複雑で時間のかかるEUでは、上記2本目の記事中のヨーロッパバイオのコメントにある通り、この付属文書を梃子に未承認ゼロトレランスを再考するよう求める声が、産業界から高まる可能性がある。

 特に米国からの飼料(原料)輸入を阻害されているEUの畜産業界などにとって、GMO承認の遅れは致命的(07.9.26.All about Feed.net)だ。TFFBTが満場の拍手の裡に閉会した9月28日、欧州株式市場では製糖・甘味料大手の英Tate & Lyle社が大きく株価を下げた(07.9.29.Times)。「原料トウモロコシの価格上昇とドル安から収益減が見込まれ業績見通しが悪化」との理由が伝えられているが、米国からの(未承認GM由来)コーングルテン禁輸もその一因と見られている。

 こうして背景を辿れば、欧州委員会とEFSA(欧州食品安全機関)による「飼料のGM成分は畜産製品に移行しない」という07年7月20日の声明には、深い意味が込められていることが伺える。

 今後の展開もいろいろ注目されるが、なにはともあれ、あと1回のTFFBTを余して(主催国日本だけでも約5000万円分の経費節約とか)3議題の合意に漕ぎつけた吉倉 廣議長並びにこれを補佐した事務局の手腕と努力が賞賛に価することに異論を挟む余地はないだろう。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)