GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
このところReutersは、TAKE A LOOK-Reuters stories on genetically modified foodと銘打って、GM農産物・食品の現状に関する世界各国からの企画記事を流している。先週のリードにリンクを張ったアフリカや日本・韓国をはじめ、各地特派員や契約記者からのレポートは既に20本を越え、いずれも粒揃いの力作である。
中でも、Reuters東京支局から香港支局に転じた中西直氏がものした中国のGMイネ取材記事は、従来の関連報道から一歩突っ込んでいる。中国政府がGMイネの商業栽培をいつ解禁するかという話題は、GMOワールドでも昨04年11月に一度書いたので、そのフォローアップの意味からもこれを取り上げたい。
参照記事1
TITLE: China Close to Production of “Safe” Genetic Rice
SOURCE: Reuters, by Nao Nakanishi
DATE: March 10, 2005
前回と重複する部分は避けるが、もし中国がGMイネを商業化するのなら、最初のそれは従来予想されていた害虫抵抗性のBt品種ではなく、白葉枯病(バクテリアに起因)に抵抗性を有するXa21という遺伝子を導入したハイブリッド短粒種であろう、という新しい情報が記事には示されている。
導入される白葉枯病に抵抗性を持つXa21遺伝子は、アフリカのマリに存在していた野生のイネから発見された。同じイネ同士だから、Bt菌を導入する害虫抵抗性よりも消費者の抵抗感が少ないだろうというのも、Xa21が先行する理由の一つだ。
95年にマリに自生していたイネからこの遺伝子を識別したのは、米国California大学Davis校のPamela Ronald氏である。従って、中国のXa21イネの開発には、Rockefeller財団が資金提供している米国の熱帯農業国際研究所(ILTAB: International Laboratory for Tropical Agricultural Biotechnology)も、部分的に協力している。
Xa21遺伝子は、発見者(が所属)のCalifornia大学Davis校に特許権がある。同校は、発展途上国の研究開発目的のための使用に対しては、無料でそれを提供してきた。もし企業が、Xa21遺伝子を使った製品を商業化するなら、96年にRonald氏が起業した会社に特許料を支払う。そして、その利益の一部はマリに還元される。
では、中国はRonald氏に特許料を支払うのか?この問いに対する彼女の見解は、興味深い。「通常中国では、行政機関が農民に無償で種子を配る。このような場合には特許料はかからない。また農民は、収穫物の一部を播種用に保存しておくことができる」
筆者がこの記事に特に注目したもう一つの理由は、遺伝資源、知的財産権、技術移転、農家の権利など、環境安全性に次いで(あるいは並行して)GMやバイテク農業を巡って問題となるのであろう諸点が、余すことなく含まれていることにある。
ところで、中国がGMイネの商業化に慎重な姿勢を堅持しているうちに、中東ではイランがさっさっとGMイネ商業栽培を開始した。政府は、既にGMイネの種子を農家に配っている(05.3.12. MEHR NEWS)。反対運動も勃発しているが、政府は今年20万ヘクタールの商業栽培を計画している(05.2.22. Iran Daily)模様だ。
商業栽培されるのは、主要害虫ニカメイガ(学名 Chilo suppressalis)などに抵抗性のあるBtイネである。フィリピンにある国際イネ研究所(IRRI: International Rice Research Institute)の協力を得て、99年以来イラン農業バイオテクノロジー研究所(ABRII: Agricultural Biotechnology Research Institute of Iran)が、6世代にわたり安全性審査も含めてBtイネを試験栽培してきた。
参照記事2
TITLE: Iranian Scientists Produce Country’s First GM Rice
SOURCE: SciDev.Net, by Wagdy Sawahel
DATE: Feb. 18, 2005
中国やインドがコメの自給自足を達成したのに対し、生産量約300万トンのイランは、バングラデシュなどと共に相変わらず100万トン規模のコメ輸入大国である。コメ自給を目指す政府の意気込みが、増収を目指しGMイネの商業化に踏み切らせたとしても不思議はない。カルタヘナ議定書のフレームワークは、LMO(GMO)の国境間移動だから、輸出の意志がないなら自国内でいくらGM作物を植えようがイランの勝手である。
ということで、イランではさらに害虫抵抗性トウモロコシ、ワタ、ジャガイモおよびサトウダイコン、除草剤耐性ナタネ、耐塩と耐乾燥性コムギ、耐病性トウモロコシとコムギなども盛んに研究されており、これらの一部には国連食糧農業機構(FAO)からの資金提供も計画されている(05.3.12. IranMania)ようだ。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)