科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

カリフォルニア州GM食品表示法案の研究(上)~先ず概要を知る

宗谷 敏

キーワード:

 日本も暑いが、米国カリフォルニア州も熱い。2012年11月6日に予定されているGM(遺伝子組み換え、以下原文にGEとある場合はこれに従うが意味は同じ)食品表示に対する州民投票を前に、賛・否論争が白熱し連日メディアを賑わしているからだ。

 この件は、周辺事情と併せて過去2回(4月2日6月25日に少し書いた。今回は、カリフォルニア州の州民投票にかけられているGM食品表示法案に特化し、上・中・下3回にわたり内容を検証してみたい。

 11月6日に実施される州民投票には、同時に他の10項目の議決事項も州民の是非が問われており、GM食品表示は「Proposition(住民投票事項)37」と命名されている。2012年7月18日に、州政府が州民向けに発表したProp 37に関する解説を先ず読んでみる。

Proposition37 公式タイトルと要約:遺伝子組み換え食品。表示。州民発議法規

 遺伝物質が変化した植物または動物から作られた生か、あるいは加工された食品が消費者に販売される場合、表示されなければならない。

 このような食品、あるいは他の加工食品に「Natural」表示するか、広告することを禁止する。

 表示を免除される食品:認証された有機;意図することなく遺伝子組み換えされた成分を含んで生産された;遺伝子組み換えされた材料を給餌もしくは注射された動物から作られたが、動物自身は遺伝子組み換えされていない;遺伝子組み換えの成分を加工するためだけに使用するあるいはほんの少量だけを含む;医療目的で供与される;レストランでのように直ちに消費される販売;あるいは酒類(筆者注:具体的品目はカリフォルニア州酒類管理法Alcoholic Beverage Control Actに従うとしているが、有力地場産業であるワイン業界からの反発を避けるために除外されたとの推測もある)。

 立法アナリストによる州政府と地方自治体に及ぼす財政的影響見積もりの要約: 遺伝子組み換え食品表示規制実施に伴う年間の公費増加額は、数十万ドルから百万ドル以上に及ぶだろう。この法案の違反に起因する訴訟のために州政府と地方自治体(筆者注:州内の郡以下を指す)に費用がかかる可能性があるが、これらのコストの若干は訴訟関係者が既存法により支払いを要求される訴訟提起手数料によって賄われるため、おそらくあまり重要ではない。

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立法アナリストによる分析

「背景」

GE食品 (GE作物の簡単な技術的解説と目的の説明→省略)2011年に、米国産トウモロコシの88%パーセントとダイズの94%がGE種子から栽培された。他のGE作物は、アルファルファ、カノーラ(ナタネ)、ワタ、パパイヤ、サトウダイコン(テンサイ)とズッキーニを含む。さらに、GE農作物がしばしば(高果糖コーンシロップのような)加工食品(生の農作物ではない食物を意味する)に食物成分として含まれている。様々な試算によれば、カリフォルニア州の食料品店で販売された食品の40%から70%がなんらかのGE成分を含んでいる。

連邦規制 連邦法ではGE食品への規制は不必要。但し、USDA(米国農務省)は近縁植物種に悪影響の可能性があるGE農作物使用を一部制限している。ほとんどの食品の安全性を保証する責任はFDA(食品医薬品局)にあり、食品添加物は安全であるが、適切に表示される。

州の規則 現行州法上は、州政府機関がGE食品を規制するように要求されない。しかし、DPH(公衆衛生局)にはほとんどの食品の安全性と表示を規制する責任がある。

「提案」
この法案は州法にいくつかの変更をもたらす。それらは(1)販売されるほとんどのGE食品が適切に表示されることを要求し、(2)DPH にこれらの食品表示の規制を要求し、(3)個人に、法案の表示条項に違反した食品メーカーを起訴することを許す。

食品表示 小売りされるGE食品に遺伝子組み換えであるという明示が必要となる。生食の果菜類は「Genetically Engineered」とパッケージの前部に表示するかラベルが必要とされる。もし個別包装されなかったり、ラベルを貼れない場合は、商品棚やケースに表示されなければならない。GE由来の加工食品は、「Partially Produced with Genetic Engineering」または「May be Partially Produced with Genetic Engineering」という表示が必要になる。

(食料品店のような)小売り業者に、正確に表示されることを保証し遵守する第一義的な責任があるだろう。GE表示されない場合には、小売り業者がなぜ表示を免除されているのかを文書で立証しなければならない。この方法には2つある:(1)(卸売業者のような)製品供給者から意図的にまたは故意に遺伝子組み換えされてはいないという宣誓陳述書を入手すること(2)製品がGE成分を含まないという独立した第三者機関による証明を受けること。

