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GMOワールド

春は名のみのクローンの嵐〜日・米共同開発BSEフリーウシなど

宗谷 敏

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 昨2006年12月28日米国食品医薬品局(FDA)が公表し、パブリックコメント募集中の「体細胞クローン動物由来食品は安全、表示も不要」とするリスク評価報告書は、クローン食品商業化への第一歩と考えられ各方面にインパクトを与えた。年が改まった現在も、宗教・倫理的問題を含め本件に関連する報道を目にしない日はない。筆者はGMOを総題に冠しているので、本稿でクローンを書くつもりはないが、GMとクローンの併せ技となるとちょっと食指が動く。

参照記事1
TITLE: Scientists Announce Mad Cow Breakthrough
SOURCE: The Washington Post, by Rick Weiss
DATE: Dec. 31, 2006

 FDAのクローン食品報告書公表から3日後の06年12月31日、“Nature Biotechnology”に日・米の合同研究者チームが、BSEフリーの可能性を持つウシの開発に成功したという論文が掲載された。話題の企業は、日本のキリンビールの子会社である米国サウスダコタ州在のHematech社である。

 BSEは、ウシの持つ特定のたんぱく質プリオンの突然変異により発症し、伝染するリスクがあることが知られている。この研究チームは、特定の遺伝子の働きを止めてしまうノックアウト技法により、まずプリオンを作り出すウシの内在遺伝子が発現しない(ノックアウト)セルラインを設計した。ここまでがGM技術の応用である。ノックアウトマウスは医学実験用に有名だが、もちろんウシへは始めての試みである。

 次に用いられたのがクローン技術。このセルからのクローニングにより12頭のウシを誕生させた。これらのクローンウシは、プリオンを持たないため理論上BSEを発症しないし、伝染のリスクもないことになる。誕生2年目(20カ月)を迎え、途中で解剖検査された4頭を除き8頭が健在であり、通常のウシと健康的に変わった兆候が現在示されていないことが、USDA-ARS(The U.S. Department of Agriculture’s Agricultural Research Service)により確認された。

 ウシの平均寿命は15年であり、プリオンを発現させる遺伝子を欠くことによって、なにか異常が起きないかを検証するためには、あと3年程度の観察が必要とされている。米国においても、遺伝子組み換え動物の食品利用は、GMサカナの認可が長年凍結されたままで、クローン動物食品も冒頭の状況である。従って、いくらBSEから安全と言っても食用にはハードルが高い。しかし、開発コストがかかることは措くとして、血清やコラーゲン製造などの製薬・化粧品分野への利用がまず期待される。

さて、FDA報告書などの大きな出来事が伝えられると、各地で関連した報道が行われるのはメディアの常だ。ヨーロッパでも、英国におけるクローンネタをBBCなどが報じている。

参照記事2
TITLE: US-made calf reopens clone debate
SOURCE: BBC
DATE: Jan. 10, 2007

 英国で、Dundee Paradiseと名付けらたホルスタインが誕生した。この乳牛は、米国においてコンテストで授賞(牛乳の日産量が30%から40%多い)したクローン雌牛と通常の雄牛との交配で生命を与えられ、胚胎のうちに英国に空輸、英国の代理母である雌牛に移植されたという「出生の秘密?」があった。

 問題となったのは、このクローン雌牛由来の胎児輸入を、英国政府が把握していなかったことだ。あわてたDEFRA(Department for Environment, Food and Rural Affairs)は、クローンの後代ウシと通常のウシとは安全性に相違はないとコメントを出したが、活動家グループや消費者団体は「知らない間にクローン食品を食べさせられているかもしれない」と騒ぎ出した。英国FSA(Food Standards Agency)も、EFSA(European Food Safety Authority)にDundee Paradiseについて論議するよう依頼した(07.1.11.Food Productindaily)と伝えられる。

 一方、オーストラリアでも、この英国の事例は波紋を呼んだ。財政的破綻を避けるために西オーストラリアの酪農家や一部政治家が、高生産性のクローン乳牛導入を検討すべきだと主張しだしたのだ。

参照記事3
TITLE: Breed super cows, farms told
SOURCE: The West Australian, by Tiffany Laurie
DATE: Jan. 11, 2007

 書かないと述べつつクローン話を並べてしまったが、今週はおそらくISAAAの年次報告が出されるので、来週からは通常営業に戻します。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)