GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
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2006年3月9日、ブリュッセルにおいて、新議長国オーストリアがはじめて主催する環境閣僚理事会が開催された。関連立法を司るこの会議での議題は、気候変動はじめ盛り沢山であったが、GMOについても現在の安全性評価システムや欧州委員会が取り組んできた域内共通GM/非GM共存法案など政策面の議論が行われた。
参照記事1
TITLE: EU Shows Split Over Biotech Foods as Worries Persist (Update2)
SOURCE: Bloomberg
DATE: March 9, 2006
GMOの意図的環境放出に関する現在のEU認可システムは、01年3月12日に定められたDirective 2001/18/ECに依拠する。これは加盟各国専門機関と欧州食品安全庁(EFSA)による「ケースバイケース」のリスク評価に基づく。この安全性評価システムを含め現在のGM規制法体系は有効に働いていると主張したのは、英国、アイルランド、デンマーク、オランダなど少数に留まる。スエーデンとフィンランドを加え、GMO承認にほぼ常にポジティブな評決を出すのがこのグループ(デンマークは除く)だ。
一方、さらに厳格な法規制を求め(本件ではスペインもこちら側に属する)、個々のGMO承認に反対してきたのがイタリア、ドイツ、ルクセンブルグ、フランス、ギリシャ、チェコ共和国、ラトビア、マルタ、ポルトガル、ハンガリーとポーランドなどおよそ半数である。議長国オーストリアもこのグループに属する。
しかし、閣僚理事会などにおける重要問題の決定法が国力に応じた特定多数決(QMV)であるため、通常これら過半数の意見は通らず、結局欧州委員会のデフォルト認可が適用されてきた。一部加盟国からは、1958年発効のローマ条約に基づくこのQMV議決方式にまで批判が及んだようだが、この問題はGMO認可に留まらずそう簡単な話ではない。
先日のWTO GMOパネル予備裁定のプレッシャーと、ネガティブ諸国の突き上げとの板挟みとなった形のStavros Dimas環境担当委員(ギリシャ)は、EFSAによる(各国からの)GMアプリケーション再評価システムについて「批判のあることは承知しており、特定の変更は有益であるかもしれない」という苦しいコメントを残した(2006.3.6.AP)。
一方、注目された域内共通GM/非GM共存法案については、欧州委員会から報告書が提出された。結論を一言で言ってしまえば挫折、延期である。
参照記事2
TITLE: EU ducks GM rules
SOURCE: EU Politix
DATE: March 10, 2006
自国(デンマーク)の共存法案をまとめ、EU統一法案策定にも前向きだったMariann Fischer Boel農業担当委員だが、同法案を凍結させたのではという観測が先月末流れた(06.2.28.Reuters)。案の定、議論は06年4月5,6日、イタリアのヴィエンナで開催予定の共存に関する会議などを待ち、欧州委員会としての共存法設置問題は08年に先送りされた。
Boel農業担当委員は、安全性が証明されないGMOはEU市場に入ることを許されないから、これは健康リスクまたは環境保護の問題ではないと断りつつ、加盟国のGM商業栽培経験が少ないことから、共通共存法設置は時期尚早との判断を示した。なお、自国で共存法を策定しているのは、デンマーク、オーストリア、ポルトガル、イタリア、ドイツおよびスロベニアのみである。
ところで、環境閣僚理事会で噴出した加盟国の不満に対する意趣返しという訳でもないのだろうが、欧州委員会は06年3月10日国内にGMOフリーゾーンの存在を許している加盟国に対し、訴訟を行うとの警告を与えた。これは、WTO GMOパネル中間裁定への恭順を示すサインでもある。
参照記事3
TITLE: EU threatens legal action against members that ban modified crops
SOURCE: AP
DATE: March 10, 2006
今回の環境閣僚理事会は、欧州委員会と加盟国政府あるいは加盟国同士の「ねじれ現象」を、再び浮き彫りにした。特にモラトリアム解除後のGMO承認作業に対し内憂外患の欧州委員会は、今後とも難しい運営を迫られている。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)