GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
最近のGMOワールドがEUと北米に偏重していることは、筆者も少し気にしている。実際にこの両地域で重要な動きがあることは間違いないのだが、アジア・アフリカなどが無風状態という訳でもない。偶々先週、「中国とインドにおけるバイオセーフティ規則のコストと施行」という比較論考を目にしたので、この要約を読んでみたい。
参照記事1
TITLE: Costs and Enforcement of Biosafety Regulations in China and India
SOURCE: Int. J. Technology and Globalisation, Vol.2, No. 1/2, 2006, Carl E. Pray他
DATE: April 20, 2006
「GM農作物の支持者と反対者のほとんどが食品安全問題のリスク、環境へのダメージと農業問題のリスクを最小限にするため、バイオセーフティ規制の必要性について合意する。しかし、途上国において農業生産性を上げ、環境を改善する安全なGM農作物の発展にバイオセーフティ規制が重大な制約になったと論ずる者もある。
さまざまな理由から、途上国におけるこれら規制の緩和と改善や強化を巡る論争がある。この論文の最初の目的は、バイオセーフティ規制に関するこの論争の2つの構成要素─ 1. バイオセーフティ規制の遵守に伴うコスト、2. バイオセーフティ規制の施行 ─について調べる。
途上国の中でも、インドと中国は十分に考慮された規制システムを持つが、遵守するためのコストはインドでより高く、施行は中国でより効率的だった。この論文の2つ目の目的は、コストと施行がなぜこれら2国において異なっているのかを説明することにある。
バイオセーフティ規制の遵守に伴うコストを算定すると、インドでは私企業の負担が、政府研究所や中国の企業や研究所に比べ高額だった。最初のBtコットンのための規制遵守のコストは、中・小規模のインドの種子会社の年間研究費より多く、少なくとも百万米ドルに達した。
両国からの情報では、遵守のコストは、最初の少数のGM品種よりずっと少なくなってきていることを示す。両国は規制システムのコストと非効率性を減らす努力をしているからだ。インドと中国における経験は、同じく小規模農家が規制を実施することに困難が伴うことを明らかにする。
しかし、中国政府は未承認のBt遺伝子(訳者注:いわゆる海賊版種子)を排除することが可能だった。規定者が未承認Bt遺伝子を発見したとき、彼らは数年でそれらを公認されたBt遺伝子のコットンに置き換えることに成功した。
一方、インドでは、Btコットンの3分の2が、依然未承認のままである。インドの規定者は中国と同じ戦略を用いたが、より多くのBt遺伝子が利用可能にならないと、この戦略は上手く働かない。
2番目のコストと施行における相違の理由は、規制システムの基本的な構造のためだ。規制システムをコントロールしているのは、インドでは環境・林業省と科学省であるが、中国では農業省と科学技術省だ。中国農業省の大きな影響とBtコットン種子産業から同省傘下政府機関が利益を上げているという事実が、遵守コストの低減や、施行がうまく行っている理由の一部である。
中国で迅速で低コストの規則を要求したのは、少数の多国籍企業に留まらず、バイオ工学からの経済的利潤を望んだ政府の科学者や地方の種子会社からも強力なロビー活動があった。一方、インドでは、研究者と種子会社はMonsanto社と競合するための重要な新しい遺伝子が準備できていなかったので、同様なロビー活動を行わなかった。
さらに、MMB(Mahyco-Monsanto Biotech社)が最初にBt遺伝子を公認されたとき、高コストは競合者の市場参入を妨げるから、他の会社はこれらのコストを減らすための多くの誘因を持っていなかった。
施行のパターンも同じく構造的・政治的な経済的説明を持つ。政策立案、規定の決定と施行のすべてが農業省と地方の農業部にあるのは、中国の施行の構造的な利点となる。インドでは、決定はデリーの環境林業省でなされるが、規則の施行は地方の農業課であり、このためおそらく処理費用は高くなる。
より多くの政治・経済学理由は、中国では農民と小規模の種子会社が施行により失うべきものが、インドよりずっと多かったことだ。未承認種子を植えているインドの農民は、同じようなパフォーマンスの正規品種に3〜4倍の種子価格を支払わねばならなかっただろう。
中国の農家が未承認から承認済み品種に変えたとき、価格における変化はほとんどなく、より良いパフォーマンスを得られた。中国の種子会社も、同じく施行に抵抗する誘因がより少なかった。
インドでは、公認の遺伝子へのアクセスを得られたのは限定された少数の種子会社だけであり、彼らは相当な額の頭金を準備して、次に特許料として MMBに種子価格の相当分を支払わなければならなかった。これとは対照的に、中国の種子会社は少額の特許料しかを求めなかったCAAS (Chinese Academy of Agricultural Sciences)を含め、公認のBt遺伝子の2つの供給源を、北京(訳者注:公的という意味)に持っていた。
最終的に、インドでの施行の明白な受益者は外国企業だろう。しかし、中国では施行から得られる利益の大部分が地方自治体の研究組織と種子会社に行くだろう。これらの異なったプレッシャーが、インドにおいて中国に比べより少ない施行しか承認させなかったのだ。」(抄訳終わり)
アジアのというより世界の人口大国2カ国には、65億の世界人口のほぼ40%を占める25億の住民が存在する。EUや北米の動きは当然気になるが、GMOワールドの行く末を占う上で、中国とインドからも目が離せない。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)