(農民と食品メーカーのような)食品サプライチェーン全体の他の事業者も、これらの証拠を保持することに同じく責任があるだろう(訳者注:一定のトレーサビリティを要求していると考えられる)。また、法案は特定の食品への表示要件を除外する。例えば、酒類、有機食品、レストラン食や直ぐ食べられるように意図された他の食品(総菜)は表示されなくてもよい。牛肉やチキンのような動物製品が、GE農作物を与えられていたかどうかにかかわらず、(その動物が)遺伝子工学を通して直接生産されていなければ同じく表示を免除される。

さらに、法案は「natural」、「naturally made」、「naturally grown」、「all natural」などの用語をGE食品の表示と広告に使用することを禁止する。法案の記述を考えると、遺伝子組み換えされているかどうかにかかわらず、これらの制限が「一部の」(訳者注:敵対勢力を増やしたくない表示推進キャンペーン側はGE食品のみに限定するよう裁判所に訴えたが、裁判所は8月10日、州政府のオリジナル文書の「all=すべての」を、「some=一部の」に改めるよう命令したに留まった)加工食品にも当てはまると法廷によって解釈される可能性がある。

州の規則 このGE食品表示規制は、食品の安全性と表示に責務のある DPH によって規制されるだろう。法案はDPHに法案を実行するために必要とされる規則を採択することを許す。例えば、食品がGE成分を含むかどうか決定するために、DPH はサンプル抽出法に関する規則などを開発する必要があるだろう。

法案執行のための訴訟行為 法案の違反が、州政府、地方自治体、あるいは私的当事者たち(筆者注:つまり消費者や消費者団体)によって起訴される。法案は、これらの当時者に、調査や起訴で発生した分を含むすべての妥当なコストを与えることを裁判所に認める。さらに、法案は、州の消費者救済法(Consumer Legal Remedies Act)に基づき、どのような具体的損害も生じたことを示す必要なしに、消費者が違反だと主張するだけで起訴できることを認める。

財政的影響 (→上述の要約でほぼ言い尽くされているので省略)

 以上が州政府広報であるが、Prop 37の経済的影響に関しては、The Bank of Americaの創始者 A. P. Giannini氏を記念する財団の基金によりカリフォルニア大学の研究者たちが取りまとめた(より第三者的立場にに近いものと考えられる)広範で詳細な分析報告書が発表されている。その結論のみ参考に記しておく(本文には、日本のGM食品表示との制度比較考などもあり、興味深い内容である)。

 この法律は消費者の知る権利のためであると主張され、提案者がこれはGM食品に対する反対の第一歩であると表明しているが、カリフォルニアのGE食品について知る権利法案、Prop 37の意図は紛らわしい。

 Prop 37はより多くの選択肢とより良い情報をもたらすであろうという主張にもかかわらず、もしProp 37が承認されるなら、カリフォルニアの消費者は、食品市場でより少ない選択肢と紛らわしい情報に直面することになるだろう。

 選択肢はトウモロコシ、ダイズとカノーラを成分とする加工食品で減少し、これらと他の加工食品の価格が全体的に上昇するだろう。

 影響は食品と食品企業によってさまざまだろうが、次の3つの一般的な影響は予想できる:

-non-GM承認の加工食品が食料品店から(訴訟リスクを避けて)事実上消滅するだろう。

-(USDAがGM成分の偶発的混入に対しゼロトレランスも閾値も定めていない上に、有機食品表示は検査と告訴への免罪符になっており、競合するnon-GM食品が消滅するから)有機食品の市場占有率が増加するだろう。

-食品表示は消費者にとって紛らわしいものになるだろう:GMと表示された食品が非常にわずかのGM成分しか含んでいないかもしれない一方で、有機食品はGM成分を偶発的に含んでいたとしても、一切表示されないだろう。

 カリフォルニア大学の分析通り米国内のnon-GM加工食品がスンナリ消滅すれば問題はないのだが、カリフォルニア州の表示制度は、食用植物油のような最終製品で検証が困難(つまり訴訟リスクを伴わない)な加工食品もGM表示の対象とするため、このカテゴリーにおいてはnon-GM表示が生き残るかもしれない。

 次回の(中)及び(下)では、そのあたりからの日本への影響の有無や、立法審査を経た法案の条文テキストにまでわけいって、その問題点を検証してみる。

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい