科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

お国柄GM圃場破壊活動の罪と罰-Part 2

宗谷 敏

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 世界各地で頻発しているGM(遺伝子組み換え)圃場破壊活動、2回目は本場?のEUについて観察する。最近報道されたのは、2011年7月9日と11日の夜、ドイツの異なる2地域で起きた事件だ。バイオプラスチックの原料用ジャガイモやスイス連邦工科大学(ETH)が開発した耐病性コムギなど、ドイツ政府が研究資金を拠出した大学の試験圃場が破壊され、損害額は25万ユーロ(約2,800万円)と見積もられている。

TITLE:’’Brutal, targeted attack’’-Field trials with GM potatoes and wheat destroyed
SOURCE: GMO Safety
DATE: 2011年7月12日

 これらの破壊行為は、襲撃側が覆面した上にバットや催涙スプレーで武装し、ガードマンの携帯電話を奪って車をパンクさせるなど完全に暴力的な違法活動だった。今回の2件とも容疑者は捕まっていないが、過去の判例として08年4月21日 GMコムギ試験圃場を破壊した6名(4名は女性)に対し、09年6月に法廷は10万4千ユーロ(約1,160万円)の損害賠償を命じている。

 ドイツに先立ち5月29日には、ベルギーでも耐病性GMジャガイモの試験圃場が破壊された。こちらは、デモ行進から飛び出した過激な活動家たちが、警察の警戒線を突破したもので、双方で18名が負傷し40名がその場で現行犯逮捕された。襲撃を主導したのは、隣国フランスから貸し切りバスで乗り込んできた「外人部隊」だったとされている。

TITLE: French anti-science vandals invade a Belgium farm and destroy crops
SOURCE: Bbiofortified
DATE: 2011年5月29日

 EUにおける活発な実力行使の背景には、GM作物とグローバリゼーションに反対する根深い感情が存在しており、圃場破壊工作が目立ち始めたのは99年11月の米国シアトルWTO(世界貿易機関)閣僚会議への過激な抗議活動(その激しさは今でも関係者たちの語り草になっている)前後からだ。

 そして、フランスには、地方の酪農家だったJosé Bové氏(1953年~)というGM圃場破壊の象徴的人物が登場した。98年1月8日にフランス南西部のスイスNovartis社(現在、農業部門はスイスSyngenta社に統合)倉庫に仲間たちと侵入し、GMトウモロコシ種子を損壊したのが皮切り(この件では執行猶予付き懲役6ヶ月)だ。

 99年8月12日、Bové氏は、フランス国内に建設中だった米国McDonald’s社のレストランを、反グローバリゼーションのターゲットとして予告破壊する(禁固刑44日間)。このMcDonald’sの店舗破壊は模倣犯を産み、00年4月19日、北西部ディナンで27歳の同店女性従業員が不幸にも爆弾テロで死亡した。

 その後も、Bové氏は過激なGM圃場破壊活動と入獄や獄中でのハンストを繰り返し、07年のフランス大統領選に出馬するも惨敗。しかし、09年6月の欧州議会選挙には、緑の党と協力してフランス南西選挙区から立候補し当選した。

 英国では、11年7月23日、イングランド東部ノーウィッチで抗議集会を開催した反対派60名以上が、John Innes Centreに押し掛けた。Sainsbury Laboratoryが試験栽培中の耐病性GMジャガイモに反対し、彼らはトラクターで運んできた有機ジャガイモ20キロを門前にぶちまけた。

 GM技術を使わないでも病気に強いジャガイモの品種があるという主張のデモンストレーションだ。この時、John Innes Centreの研究者たちは、門外に出てきて抗議者たちと「友好裡に」話し合ったという。

TITLE: Protesters meet GM crop scientists
SOURCE: Newmarket Journal
DATE: 2011年7月27日

 さすがは紳士の国!とお思いか? 実は、英国もそれほど大人しくはないのだ。99年7月に、政府の農場規模評価(FSE)のためにGMトウモロコシを試験栽培していた民間借り上げ圃場が、Peter Melchett 卿(現・土壌協会政策担当理事)に率いられたGreenpeaceの活動家28名によって破壊された。

 しかも、地方裁判所の陪審は、00年9月20日、GM花粉の交雑から他の財産を守る目的なら、合法的に圃場を破損できるという緊急避難条項を適用し、彼ら全員を無罪にしてしまった。この判決が後に与えた影響は大きく、捕まったほとんどの実行犯と弁護士が法廷で緊急避難を持ち出す。

 他にも07年7月6日、農業・植物学研究所(NIAB) で行われていた独BASF社の耐病性GMジャガイモ栽培試験の圃場が破壊された。また、08年6月5日、英Leeds大学の耐病性(シスト線虫抵抗性)GMジャガイモ試験栽培圃場も破壊された。「Eco-Warriors」の活動では、英国も他国に負けてはいない。

 試験圃場の破壊は、農家に経済的ダメージを与える商業圃場の破壊よりも大目に見られるという悪習が、EUにはある。EUに吹き荒れるこれらの試験圃場破壊の嵐は、当然の帰結としてGM植物栽培試験件数にも影響を与えている。

 最初に挙げたドイツでは、07年には80件あったGM試験栽培が今年は16件になり、そのうち6件が既に破壊された。05年から10年までのドイツにおける圃場破壊は累計210件に達するという。

 1992年から2008年までにEUで実施されたGM圃場栽培試験の件数が、ドイツ政府のポータルサイトGMO Compassで纏められている が、ここでも顕著に下降傾向が示されている。このページの右欄の国名をクリックすれば、各国別件数も参照できるが、同様に減少している。

 企業には北米に研究拠点を移すなどの待避策もあるだろうが、区別無く破壊されている公・私研究機関や大学はたまったものではない。防止措置へのコストも嵩むから、途方に暮れる。

 Part 1のオーストラリアにおけるGreenpeaceの圃場破壊活動に対する政党(緑の党を除く)、メディア、科学者、農家、さらに一般世論からの批判集中は、ハンパではない。暴力行為まで伴う違法活動の頻発は、過激なGM反対派が論理では勝てないことへの焦りの裏返しであることに、今までは割と寛容だったEUもそろそろ気付くべきだろう。

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい