科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

米国Prop.37敗北以後のGM食品表示要求運動はいま(上)

宗谷 敏

キーワード:

 2012年11月6日、カリフォルニア州では遺伝子組換え(GM)食品表示を求める州民投票(Prop.37)が実施され、僅差をもって州民は表示法案を否決した。しかし、米国内のGM食品表示を求める運動は、国政の場にも飛び火し、各州単位では燎原の火のように広がってきている。上・下2回連載により、その状況を整理してみたい。

 Prop.37を支持した全国組織JustLabelItは、2011年9月に始動したGM食品表示を求めるFDA宛請願で、120万人(一説に130万人)以上の署名を集め、GM食品表示は不要とするFDAに圧力をかけている。規制当局を民意により直接的に方針転換させようとする試みである。

 JustLabelItの構成メンバーであるEnvironmental Working Group (EWG)とOrganic Voicesは、2013年3月6日に新たなGM食品表示イニシャティブをワシントンD.C.で立ち上げ、Organic Trade Associationとも協力して運動を展開していく。

 新たな全国組織としては、Food Democracy Now、Green America、Institute for Responsible Technology、Nature’s Path Organic FoodsとNutivaなどの非営利団体、農民、有機と自然食品企業が連携し、GMO Insideを立ち上げた。影響力は37州に及ぶ、と主催者たちは言う。

 初仕事としてGMO Insideは、2012年12月にGeneral Mills社のシリアル「Cherrios」のFacebookブランドページを組織的大量投稿で炎上させた。2013年2月には、バレンタインデー・キャンペーンと称し、チョコレート製造販売大手のHershey社とMars社に対しGM成分(大豆レシチン)の使用を止めるかGM成分表示をしろと要求し、Hershey社のFacebookブランドページにも大量投稿を行った。次に狙われたのはCoca-Cola社とPepsi社の炭酸飲料である。

 GMO InsideはGMOを米国市場から一掃するのを究極目的とし、食品企業は透明性を欠くと主張してCPG(Consumer Packaged Goods:消費者向け包装品)ブランド(今のところProp.37反対キャンペーンに資金提供した企業群)にターゲットを絞る作戦を展開している。

 国会(連邦議会)では、コロラド州選出Jared Polis下院議員が、オレゴン州選出Peter DeFazio下院議員と協力して、全国的なGM食品表示法案を議会に提出する計画を2013年2月20日に地元のボールダーで明らかにしている。

 以下は、個々の州別の動き(ABC順)、年号がない月日はすべて2013年。

<北部アラスカ州>
 海産物に依存するお国柄から、AquaBounty社のGMサケに対して重大な関心を寄せており、表示どころかFDAの承認そのものを阻止しようと州議会が躍起になっている状況にある。

<南西部アリゾナ州>
 GM成分を含んでいるのに表示されていないのは不当表示に相当するという改正法案SB 1180が、上院で議員立法により提案され商業・エネルギー・軍事委員会が検討中だ。

<西部コロラド州>
 下院議員が提出したGM食品に表示を必要とする法案HB1992は、2月21日のヒヤリングの直後に下院健康・保険・環境委員会が否決した。投票結果は2票対7票で、消費者のコストアップを招き、農家と農業ビジネスに不当な負担を強いるというのが否決の理由だった。

<東部コネチカット州>
 2012年議員立法されたGM食品表示法案は、同年3月に環境委員会を23票対6票で通過したが、食料生産者からの訴訟懸念と、他州との競合に不利益を招くとした州農務省からの反対などによって、同年5月に州議会下院で廃案とされた。

 しかし、市民グループ「The Right to Know GMO Connecticut Coalition」の支援を受けて、2人の下院議員が協力して少なくとも2本のGM食品表示法案を再度議会に提出しようと計画している、と2月7日のAP通信が伝えている。

<東南部フロリダ州>
 3月5日、下院議員がGM食品表示法案HB1233を提案した。なお、キーウェストではデング熱抑止のために英国Oxitec社GM蚊の放出計画が賛否を巡る大論争になっている。

<ハワイ州>
 下院では、「この製品はGM原材料を含むか、GM原料から生産されました」という表示を義務づけるHB174が2月7日下院農業委員会を通過したが、その段階で「ハワイ州の外部から輸入された産物のみに当てはまる」と条文が改正された。3月5日に下院を通過し、上院に送られた。

 下院では、2014年7月1日から、「この製品はヒトの健康に有害かもしれないGM食品製品を含みます」という警告表示を要求するHB348や、2014年1月1日からGM食品の州内販売を全面禁止する改正法案HB349も、提出を検討されているが、現実離れした過激さのために成立する可能性は低い。

 併せて2013年7月1日から「GMされていない」または「GM成分を含まない」という表示を許し、その遵守を担保するための2法案であるHB627HB631の提出も検討されている。

 一方、上院でも2014年1月1日から表示なしでGM食品販売を禁止するSB615が審議中だ。この法案は、GMサケをターゲットにしたものと見られている。

 多くのバイテク開発メーカーが進出して種子生産などを手がけているハワイ州は、「世界の遺伝子工学実験の首都」とも言われており、州議会には規制を強める法案であるHB479、HB97、SB370なども提案されている様子が、州政府HPから伺える。

<中西部イリノイ州>
 2月13日、上院議員がGM食品表法案SB1666を提案した。

<中西部アイオワ州>
 2月14日、上院議員が90パーセント以上のGM成分を含む食品への表示を義務づける法案SF194 を提案した。

<2013年3月18日掲載予定の「下」に続く>

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい