食品衛生監視員の目
元食品衛生監視員として、食品衛生の基本、食中毒等の事故における問題点の追求、営業者・消費者への要望等を考えたい
元食品衛生監視員として、食品衛生の基本、食中毒等の事故における問題点の追求、営業者・消費者への要望等を考えたい
保健所に食品衛生監視員として37年間勤務した後、食品衛生コンサルタントとして活動。雑誌などにも寄稿している
7月7日に新潟市の飲食店で洗剤が混入した日本酒を客に提供して、男性2人が喉・食道の痛み、口腔内のただれの症状を呈し、救急で医療機関に搬送されました。幸いにも症状は軽く、手当てを受けて、入院せずに帰宅したとのことでした。この発生原因、同様な事例、対策を述べます。
発生原因
日本酒の商品ラベルの付いたままの一升瓶に、アルカリ性の食器用洗剤を小分けしていた。そのため、ホール担当者が日本酒を燗する際に誤って洗剤を混入させ、洗剤入りの日本酒を客に提供した。アルカリ性の食器用洗剤なので、飲み込んだ量が多ければ、胃洗浄後、経過観察としての入院が必要と思われるが、今回は軽症で、入院しなくて幸いであった。
根本的な問題
先ず、高級飲食店のようであり、店長、経営者に「バカッタレ」と言いたい。
今回の事件では、ホール担当者が悪いように感じられるが、店長、経営者の責任が大きいと考える。その理由は
(1) 商品ラベルの付いたままの一升瓶を使いアルカリ洗剤を小分けしていた。多分18リットル入りで購入し小分けしていたものと思う。
(2) 洗剤入りの一升瓶を、日本酒と同じ場所に置いていた。
一升瓶ではなくほかの容器に、なおかつラベルを剥がして入れてあったなら、この事故は起こらなかったかもしれない。これらを見過ごしたのは店長、経営者の責任である。「日常的に事故防止を指導していた」「事故防止マニュアルに書かれている」との答えがあるかもしれないが、従業員への指導(躾け)が不十分であったので発生したので、これも店長、経営者の責任である。
同様な事例
毎年全国で、洗剤、洗浄剤の混入による事故は数件発生している。多くの場合は軽症で、保健所が把握しても有症苦情(症状があった苦情)として処理されて、食中毒の事件としては取り扱われず、統計に上がっていない。ここでは典型的な事例を紹介する。
日本酒への洗剤混入事例1
1998年8月、岩手県の旅館で開かれた宴会で燗酒を飲んだ11人全員が喉の痛み等を訴えた。逆性石けん(塩化ベンザルコニウム)希釈液を一升瓶に入れて、酒を保管する倉庫前に置いていた。ラベルは剥がれており、「消毒液」とサインペンで書かれていたが、瓶とペンの色が似ていた。繁忙期だったためか、パート従業員は気がつかず、一升瓶を調理室のテーブルに置いてしまった。
日本酒への洗剤混入事例2
2004年7月、東京都の飲食店で、日本酒を飲んだ客8人が喉や唇の痛みを訴えた。食器などを洗う中性洗剤を、別の空き容器に移し替えて使っていた。そして、日本酒も別の空き容器に移し替えて冷やしていた。従業員が容器を取り違えたか、容器への移し替えや補充の際に中性洗剤が混ざった可能性があった。
お好み焼きに洗剤混入事例
2008年8月、福島県のお好み焼き店で昼食に「お好み焼き」「焼きそば」を食べた24人が唇や舌、のどにしびれを呈した。調理用油の容器に誤って合成洗剤を入れてしまい。それを使って調理したためであった。
このほかの事例
・ファミレスでコーヒーゼリー&アイスクリームに添えられたガムシロップが中性洗剤だった(1978年の事例で、ガムシロップがステンレス容器に入れられ提供されていた)。この時は、1名が救急で医療機関に搬送され、胃洗浄後、翌日まで入院した
・飲食店で漂白剤を「梅ワイン」として提供(梅ワインの空瓶に漂白剤を移し替えたのに、それを気付かず、確認せずに誤って客に提供。)
・給食施設で次亜塩素酸ナトリウム自動供給装置付の水道蛇口からの水を、飲料水用ポットに注ぎ、食堂内のテーブルに置いた
・地域活動の芋煮会で、食用油と間違って合成洗剤を使って調理した(合成洗剤の容器と、食用油のポリ容器とがよく似ていた)
・中華料理店で、食器洗浄用の漂白剤がグラスに小分けされ流し近くに置かれていたため、アルバイトがガムシロップと思い込みカクテルに注いだ(1998年の事例。被害者が3人出て、警察が業務上過失傷害容疑で捜査した)
対 策
多くの事件は、些細な不注意で発生している。店長、経営者は従業員に、洗剤、洗浄剤は調理場にある一番身近な化学性の毒物であることを十分に説明して指導してほしい。
なお、洗剤、洗浄剤を誤飲・誤用による事故発生時の応急措置は次に書かれているので、参考にされたい。
日本石鹸洗剤工業会:誤飲:誤用の応急措置
保健所に食品衛生監視員として37年間勤務した後、食品衛生コンサルタントとして活動。雑誌などにも寄稿している
元食品衛生監視員として、食品衛生の基本、食中毒等の事故における問題点の追求、営業者・消費者への要望等を考えたい