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GMOワールド

2005年1月のGMOワールド(下)〜アフリカ・アジア・豪州篇

宗谷 敏

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 1月のGMOワールド総見後編である。今後注目すべきアフリカとアジアは、少し詳しく渉猟(しょうりょう)した。一時猖獗(しょうけつ)を極めたGMに対する食品安全性を問題とする報道はほとんど影を潜めている。証明不能な仮想リスクの陳列に、メディアもさすがに飽きたということか。

4.アフリカ
 米国ワシントンD.C.に本部を置く民間の調査機関International Food Policy Research Institute(IFPRI)は、途上国のGM農産物開発状況に関するレポートを1月6日公表した。15の途上国において公共の研究所が45種類のGM農作物を研究開発中であり、巨大企業の農業支配は神話であるという内容である。
 アンゴラでは、1月24日GM種子・穀粒の輸入を禁止する法律が発効した。食糧援助物資は除くものの粉に挽くことを条件にしており、国連世界食糧計画(WFP)も困惑気味だ。
 1月25日、タンザニアの農業大臣は、GM農業技術国内導入を管理するための法整備に現在取り組んでいるとReuters通信に語った。
 南アフリカ政府が、米国Dow Agrosciences社の害虫抵抗性GMトウモロコシTC1507にかかわる試験栽培申請を、標的外昆虫への影響懸念を理由に却下していたことが明らかになった。
 アフリカ諸国も南アフリカ、ケニヤ、ウガンダなどバイテク農業推進に積極的な国(米国を中心とする先進国側からの豊富な援助資金投下ももちろん無視できない)や、これらに続こうとするエジプト、タンザニア、ナイジェリアなどと、輸入や栽培を禁止したり厳しく制限したりするジンバブエ、ザンビア、マラウイ、モザンビーク、アンゴラなどのグループに分かれる。
 GM農作物栽培を統制するための立法措置や行政能力を欠く政府しか持てない諸国は、概してネガティブな方向に振れやすい。GM農産物を栽培すれば、ヨーロッパのマーケットヘの輸出に弊害がでないかとの経済的思惑も、当然そこにはある。
 このように途上国へのGM技術移転が無視できなくなってきた状況下、FAO(国連食糧農業機構)の専門家会合が、GM技術導入に伴うリスク&ベネフィットを踏まえた統合的環境モニタリングプログラムの各国による採用と、そのためのガイドライン策定を1月27日に勧告したことは、意義深いと考えられる。それにもかかわらず、米国内でこのニュースの扱いが不当に小さかったことにも注意すべきだろう。
5.アジア
 今後のバイテクの鍵を握ると目される中国とインド、この膨大な人口を抱える2カ国の動向が注目されるのは当然だが、他の近隣諸国でも推進・反対を問わずそれなりに活発な胎動が感じられる。
 中国については、GMイネの商業栽培化が間近いという報道が賑やかである。確かに、試験栽培は順調に進み、それらの結果も上々らしい。しかし、政府はワタ以外のGM農産物商業化には慎重な姿勢を崩していない。
 日本など農産物輸入国から見て、残留農薬などによる中国の土壌汚染は関心の高い問題である。毒素を土壌から取り除くことにGM植物などを利用するバイオレメディエーションにも、中国は積極的に取り組んでいるようだ。
 インドも、GMイネとそれを巡る中国の動向に対して強い関心を寄せている国だ。一方、ビタミンAを強化したゴールデンライスも馴染み深い話題だが、亜熱帯地方のための国際作物研究所(ICRISAT)は、ピーナツでもベータカロチン(ビタミンA)を強める研究を開始したという。
 ムンバイ(ボンベイ)で開催された国際搾油業者(IASC)大会の席上、インドの食糧大臣が、国内の油糧種子と食用油不足を解消するためには、GM油糧種子などを積極的に輸入すべきだと1月17日発言し、耳目を集めた。
 アジアのバイテクリーダー国家を目指すインドは、その目標に合わせてハード面でのインフラ整備はもとより、着々と法改正や行政改革を進めている。その一環として、1月1日施行された改正特許法では、GM種子などへの特許権が認められることになり、農民はこれに反発している。
 GMワタ栽培拡大が続くインドだが、単一のBt遺伝子依存を将来的に危惧する論文が、1月31日のNatureに掲載された。
 インドネシアでは、昨年来、米国Monsanto社の現地子会社と農業省官僚との贈収賄事件(米国司法省は1月6日Monsanto社に罰金刑を科した)で持ちきりだが、GMワタの政府による認可見直しという事態に至っている。
 タイも揺れている。プロバイテクを打ち出したタクシン首相と政権は、反対運動に直面し、GM政策見直しを迫られている。せっかく開発された害虫抵抗性GMパイナップルも、商業化の道は遠そうである。
 フィリピンは、急速な展開を見せている。Btトウモロコシの鶏への飼養試験の結果、安全性が確認されたとして、年内にも種子販売に踏みきる模様だ。さらに、GMワタについても、中国からの導入を計画中とも伝えられている。
 バングラデシュ農業省も、研究中のビタミンA強化GMコメの商業栽培にポジティブな姿勢を示し注目される。
6.豪州
 バイテク研究開発は、ともすれば先行する知的所有権に抵触する。オーストラリアのバイオロジカル・イノベーション・フォー・オープン・ソサエティー(BIOS)は、知的所有権を侵害せずに、生物学データ取り扱いを自由にすることを目指して、オープンなプラットホーム構築を開始する。
 西オーストラリアでは、キンバリーでのGMワタ試験栽培は良い成績を収めたものの、商業栽培については依然議論が続いている。
 ドイツBayer CropScience社は、オーストラリアにおける除草剤耐性GMヒマシの試験栽培を申請している。ヒマシからはナタネとほぼ等価の油脂が得られ、ナタネより乾燥や旱魃に強い特性を持つ。
 ニュージーランドのGM食品反対派の、米国からの輸入缶詰にGM微量成分表示がない、またGM表示が小さくて目立たないと訴えていた件で、食品安全局(FSA)は、この訴えを退ける。
 ニュージーランドでは、1月29日GM樹木を研究している森林研究所ヘデモをかけた反対派が逮捕者を出す騒ぎがあった。
 最後に、かなり長文であるが「ニュージーランド–バイテクにとって緑の安息地か?」と題された論文 を紹介しておく。独自の農業圏を築いてきた島国に、バイテクがどのようなインパクトを与えるかを分析しており、いずれの農業国にとっても非常に関心の高いテーマだけに、世界中で広くカバーされている。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)