GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
先週に引き続きSyngenta社を巡る話題で賑々しい。先週書いた3月24日のBt10のネガティブなニュースを覆うように、27日には同社のゴールデンライスに関するポジティブな報道がGMOワールドを駆け巡った。それも束の間、31日になると再度Bt10懸念がぶり返し、同社は花見そっちのけでジェットコースターに乗り続けている。
途上国の児童を失明から救うものとして、GM技術によりビタミンA(前駆物質のβカロチン)を強化したゴールデンライスは、GM技術の輝く広告塔、期待の星だった時期もある。一時はGreenpeaceの広報担当者さえ、これへの批判だけは控えると発言した(後に撤回)くらいだ。
しかし、ゴールデンライスのβカロチン含有量は少なく他の食品からの摂取が可能、途上国からのアクセスの問題など、反対派からの主張に最近では押され気味だった。いわば眼高手低だった訳だが、英国Syngenta社の研究者がβカロチン含有量を最大で従来の20倍以上高めたゴールデンライス2の開発に成功したと3月27日、Natureに発表した。
参照記事1
TITLE: GM golden rice boosts vitamin A
SOURCE: BBC, by Richard Black
DATE: March 28, 2005
泣き所のブレークスルー、反対派は依然懐疑的だがメディアは概して好意的だった。それよりもSyngenta社にしてみれば、Bt10のスキャンダルを払拭する乾坤一擲のリリースであったはずだ。だが、マスキング効果は3日で終わる。
3月31日、同じNatureが、Bt10には抗生物質アンピシリン耐性マーカー遺伝子が含まれていたと発表し、Syngenta社もこの事実を認めた。組み換えが成功したかどうか確認する役目のマーカー遺伝子にはカナマイシンなどの抗生物質耐性遺伝子が多く利用されてきた。
マーカー遺伝子は戻し交配後も残存し、ヒトや家畜の抗生物質耐性を助長するリスクは否定しえないため、最近では規制、自粛の方向にある。ベクターの選び方などにより、商品化段階で抜いてしまう方法もあるようだ。参照記事2
TITLE: EU deplores unauthorized imports of maize
SOURCE: AP
DATE: April 1, 2005
特にEUでは、04年4月19日EFSA(欧州食品安全庁)が、抗生物質耐性遺伝子のリスクについてさらなる調査研究が必要とのコメントを出しており、一旦はBt10に対しNo-risk宣言を出した欧州委員会も、遺憾の意を表明すると共に、Syngenta社と米国政府に説明を求め調査に乗り出した。
関係各国で安全性が承認されておりBt10の安全性の論拠となったBt11の場合、例えば我が国で厚生労働省が安全性確認を行ったスィートコーンのマーカーにはPAT遺伝子が使用されている。前述の通り、商業化される場合には、抗生物質耐性マーカー遺伝子は避けるのが、最近の傾向である。
ただし、どこの国でも抗生物質アンピシリン耐性マーカー遺伝子を理由に、安全性承認をしないというほどのものではない。従って、EUなどへのBt10の輸出量や米国における栽培量がSyngenta社の発表通りであるなら、直接的な実リスクが一挙に増大したとは思えない。
むしろ問題なのは最初のリリースで、マーカー遺伝子の情報が落とされていたことだ。当事者たちも、まさか伏せたままで済むとは思っていなかっただろう。ということは、Syngenta社や米国は、情報を分断し小出しにした方が有利と判断し、メディア操作ではそれはある程度成功したかもしれない。
しかし、最初にすべてを出すのとどちらが得策だったかは今後の推移を見守らなくてはならないだろう。このことで各関係先に対し覆い隠せぬ不信感を招いたのもまた事実だ。Syngenta社はスイス本社の国際企業であり、欧州委員会、米国政府と発端から政治色の濃い事件だが、我が国も含めて落とし所が注目される。ともかく、せっかくのゴールデンライス2もいまや形無しである。残念!(GMOウオッチャー 宗谷 敏)