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GMOワールド

「科学は民主主義ではない!」?あるいはEUの雪解け

宗谷 敏

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 欧州食品安全機関(EFSA:

European Food Safety Authority)は、12月4日モンサント社の除草剤耐性GMトウモロコシ(NK603)の食品及び飼料安全性を認めたと公表した。1999年以来のGM食品モラトリアム(EUとしての安全性審査凍結)解除へ向かう最初の具体的ステップと位置付けられる。
参照記事
TITLE:European Agency Calls Biotech Corn Safe
SOURCE:AP, by Paul Geitner
DATE: Dec. 4, 2003

 これにより欧州政府は、NK603の輸入を許可するかどうかを04年前半に検討することになる。さらに12月8日には、シンジェンタ社の害虫抵抗性GMトウモロコシ(Bt-11)の輸入を許可するか否かに関する専門家会合が予定されている。これは純食用のスイートコーンであり、加盟15カ国の意見は現在のところ割れている。
 モラトリアム継続を望み、EFSAの公表に悲憤慷慨するグリーンピースは「予防原則を適用すべし」と主張するが、科学的にリスクの存在を明示できないため、今回はやや負け犬の遠吠えに近い。今後も様々な紆余曲折はあるだろうが、歯車は回り、流れは変わりつつある。
 EFSA公表の同日、欧州委員会のデビッド・バーン委員(公衆衛生・消費者保護担当、アイルランド出身で本職は法廷弁護士)は、食品の安全性に対する意見は恐怖より科学に立脚すべきだと強く訴えた。
参照記事
TITLE:Brussels urges rational debate on GM foods as EU vote looms
SOURCE:EU Business
DATE: Dec. 4, 2003

 公衆のGM食品に対する恐怖心が招いたモラトリアムが域内農業の技術的進歩を妨げ、結果的に他国に遅れをとるという懸念に基づくバーン委員の主張は、就任以来一貫している。「もし我々が進歩し損ねるなら、集団的ノイローゼによって社会を妨げ制約してしまう反科学のアジェンダがヨーロッパ社会にはびこるかもしれないという本当の脅威がある」。
 ところで「ネーチャー・バイオテクノロジー」12月1日号に掲載された米国フーバー研究所のヘンリー・I・ミラー氏の論評「世論と公共政策」は、この問題に対する意見をさらに過激に展開している。
参照記事
TITLE:Vox Populi and Public Policy: Why Should We Care?
SOURCE:Nature Biotechnology, Volume 21 Number 12 pp 1431 – 1432
DATE: Dec. 1, 2003

 この論文の前半は、英国で行われたGM食品ナショナル・ディベートを例に、市民パネルからのアウトプットの理論と実行が持つ限界を証明する。SARS ウイルスが中国のGMコットンから来るかもしれないということを延々論じるような反技術の熱狂者たちに、6つのミーティングは乗っ取られた。
 「大衆がかかわり合うことは政府の政策を彼らが理解するためには重要だが、それは政策の組織立てにはほとんど役に立たない。科学と技術が複雑に関係している場合は特にそうだ。科学は民主主義ではない。一般市民は鯨が哺乳動物か魚かを投票で決めることはできない。あるいは水の沸騰点について、州議会は自然の法則を無効にすることはできない」。
 翻って我が国の場合も、消費者に軸足を移すのは結構なことである。しかし、仮に(あくまで仮に、ですけど)科学や技術が関連する政策決定までも、パブリックコメントの多数決に求めるようなことがあるなら、それは行政の怠慢、職場放棄、責任転嫁と言うべきだろう。
 小難しいサイエンスベースの話は一般には敬遠されがちであり、したがってリスクコミュニケーションは常に困難を伴う。しかし、行政担当者は真の国益とは何かを考え、エキスパート、プロとしての矜持と勇気を持って政策決定に取り組んでいただきたい。
 突然だが、樹木希林らが演じる富士フィルムのテレビCM「もし、飛行機に乗ったとして・・・自分で操縦しないですよね」「もし、おいしいお刺身が食べたかったとして・・・自分で一本釣りしないですよね」は、結構深いかもしれないのである。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)