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まだまだ畑は霜柱〜欧州委員会のGMトウモロコシ商業栽培認可

宗谷 敏

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 2004年9月8日、ブリュッセルで開催された欧州委員会は、米国Monsanto社の害虫抵抗性GMトウモロコシMON810系統17品種の域内25カ国における商業栽培を認可する決定を下した。スペイン及びフランス政府から提出された安全性審査証明に基づきEU法によりMON810の安全性が確認されたのは98年、直後からモラトリアム(安全性審査凍結)が始まる。思えば畑までの道のりは遠かった。

参照記事
TITLE:EU Sends Mixed Messages on Biotech
SOURCE:AP, by Paul Geitner
DATE: Sep. 8, 2004

 既にMON810の商業栽培が行われているスペインでは11品種、フランスでは6品種が各々の国の種子カタログに掲載されている。欧州委員会の決定は、EU域内全25カ国に適用される種子カタログ(「シードディレクトリー」、約3万品種が登録されている)にこれら17品種を加えるもので、もちろんGM品種としては初めてである。

 欧州委員会は、同時にMonsanto社の除草剤耐性GMナタネGT73の輸入と製品(ナタネ油及び油粕)販売を承認する提案を閣僚理事会に送付することも決定した。例の通り、閣僚理事会が3カ月以内に可否を決定できなければ、最終決定権が欧州委員会に戻される。

 さて、もう1つ今回の欧州委員会で注目を集めていたのが、播種用非GMトウモロコシ種子のGM混入に0.3%の閾値を定める(つまり0.3%以下の混入にはGM種子表示が免除される)議案であったが、こちらは賛成10カ国、反対10カ国、棄権5カ国でまとまらず、結論は先送りされた。

参照記事
TITLE:EU Commission drops decision on GMO seed labels
SOURCE:Reuters
DATE: Sep. 8, 2004

 本件は、MON810栽培認可とも密接にからむ問題なので、少し詳しく見ていこう。旧EU15カ国の02/03年におけるトウモロコシ生産量は約3900万トン(他に輸入約400万トン)、これに対し域内需要は約4100万トン(うち飼料用約3100万トン)である(USDA:米国農務省データ)。各々2億トン、1億トン以上を生産する米国と中国を別格とすれば、決して小さい市場ではない。ちなみに日本の輸入量は年間約1700万トンである。

 では苦節6年のMonsanto社に欧州の春は巡ってくるのかといえば、ようやく溶け出したとはいえ、まだまだ畑は霜柱との見方が強い。ハード面では、今回認可された17品種はいずれも暖かい気候の地方に適した品種であるため、販路は欧州南部地域に限定されるとの意見(04.09.09.BBC)である。

 害虫抵抗性GM作物がターゲットとする害虫被害も、一般的には暖かい地方の方がより顕著である。おそらくMonsanto社も狙っているであろう東欧圏の一部を含め、北部にも適した品種の開発・認可は今後必須となるのかもしれない。

 ソフト面では、消費者の不信感は措くとしても、域内25カ国中GM作物と有機を含む非GM作物との栽培、いわゆる共存に関する国内法規制を確立しているのはデンマーク1国のみ(ドイツは立法過程)しかないという現実である。欧州委員会は共存に関しては各国の責任と、いわば丸投げの状態に近い。

 このような背景で、すべての起点となるのが播種用種子のGM閾値問題である。欧州委員会のトウモロコシとナタネ0.3%案に対し、バイオ産業グループは0.5%を希望する。それ以下のいかなる数値も種子価格の大幅上昇を招くというのがその根拠である。9月8日の欧州委員会でも、8カ国が0.5%案を支持したという(04.09.09.Independent)。

 一方、0.3%案が今回成立しなかったことを歓迎している緑の党や環境保護主義グループなどは0.1%を主張して一歩も譲らない。さすがに非現実的なゼロトレランスを叫ばないところはオトナと誉めるべきか、そこまで押し込まれてしまっていると見るべきか。

 9月8日に結論が出せなかった欧州委員会のメンバーは来る10月末で任期が切れるため、種子のGM閾値問題は新しい委員たちによって継続審議される。委員長はポルトガルに、農業委員長はデンマークに決定している。既に国内共存ルールを決めたデンマークは、GM種子のトレーサビリティを0.1%からとしている。この人事の綾は、委員会にどのような方向性をもたらすのか、今後が注目される。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)