GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
中国湖北省における未承認GMイネの商業栽培疑惑を、Greenpeaceがリリースしてから2週間後、今度は米国と中国の科学者たちがGMイネの試験栽培に関してポジティブな調査結果を公表した。4月29日付Science誌へのリリースは、結果的にGreenpeaceに対する強烈なカウンター・パンチとなった。
参照記事1
TITLE: Genetically modified rice in China benefits farmers’ health, study finds
SOURCE: Rutgers, the State University of New Jersey
DATE: April 28, 2005
この調査研究は、米国のNew Jersey州立大学Rutgers校とCalifornia大学Davis校および中国科学アカデミー中国農業政策センターの研究者たちにより2001年から実施され、中国の全国自然科学財団と中国科学アカデミーから資金提供を受けている。
研究対象とされたGMイネは、ニカメイガと葉巻病を媒介するコブノメイガを殺すBt菌遺伝子を導入したXianyou 63と、アフリカ原産のササゲ(cowpea)のニカメイガ抵抗性遺伝子を挿入したYouming 86の2つのトレイトである。
種子提供を受けた農家はランダムに選ばれ、GMイネの栽培も任意、栽培中科学者の指導は一切受けていない。02年は40人がGMイネを栽培し、対照群としては37人が非GMイネのみを栽培した。03年は、GMイネ栽培が69人、GMおよび非GMイネを栽培した農家が32人であった。
反収ではXianyou 63が在来種より平均9%高い収量を記録したのに対し、Youming 86は在来種と際だった相違は見られなかった。しかし、Youming 86はたった1つの村で少数の農家により栽培されただけだったため、研究者はデータの不足を注記している。
殺虫剤使用量では顕著な差が示された。非GMイネ栽培農家はシーズン毎に3.7回殺虫剤を使用したのに対し、GMイネ栽培農家が1回以下だった。これはエーカー当たり15ポンド、80%の農薬減少に相当する。非GMイネ栽培農家は、1ヘクタール(2.471エーカー)当たり8〜10倍の農薬コストがかかったことになる。
農民や家族への殺虫剤による曝露でも、GMイネ栽培農家が皆無だったのに対し、非GMイネ栽培農家では、02年に8.3%、03年に3.0%が、GMと非GMイネ両方を栽培した農家では、02年に7.7%、03年に10.9%が殺虫剤スプレーに伴う疾患を報告した。なお、殺虫剤が比較的安く手に入る中国では、毎年5万人が被害を受け、500人が死亡(自殺者を含むかどうかは不明)している(05.4.28. BBC)という。
中国のGMイネ試験栽培に関しては、中国研究筋などから成功の報が度々伝えられてはいたが、実証的データを伴う科学専門誌への発表は今回が始めてである。悔しがったGreenpeaceは、実験設計などにケチをつけているが、
参照記事2
TITLE: Greenpeace claims China is not properly controlling GM trials
SOURCE: ABC
DATE: April 29, 2005
逆に、環境・健康リスクはデッチアゲだと、科学と健康に関する米国評議会からの批判を浴びている。
参照記事3
TITLE: Gene-Spliced Rice Benefits Chinese Farmers
SOURCE: Ruth Kava, The American Council on Science and Health
DATE: April 29, 2005
GMOワールドを眺めていて面白いのはバランスである。1つネガティブな出来事が報じられると、それに対応するポジティブなニュースが必ず流れる。逆も真である。今回の中国GMイネ試験栽培成功に関する報道量は、先のGreenpeaceからのリリースのカバーを上回っている。
Greenpeaceは、中国規制当局の管理の甘さだけを鋭く突けばよかったのだ。それをGMイネ自体にリスクがあるかのごとき科学的データを欠く煽りでリリースを盛大に盛り上げたため、焦点がボケた。GM反対派がよく陥る落とし穴だ。メディアの食い付きは良かったかもしれないが、明らかな作戦ミスである。
俗に、犬が人に噛みついてもニュースにならないが、人が犬に噛みつけばそれはニュースだという。Greenpeaceなど反対派の不断の努力により、GMはリスキーだという世論がもし社会に形成されているなら、リスクを上回るベネフィットがあるという出来事の方がニュースバリューは高くなる、というような皮肉な現象は決して喜ばしくないのだが・・・。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)