GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
5月17日FAO(国連食糧農業機関)年次報告書公表、19日EUのGMモラトリアム解除に当たるGMトウモロコシの域内輸入・販売認可、21日カナダの農家シュマイザー氏とモンサント社の種子知的所有権を巡る係争に最高裁判決と、なかなかインパクトがあるニュースが並んだ先週だった。
参照記事
TITLE:Biotech Foods could help fight hunger, but poor farmers need more attention-UN
SOURCE:UN NEWS CENTRE
DATE: May 17,2004
FAO報告書は「ますます虚弱になりつつある天然資源を基盤とする農業は、今後30年間に20億人を養わなければならない。バイオテクノロジーは万能薬ではないが従来の農業を補完すべきであり、生産性を向上させ貧困や飢えを減らす可能性があり、発展途上国の農業のために大きな見込みを持つ。しかし、これまでのところごく少数の途上国農民しかその恩恵に浴していない」とバイオテクノロジーについて総括する。
GMOの民間による研究開発は、ワタ、ナタネ、トウモロコシ及び大豆の市場性の高い作物に集中し、途上国が必要とするジャガイモ、キャッサバ、コメ、ムギなどの重要作物に対しては小さな興味しか示されなかったとし、途上国へのバイテク技術普及のための公的投資や援助を増やすべきと訴えている。
また、途上国がバイテクにアクセスし利益を享受するのを妨げる他の障壁としては、不適切な規制の手順、複雑な知的所有権問題、不完全にしか機能していない市場と種子配分システム、脆弱な国内育種能力などを上げている。全体的には現実を淡々と記しており、方向性は条件付きポジティブというようなものであるが、推進・反対を問わず自己の主張に都合の良い部分だけをフレームアップする報道や主張には要注意だろう。
参照記事
TITLE:End of moratorium: GM corn authorized for into EU
SOURCE:EurActiv
DATE: May 19,2004
欧州委員会は、スイス・シンジェンタ社の除草剤耐性GMスイートコーンであるBt11の域内25カ国への輸入販売を向こう10年間にわたり認可した。これをもって5年半余りに及んだEUのGMモラトリアム(安全性審査の凍結、実質的に禁輸措置に相当)は漸く終焉を迎えたことになる。
しかし、6年はいかにも長すぎた。Bt11の後には、30余りのGM食品に対する未遂アプリケーションも控えている。03年5月しびれを切らした米国などはWTO提訴に踏み切り、既にパネルが発動している。
食品用のBt11は輸入認可されたが、当然ながら今年4月に発効したGM食品・飼料新表示制度の適用を受ける。0.9%以上Bt11を含む食品にはGM表示やトレーサビリティのためのペーパーワークが必要となる。これでは依然実質的には禁輸ではないかと、米国の穀物業界は騒ぎ出すだろう。
域内を国別に見れば環境影響を懸念する地方政府の抵抗があちこちで摩擦を起こし、欧州委員会の決定に不服なグリーンピースなどの活動家グループも各地で荒れている。窓は開いたが出てくるのは、決して喜ばしいものばかりではない。
参照記事
TITLE:Court Rules Against Farmer in Biotech Case
SOURCE:AP, Colin McClelland
DATE: May 21,2004
97年以来、カナダの農民パーシー・シュマイザー氏(73歳)がモンサント社のGMナタネに対する知的所有権侵害(エーカー当たり15カナダドルの技術料を支払わず自家採取したとみられるGMナタネを栽培した)で訴えられ、簡裁、高裁が下した有罪判決を不服としてカナダ最高裁に控訴していた件は、陪審が5対4の僅差ながらまたもシュマイザー氏側の敗訴に終わった。
知的所有権侵害に関してシュマイザー氏は、自身の畑のGMナタネは近隣のGM栽培農家からの風媒の結果だと冤罪を主張し続けてきた。しかし、1030エーカーの畑の一部の95〜98%がGMナタネであったという事実は、この主張の正当性を疑わせるに十分であったろう。一方、氏の高齢を考慮してか、一部裁判費用を免除する温情も示されている。
もう一つの争点となっていたのは、高度な生命体に特許は認められるのかという、より重要と考えられる問題であった。02年にカナダは米国のハーバード大学が開発したガンの影響を受け易い実験用ネズミに特許を認めなかった。生体特許にはかなり慎重な国である。今回の裁定では、植物が高度な生命体であることを認めつつも、組み換えた遺伝子や細胞へのモンサント社の特許権は許されるとの判決が下された。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)