GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
GMナタネの微量混入問題の余波が収まらないオーストラリアが、再び揺れている。CSIROが開発を進めてきた害虫抵抗性GMエンドウマメが、商業化直前のリスク評価でマウスに健康危害を与えることが明らかになり、CSIROはこの研究を中止した。
参照記事1
TITLE: GM super peas scrapped as mice made ill
SOURCE: The Australian, by Selina Mitchell and Leigh Dayton
DATE: Nov. 18, 2005
CSIRO(Commonwealth Scientific & Industrial Research Organisation:豪州科学産業研究機構)は、オーストラリア科学・技術庁が所轄するオーストラリア最大の国立総合研究機関であり、扱う分野は農業に留まらず、環境・資源、ITを含む情報・サービス、鉱物、エネルギーなど医学を除く科学技術全般にわたる研究開発を行っている。国際的評価も高い。
他紙からの情報も統合すると、CSIROが開発を進めていたのは、鞘翅目(コウチュウ目)マメゾウムシ科エンドウゾウムシ(Bruchus pisorum)に抵抗性を持つエンドウマメだ。このために、インゲンマメの持つアルファアミラーゼ抑制剤タンパク質が導入された。GMエンドウマメのエンドウゾウムシに対する抵抗性は確認され、10年にわたり300万豪州ドルを費やしたこの開発は成功目前だったという。
しかし、リスクアセスメントの一環として、CSIROの依頼を受けたキャンベラのJohn Curtin医学研究校が、マウスに対する免疫反応を調査したところ、2週間後GMエンドウマメはマウスに免疫反応と肺炎症状をもたらした。この結果は、インゲンマメから導入されたタンパク質とは異質のものが、エンドウマメで作られた可能性を示唆する。この実験結果は、“the Journal of Agricultural and Food Chemistry”に発表された。
CSIROのコメントは「マウスに対するタンパク質の反応は、生命に係わるものではない。またヒトに起きるという証拠はないが、起きる可能性は否定しえない。これは15年間で、ブラジルナッツに続く2例目で、ケースバイケースの危険査定や現在の予防措置が有効に働いていることを示す。GMエンドウマメの研究は継続しないだろうが、技術は他の研究に適用されるかもしれない。」というものだ。
一方GM反対派のGreenpeaceは「それはナンセンスだ。失敗を撤回することは規定システムの成功ではない。遺伝子組み換え製品の科学的失敗を示す。」としながらも、この結果が科学誌に公表されたことには一定の評価を与えている。「いままで(私企業の)失敗した研究結果がほとんど学術誌に公表されなかった。」
同じく反対派であるGeneEthics Networkは「これらの実験は1国家予算の浪費だけではなく、すべてのGM食品の健康影響について成長している世界的な懸念を強調する。」と手厳しい。
CSIROのGMエンドウマメ開発中止に落胆を隠さないのが、年間1億豪州ドルの産業であるエンドウマメ栽培農家だ。エンドウゾウムシの被害額は最高で30%にも達するため、害虫抵抗性には100%成功していたCSIROのGMエンドウマメにかける期待は大きかった。
参照記事2
TITLE: GM pea decision disappointing, farmers say
SOURCE: ABC
DATE: Nov. 18, 2005
ところで、11月19日夜の日本テレビ「世界一受けたい授業」に登壇された国連大学副学長安井 至先生は、「キケンな食の誤解」としてGM食品に言及された。食の安全に限れば(GM環境リスクに関して安井先生は慎重論である)安全性審査を経たGM食品は、むしろ普通の食材より安全性は高いという趣旨だった。
CSIROの失敗に関する速報記事は、数こそ多いがほとんどがオーストラリア系列のメディアに限定される。筆者の知る限り、日本ではカバーされていない。ブラジルナッツと共に、反対派の神話の殿堂入りは今後果たすかもしれないが、安井先生の発言と併せて、時代はずいぶん変わったものだと思う。
安井先生の発言は、リスク評価が正しく行われ、安全性審査が健全に機能していることが、当然その前提となる。CSIROの公表は、反対派を中心に批判を浴びるかもしれないが、失敗を認める勇気なしに消費者からの信頼は得られないのもまた真理だろう。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)