GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
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英国デボン州Exeter大学研究チームは、花粉を運ぶ風の影響を考慮したGM作物と非GM作物とのクロスポリネーション(異種交雑)の可能性に関する研究を実施した。この研究は、英国Natural Environment Research Council: NERCから資金提供を受け、2007年6月1日付米国Ecological Applications誌に発表された。
参照記事1
TITLE: GM field trials ’underestimate potential for cross-pollination’
SOURCE: Natural Environment Research Council
DATE: June 1, 2007
参照記事2
TITLE: Alarm as GM pollen wafts way beyond the official buffer zones
SOURCE: Daily Mail, by Sean Poulter
DATE: May 31, 2007
もちろん完全に天候要因を網羅した実地での試験栽培は、時間とコストがかかりすぎて現実的には不可能だ。研究チームは、花粉の移行に対する風の影響を分析するために理論的なコンピュータモデルを用いた。チームは、このモデルがクロスポリネーションを予測するために汎用性を持ち、使用可能だとしている。
具体的には、空中の花粉の挙動を予測するために英国とヨーロッパ各地測候所から集めた風速と風向のデータを用い、トウモロコシ、ナタネ、イネ、サトウダイコンを対象として考察が施された。調査結果は、GM作物が風上で栽培されているか、非GM作物の開花期に風が吹くかなどの条件が、クロスポリネーションの量に大きな変化をもたらすことを示した。
この結果、英国政府が5年かけて行ってきたFSEs(農場規模評価)などは、GM作物試験圃場が非GM作物の風上に存在した場合、クロスポリネーションの可能性を過小評価しているかもしれないと推測し、これに基づく従来の緩衝地帯や隔離距離ガイドラインは不足している可能性があると論じている。
欧州委員会が推進している共存の概念は、域内の農家がGM農産物であれ、非GM慣行作物であれ、有機栽培作物であれ、自分が望む農法を採用できるようにするべきだ、というものだ。そのためには、安全性を確認した上で、GM農産物に混入の閾値を定めなければならない。
これは、播種用種子にも100%の品種的なピュリティ(純度)は保証できないのと同じ、ビジネス上の約束事である。GMに限らず慣行農法から有機農産物へのクロスポリネーションは、当然従来からあった筈だ。現在使用が許されている技術では、植物本来の性質に基づくクロスポリネーションを完全に排除することはできない。
英国政府や欧州委員会は、これ以下ならGMフリーであると認められる、有機も含めた非GM農産物へのGM混入の閾値として0.9%を提案し、このレートから緩衝地帯や隔離距離を試算している。例えば、他家受粉するナタネの場合、英国政府が推薦する緩衝地帯は35メートルであり、混入率を0.1%まで減らしたければ58メートルの緩衝地帯を設けるべきだとしている。
しかし、Exeter大学の研究では、このレベル達成には500メートルが必要と考えられ、トウモロコシの緩衝地も現政府計画の110メートルから、7倍から8倍拡大することが必要とされるかもしれないことを示唆する。2年以内のGM商業栽培を目指す英国政府の計画に対し一石を投じた形だ。Friends of the EarthなどGM反対派は、GM農業許可見直しを政府に要求し、新たにGM栽培モラトリアムを求めて勢いづいている。
GM栽培が広範囲に及んだ場合の風媒によるもう一つの懸念が、除草剤耐性GM植物由来のいわゆるスーパー雑草の出現である。効かなくなる除草剤は当該の一種類だけなのだが、米国におけるMonsanto社のラウンドアップ(成分グリホサート)では、既に耐性雑草の問題が度々指摘されてきた。
ターミネーター技術が封殺されている現在、これに代わるさまざまな抑止手段が考案されているが決定打は出ていない。そんな中で、米国Nebraska大学Lincoln校研究者たちが4年前に発見した同じMonsanto社の除草剤成分ジカンバ(MDBA)に耐性を持つバクテリア由来の遺伝子をGMで植物体(ダイズなど)への導入に成功したというニュースが流れた。
参照記事3
TITLE: Geneticists create ’next generation’ of GM crops
SOURCE: Nature
DATE: May 24, 2007
紙数が尽きたのでいずれ稿を改めたいが、実用化の予定は2011年であり、耐性雑草に対する新たな戦略展開に期待を持たせる話題だろう。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)