科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

トウモロコシからダイズの時代へ~バイテク各社の開発パイプライン(上)

宗谷 敏

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 2011年8月29日付「Farm Industry News」が、ここ10年あまり植物研究者の関心の対象はトウモロコシにあったが、今やスポットライトを浴びているのはダイズであるとして、開発各社のパイプラインについて論じている。開発の方向性は、スタッキング(形質の複数掛け合わせ)と害虫・病原菌抵抗性や健康志向の脂肪酸組成改変などに整理できる。(上)では、米Monsanto社と米Pioneer Hi-Bred社を取り上げる。

<Monsanto社の取り組み>

 Monsanto社のRoy Fuchs油糧種子技術部門長は、8種類の除草剤耐性や害虫抵抗性を併せ持つ同社のスタッキングGM(遺伝子組み換え)トウモロコシ「SmartStax」の登場により、トウモロコシの開発は一段落したとの見方を示し、次はダイズのスタッキングだと公言する。

 除草剤グリホサート(「ラウンドアップ」)に耐性を持ち、交雑育種で収量も高めた第2世代「Roundup Ready 2 Yield」ダイズ(MON89788系統)をプラットフォームとし、除草剤ジカンバ耐性をスタックしたGMダイズの5年以内の商業化が期待されている。Monsanto社は商業化に当たり、除草剤ジカンバで優秀な製品(「Clarity」)を持つ独BASF Plant Science社と開発協力協定 を結んでいる。

 ジカンバ耐性のみを持つGMダイズ(MON87708) が、Nebraska大学Lincoln校との協力によって新たに開発された(07.5.25.  Science )ことは、以前書いた 。MON87708は、現在日本で安全性承認を申請中だ。

 害虫抵抗性GMダイズでは、チョウ目害虫抵抗性ダイズ(MON87701 系統)及びこれと「Roundup Ready 2 Yield」ダイズ(MON89788系統)とのスタック品種が、日本の食品・飼料安全性審査をクリヤーしており、EU(EFSA:欧州食品安全機関)が審査中だ。フル承認を経て南米への展開が計画されているようだ。

 北米の農家も悩まされているアブラムシ(Aphid)ダイズシストセンチュウ(SCN)や、04年にハリケーンに乗って南米から北米に運ばれてきたとされるアジア型ダイズさび病病原菌に対する抵抗性ダイズも研究段階にある。

 脂肪酸組成改変ダイズの開発も盛んだ。06年1月から米国においては加工食品へのトランス脂肪酸(TFA)表示が義務付けられた。Monsanto社は、これへの対応商品として05年から低リノレン酸ダイズVistiveを投入した。Vistiveダイズでは脂肪酸組成改変にはGM技術を用いず交雑育種に因ったが、Roundup Readyダイズの除草剤耐性を組み合わせて販売された。

 このパイプラインの発展型としてVistive Goldダイズ(MON87705)がある。このダイズは、VistiveのTFA産生抑止効果に加え、GM技術により飽和脂肪酸の含有量を下げ、オレイン酸含有量を高めて健康志向に応え、さらに除草剤耐性がスタックされている。また、このタイプは後述のDuPont・Pioneer連合の高オレイン酸ダイズ群ともども、従来ダイズ油の泣き所であった加熱調理時の安定性向上も売りにしている。

 消費者の健康志向から、最近最も注目を浴びているのがエイコサペンタエン酸(EPA)・ドコサヘキサエン酸(DHA)などの魚油に含まれるオメガ3系不飽和脂肪酸だ。米国において深刻な心臓疾患の予防をはじめ様々な健康増進効果が喧伝されており、サプリメントとしても売れ筋商品群である。このオメガ3系不飽和脂肪酸であるステアリドン酸(SDA)を産生させるGMダイズがMON87769だ。Monsanto社は、今後2年間で主要諸国における規制クリヤーを狙っている。

<Pioneer Hi-Bred社の取り組み>

 米DuPont社の子会社という立場からも、DuPont社が先鞭をつけた260-05系統など高オレイン酸GMダイズの発展型が主力商品になる。ほとんど(高価な)オリーブ油の組成に近い75%以上のオレイン酸を含有し飽和脂肪酸を20%以下に押さえた「Plenish high oleic oil」ダイズ(DP-305423-1)は、12年の商業化を目指し、既に米国においてはフル承認を獲得 している。日本とEUでも認可に向けて現在動いており、併せて(Monsanto社の)グリホサート耐性ダイズとのスタック品種も申請されている。

 除草剤耐性では、グリホサート耐性とアセト乳酸合成酵素(ALS)阻害剤耐性とを併せ持つ「Optimum GAT」ダイズ(DP-356043-5)がスタンバイしているが、Monsanto社からこのスタッキングに対するライセンスへのクレーム(11.6.15. Wall Street Journal )が提出されたため、具体的商業化のめどは立っていない。マルチ除草剤耐性については、2010年代後半の実用化が期待されている。

 尚、DuPont社は自社の「Optimum GAT」ダイズ技術と、米Dow AgroSciences社の除草剤2,4-Dに耐性を持つダイズ「Enlist」技術とのクロスライセンスについて09年11月12日付けで合意した。

 アブラムシ抵抗性ダイズとSCN抵抗性ダイズの商業化は、各々2~5年、3~5年先とされており、先述のMonsanto社からは若干遅れているようだが、しっかり追走している。

(次回は、瑞Syngenta社、と米Dow AgroSciences 社及び独Bayer CropScience社の取り組みについて取り上げる予定です。)

<お知らせ> 読者よりご指摘がありましたので、以下2点を9月5日、訂正しました。 (1)Monsanto社のチョウ目抵抗性ダイズMON87701 系統について、当初アブラムシ抵抗性を有すると書きましたが誤りにつき削除しました。 (2)Monsanto社のスタック品種MON87701系統×MON89788系統)の食品・飼料安全性について当初、EFSAが承認済みと書きましたが、まだ審査中でしたので修正しました。

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

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一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい