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執筆者

千野 義彦

農薬メーカに38年間勤務し、現在は(社)緑の安全推進協会で、農薬の使用者等を対象とした講習会や電話相談などを実施している

農薬の今2

珍しい野菜を見かけます・・・これに農薬を使えるの?

千野 義彦

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農薬クイズ1 ネギニラに使える農薬はどれでしょう?

 ネギニラとは「ねぎ」と「にら」を交配した緑黄色野菜です。同じような種間交配の野菜には、ハクラン(ハクサイとキャベツ)や、千方菜(キャベツとコマツナ)などがあります。
 厚生労働省の食品分類では、ネギニラは「その他ゆり科野菜」で残留基準も判定されます。では、農薬取締法で正しいものは次の3つのどれでしょう?

(1)「ねぎ」又は「にら」の片方がラベル表示のある農薬が使える。
(2)「ねぎ」と「にら」の両方がラベル表示のある農薬が使える。
(3)「野菜類」とラベル表示のある農薬のみが使える。[(1) (2)は使えない]

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新しい野菜が続々登場

 店頭に珍しい野菜を見かけます。アーティチョーク、アイスプラント、エシャレット、エンツァイ、エンダイブ(ア行だけでも5つ)。更に、これまでに無い色のもの(黒だいこん、黒トマト、白ごぼう等)。形がひょうたん型のトマト(イタリアントマト)はご愛敬ですが、レモンきゅうり、ストローベリートマトに至っては名前の前と後のどちらが本当かと迷います。これらは元々海外の野菜ですが、国内でも栽培されるようになり、食生活が多様化した今日では、お客様からも珍しがられて出回るようになりました。どんな野菜か不明な時はウェブで検索すると大抵はヒットします。

 珍しい野菜だから、病気や虫も珍しいものがつくということはありません。この野菜が、あぶらな科、キク科、ユリ科など、いずれの科に属する植物か分かれば、発生する病害虫も共通しています。ただし、困ったことに野菜の名前には、通常使われる種類名の他に、品種名、商品名、地域の俗称など、複数の名前が付けられている場合が多いのです。エシャレット(若採ラッキョ)とエシャロット(小型タマネギ)のように、よく似た名前が付けられ、両者が混同して食べられている例もあります。

 作物名がはっきりしないと、使える農薬とか、その残留農薬基準も間違えかねません。食品衛生法では、個別の作物名が表に無い場合は、科名を調べてその他○○科野菜とし、科名区分のない野菜は「その他野菜」として、全ての生鮮食品の基準が設定されています。よく見ると、桜や柏の葉、笹の葉も、その他野菜になり、植物学から見るとおかしな場面もみられますが・・・。

農家は、使える農薬が無いことも・・・

 農薬を使用する際は、使用したい作物名が容器の「ラベル」に表示されていなければ使えません。農薬取締法では、食の安全性だけでなく、使用者、農作物、環境の安全性を確保するために「農薬使用基準」(適用作物名、使用量、時期、回数、使い方)を定めます。作物ごとにその農薬を用いて試験を行い、問題がないことを確認したうえで登録する仕組みとなっているのです。そして、使用基準をラベルに正確に表示することが義務化されています。
 したがって、よく効く農薬があっても、ラベルに書かれていない作物に対してそれを使用することは禁止されています。使用者はラベルを見落とすと大きな間違いになりかねません。

 厳格な規則であるため、野菜類の中に、使える農薬が無く生産に支障を生じるケースが生じ、大きな問題となりました。数百種もある作物名を全て表示することは無理なことから、農作物の形状や利用部位など類似性の高い作物をグループ化し、同一グループに属する作物に共通で同じ農薬を使用できる仕組み(作物群登録という)が2003年から実施されています。これにより、あぶらな科の葉菜類、キク科の非結球レタス(サラダ菜など)、シソ科またはセリ科のハーブ類など、使える農薬が無いという事態はかなり減少しました。

 この作物グループ名で農薬登録するには、同じ科に属する作物で、その形態や収穫部位、収穫ステージが同じ複数の代表的な作物の残留性、効果、薬害などデータを揃えることが必要です。更にデータを積んで、野菜類とか果樹類のような大グループ名で登録することもできます。
 ただし、生産量の少ないマイナー作物(年間生産量が3万トン以下)はグループ化が難しいものも多く、対応は不十分。これは、日本のみならず世界共通の課題であることから、OECDを中心にグループ化作物の拡大など検討を進めています。

農薬クイズ1 ネギニラに使える農薬はどれでしょう?
正解は(3)。「野菜類」とラベル表示のある農薬のみが使える(2012.3現在)

<お詫び>5月8日に記事を公開してから3時間ほど、エシャレットとエシャロットについて、「科が違うにもかかわらず」と記述していました。これは誤りで、エシャレットとエシャロットは同じユリ科ネギ属です。事務局による編集ミスであり、この部分の記述は削除しました。筆者の千野様、読者の皆様にお詫び申し上げます。

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千野 義彦

農薬メーカに38年間勤務し、現在は(社)緑の安全推進協会で、農薬の使用者等を対象とした講習会や電話相談などを実施している

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