目指せ!リスコミ道
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
北海道の銘菓「白い恋人」ブランドで知られる石屋製菓について、この1週間、さまざまな報道が行われている。その詳細が明らかになるにつれ、これだけリスクマネジメントについて無防備なブランド企業があったのかと、唖然とする思いで見ている。同じ菓子業界における不二家の一連の問題が起きてから半年もたっていないのに、北の同族企業には、遠過ぎて何の危機意識も教訓ももたらさなかったのだろうか。またしても起きた食品企業の問題に、消費者の食に対する不信感は当分拭えそうにない。
石屋製菓の問題について、私が最初にNHKのテレビ報道に接したのは8月15日、同社製品の代表的な土産菓子「白い恋人」の賞味期限の改ざんや引き延ばし問題について、同社に対して保健所や道庁の立入り調査が行われているシーンであった。華やかなお城の形をした社屋をバックに繰り広げられている光景は何ともミスマッチで、白い恋人のブランドイメージがガラガラと失墜していく印象を受けた。同日の記者会見では、担当課長の表示偽装の提案に容認してしまった同社担当部長が「つらい気持ちだった」とコメントする場面もあわせて映し出されていた。
この報道を見て、思わず初期の不二家報道と重ね合わせてみたのは、私だけだろうか。頭を下げる社長、ブランドイメージを失墜させる象徴的な映像、問題を起こした現場責任者の悲痛な表情……。その前後の報道でも、食品企業のクライシスマネジメントの欠如が次々と露見している。
報道に先立つ8月12日、新聞各紙には同社のアイスクリームを全品回収するという謝罪広告が掲載されていた。掲載内容は、「食品衛生法の規格基準に適合しない商品があった」ため、回収を行うという内容であったが、この文面ではどの規格基準なのか、添加物か、農薬や動物用医薬品か、成分規格か、消費者にとってはわけが分からないものであった。
通常、社会面の下に掲載される回収広告は、回収製品の概要と範囲、回収に至った原因、回収方法が掲載される。加えて健康影響、再発防止策まで記載されていれば、消費者にきちんと説明している印象を与えるものである。最近は優良事例(回収広告に優良もあったものか?)も増えてきたように思っていたのにもかかわらず、同社の広告はあまりにも説明不足であった。
同社製品、特に「白い恋人」には全国にたくさんのファンがいるはずだが、この回収広告を見る限り、これまで適切な消費者対応や危機管理対策が講じられていたのだろうかと思わざるを得ない。さすがにその程度の情報公開では苦情もきたのであろうか。その後の15日の記者会見において、この規格基準不適合内容が大腸菌群検出であったこと、ほかにもバウムクーヘンの一部から黄色ブドウ球菌が出たこと、加えて「白い恋人」の賞味期限の改ざんについて記者発表を行い、それを受けて大々的な報道と発展した。
しかも、一部報道によれば回収広告の文面作製に当たっては、保健所の助言があったにもかかわらず、それを無視して大腸菌群検出を明記しなかったという。にわかには信じられないほど、非常識である。食品衛生法の規格基準違反で回収が指示されれば、当然従うべきだろうし、保健所が回収しなくてもいいですよといっても、それでも回収する会社がたくさんある中で、何を考えているのか。
そもそもこの事件は、社内関係者とみられる人物から大腸菌群検出の内部情報が寄せられたことから始まっている。その後、保健所の検査で事実と判明したことから、回収に至っているが、保健所の立ち入り調査でもアイスクリームの検査の記録が確認できなかったという。問題発生時における保健所対応を誤るとその後の痛手は大きいことは、これまでの様々な事例から学習しなかったのだろうか。
また、記者会見もやり方もクライシスメンジメントができていたとはとても思えない。準備を周到に重ねて臨んだものとも到底思えない内容である。記者会見のたびに出てくる新しい事実。次々と過去の問題も一緒に記者発表すると、記者も消費者もまだまだほかにも隠しているのではないかと疑ってしまうものである。
実際に次の記者会見では、「白い恋人」の賞味期限を在庫状況によって延長していたことを11年前から行っていた新事実を明らかにしており、その理由について包装フィルムを変更して、その効果に自信があり、6カ月は大丈夫だと社長自ら説明している。科学的に検証しているのであれば、その事実についてデータを用いて説明するべきであろう。データ無くして勝手に期限を延ばすのは消費者に対する背信に過ぎない。
そして17日の記者会見、とうとう社長は引責辞任を表明した。同族企業で驕りが生まれてしまったとする社長の言葉通り、ものづくりの基本を忘れてしまった経営者は早いこと去ってもらったほうがいいだろう。ただ、経営者が変わるだけでブランドが立ち直るとも思えない。消費者が楽しい旅行のお土産に、わざわざ問題のあった商品を手に取るだろうか。消費者はそんなに忘れっぽくない。信頼回復の道は遠いといわざるを得ないだろう。
ところで話は脱線するが、ここでメディアバッシングが過熱すれば、不二家報道問題の二の舞になりかねないだろうが、さすがに今回、メディアは自制的であるようだ(と信じたい)。というのも、不二家報道問題の中でも特に内容が悪質であったTBSの「朝ズバッ」報道において、BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会の審理が行われていたが、8月上旬に出た審査結果の中でTBSにおける報道に問題があったことが指摘されている。その矢先であることから、過剰な報道は今回は自粛されるのではないだろうか。メディアの執拗なバッシングが行われなければ、消費者はもしかしたら忘れっぽいかもしれない。そのくらいに、消費者意識は報道に左右されやすいような気がしている。
それにしても、一番気の毒なのは、一生懸命ものづくりに励んできた現場の方たちである。同社の発表によれば自主休業期間を無期限に延長して、出荷した全商品を回収するという。アイスクリームなど一部製品は廃棄が開始されていると聞く。またしても安全でおいしく食べられるものが廃棄されてしまうのか。「白い恋人」は缶入りで、もし廃棄されるとしても分別が大変だろうなとか思うと、なんだか辛くなる(「白い恋人」の缶をとっておいて、未だに小物入れにつかっている私である)。この国は、何でこんなに簡単に捨てられるのだろうか。
そんな日本に疑問を持ったのが理由ではないが、私事で恐縮だが、先週よりタイ・バンコクに居を移している。オットの急な海外赴任に伴い、日本を離れ家族で帯同することになったのである。この連載を開始した当初は、考えるところもあって、勢いのあるタイトルをつけてしまったのだが、こんなことになるとは全くの想定外…恥ずかしい限りである。ただ、異国(しかも日本への食品の供給国である)から、食の安全について考えてみるのも1つの機会かもしれないと、少し開き直っている。
こちらの食のリスクは、とにかく食中毒である。免疫力のない日本人は簡単に下痢をするし、赤痢にもなる。日本に輸出されるタイのハーブは残留農薬違反が時々出ていたりするが、そんなことはタイの人たちは知ったこっちゃないのである。また、ものがよく腐るので、殺菌・保存技術として食品照射も利用されている。屋台にぶら下がっている豚肉の発酵ソーセージは、食品照射が行われているはずだが、食中毒になるよりはましであろう。こういう国が、日本への食の一大供給基地であることも含めて、これから東南アジアについて見聞を広められればと思っている。(消費生活コンサルタント 森田満樹)