GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
韓国は、日本のGM食品表示制度をほとんどそっくり真似しており、閾値のみ日本より2%低い3%に押さえることで僅かにメンツを保っている、という話は良く聞く。しかし、実態は明らかに違う。もっとも真似してはならない日本のGM表示制度のおかしな部分は、賢明にもちゃんと捨てているのだ。
参照記事1
TITLE: S. Korean gov’t orders labelling of all GMO products from late June
SOURCE: Yonhap News
DATE: March 28, 2007
韓国政府は、来る2007年6月29日から遺伝子組換えされたすべての製品は明白に表示されなければならない、と述べた。記事にはないが、韓国のGM食品表示は農産物と加工食品とで政府所管が異なる。これは、農産物のみを対象とした農林省(MAF:Ministry of Agriculture & Forestry)の話だ。01年3月から施行された現在の規則では、GMダイズ、(ダイズ)モヤシ、トウモロコシとジャガイモだけが義務表示の対象農産物なので、ワタやナタネなども追加すると読める。
一方、加工食品については韓国食品医薬品安全庁(KFDA:Korean Food and Drug Administration)が、DNAや新規たんぱく質が残存する26種類ほどを01年7月から義務表示対象にしている。KFDAに確認したところ、今回の改正に表示対象加工食品の拡大は含まれないとのことだった。これらのGM食品表示制度は日本のそれに似ているが、意図せざる混入が許される閾値は3%で日本の5%より厳しい。
しかし、韓国と日本のGM食品表示制度には、一つ決定的な違いがある。それはNon-GMという表示についてだ。ご存じの通り、日本ではGMOの混入率5%以下の場合、Non-GMという任意表示が許されている。韓国はどうか? 実は、韓国ではNon-GM任意表示はゼロトレランスなのだ。優良誤認という考え方が、日本よりはるかに厳しく、食品企業もNon-GM表示には二の足を踏む。
農水省食品表示問題懇談会遺伝子組み換え食品表示部会が、大迷走した挙げ句1999年8月にようやくまとめ上げた日本の表示制度は、経済性を含めた実行可能性という観点からはおそらく世界中でもっとも良くできている。しかし、この制度には出発点から二つの大きな問題点があり、結果的に食品業界と消費者をミスリードする弊害を招いた。
先ず、第一の過ちは、農水省が「このGM食品表示制度は消費者選択のためで、日本政府が安全性を確認しているのだから決してGM食品の安全性のためではない」と主張しながら、そのための説明努力を怠ったことだ。つまり、従来の農産物と同程度には安全だと政府自身が確認したにも拘わらず、安全性に差異があるのでは? と消費者を惑わせる表示制度を作ってしまったのだ。
99年当時、先見性のあった一部の食品業界からは、消費者に対し安全性のための表示だという誤解を絶対に招くから、今表示義務化するのは時期尚早だというパブリックコメントが提出されている。表示制度を作ることには反対はしないが、GM食品の安全性についてもっとキチンと消費者やメディアの啓蒙を行ってからにしろ、という意見であった。
例えばインターネットのフリー百科事典であるWikipediaのGenetically modified foodの項目の最初の部分には「EUと日本のようないくつかの国の政府がGM食品からの利益より危険を強調して、表示やトレーサビリティを義務化している」と記述されている。日本はGM食品を危険と見なして表示させている、という海外報道も時々目にする。今や、誤解は既成事実化し、しかもインターナショナルだ。
第二の過ちはお節介にも、Non-GM任意表示を制度化したことだ。このため、多くの食品業界はこの表示獲得に殺到した。韓国の3%も、EUの0.9%も、本来GM義務表示のための閾値であり、記号的にその意味しかもたない。米国やEUにおいても、GMOフリー表示は可能であるが、韓国同様ゼロであることを証明するためのハードルが高いから、ごく一部の健康食品などに見られるだけだ。ところが日本の5%だけが、Non-GM任意表示のための免罪符という全く本来の意味から逸脱した記号・目的に使われ、この本来とは逆の読み方について誰もなんの疑問も抱かなかった。
本来、5%に閾値を定めたGM義務表示だけに留めれば、その表示が無いのが制度上のNon-GMだと一般消費者はスンナリ理解できる。ところが、日本の店頭には、Non-GMと無表示が氾濫し、ほんの少数のGM表示が並んだ。これでは、Non-GMと無表示の区別が消費者にはつかない。甚だしい誤解は、本来Non-GMである無表示品はNon-GM表示が無いためGMなのではと誤解を受け、ますます業界のNon-GM表示志向に拍車を駆けた。
当時の状況を考えれば、Non-GM表示は国産振興につながると短絡思考した永田町の族議員筋から圧力がかかったであろうことは容易に推察できる。だから農水省だけを責めるのは酷なのだが、ここは模倣を避け、Non-GM表示をゼロトレランスにした韓国の勝ちである。
5%までのNon-GM任意表示を認めないでおいたなら、今日のように「5%も入っているのにNon-GMとは騙された、詐欺だ!」といった一部の論調は出てこなかったろう。この表示制度を決めた表示部会では賛成に回った消費者団体委員までが、今頃になってこの表示制度はおかしいなどと平気で発言している。妥協の労作ではあるけれどGM食品表示制度までが、東洋の神秘であるニッポンなのである。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)