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斎藤くんの残留農薬分析

ミツバチ減少の理由はそんなに単純な話ではないらしい

斎藤 勲

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6月1日農林水産省より、「みつばちの減少に関する緊急調査研究」課題を決定したとのプレスリリースがあった。原因はよくわからないが、「ネオニコチノイド系農薬が悪い!」「病気だ!」「ストレスだ!」等、いろいろ憶測が飛んでいる問題でもあり、急遽、緊急対応型調査研究課題として採択されてミツバチ群の消長を定時的に調査するとのこと。原因はそんなに単純な話ではないらしい。緊急調査研究の課題名は「我が国養蜂群の健全性の現状調査と健康状態に影響する要因の解析」で、研究総括者として農業・食品産業技術総合研究機構の畜産草地研究所の木村澄氏、共同機関として名古屋大学の門脇辰彦氏らが、農薬・疫学的解析とミツバチの消長データを比較し、原因究明につながるクリティカルなポイントを抽出するという。単年度研究であるが期待したい。

たまたま、5月31日付けで中日新聞に「ミツバチが消える?」と題した、図解入りの特集があり、畜産草地研究所の木村氏、名古屋大学大学院生命農学研究科の門脇氏が取材協力として作成していた。図解入りで素人にもわかりやすいのでこの内容を紹介しながらミツバチ君の大変な状況を見てみる。

もともと日本にもニホンミツバチが生息し、江戸時代には紀州藩などで蜂蜜を作るため盛んに養蜂が行われていたという。しかし、働き(蜂蜜を作る)が悪い上に、ある日突然いなくなるなど管理しづらい種だと思われていた。明治以降、養蜂のために管理しやすいセイヨウミツバチが主流となった。仕事の面ではセイヨウミツバチのほうが優等生なのだろう。蜂の性格的には、私自身を見ているようでニホンミツバチの方が親近感はある。現在養蜂されているミツバチは、セイヨウミツバチが主流で、いろいろな花の蜜を集めることと、いちご、メロンなど果菜類栽培の花粉交配という農業生産において大事な仕事をしている。

そして今、ミツバチが足りないと問題になっている。日本は年間1万匹以上の女王蜂をオーストラリアなどから輸入していたが、病気の発生で07年11月から輸入の途絶が続いている。更に悪いことに、国内におけるダニ被害等が原因で、働き蜂が予定どおりに確保できない状況になっていると言う。養蜂家の方への調査によれば、養蜂家はミツバチ減の最大原因はミツバチヘギイタダニなどのダニだと考えており、農薬だと考える人数を大きく上回っている。

ミツバチを利用している施設野菜は、イチゴ、メロン、スイカ、キュウリ、カボチャ、ナス、ゴーヤ、トマト、サクランボ、採取用ダイコン、採取用キャベツなど多義にわたり、当然だが屋外の果樹などもミツバチなどの花粉交配に頼っている。トマトやピーマンにはミツバチではなくマルハナバチが利用されている。今年は養蜂業者から供給されるミツバチが不足し値段も高騰している。先日もテレビでナシの生産農家の人が自分で大きな木を相手に受粉作業をやっている映像が出ていたが大変な作業である。

それにしても、今回のミツバチ騒動でいろいろ見てみると、昔のハチは、ニホンミツバチのように自らの意思で生きていけばよかったが、近年はセイヨウミツバチのように家畜化され優等生のハチだけが残ってきて、さらに徹底的に業務の効率化が進み、年中働かされている現状がある。ハウスで働いたハチの中には仕事が終わったら処分されてしまうという使い捨て群もあるという。この不況の時代、原因は異なるが過剰労働、ストレス、病気、栄養不足による働き蜂の短命、増殖不能が原因で群が維持できず崩壊(死亡)という説明を見ると、ひとごと(ミツバチ君ごと)とは思われない。

今回の原因の1つとしてあげられているダニの問題も、気まぐれ者のニホンミツバチの方が結構強いと言う。飼育に関しても難しいといわれていたが、ニホンミツバチに適した飼い方をすれば出来るという養蜂家も出てきている。時代がニホンミツバチに追い風となっている。 新聞の説明の中で、名古屋大学の門脇氏も「ミツバチは食物として花に依存していますが、農業形態や気候の大きな変化により、利用できる花の種類や数が少なくなっているのかもしれません」と述べている。

昔は、田植え前の田んぼは結構レンゲ(マメ科ゲンゲ属)が植えてあり、ミツバチはせっせとレンゲに通って蜜を集め、その後田んぼにすき込んで窒素肥料としていたが、今はあまり見かけない。今、レンゲ蜂蜜の多くは中国産である。最近では、レンゲを肥料としてだけではなく、レンゲの花が咲いている状態で、雑草を押さえてそのまま水田を耕作しないで田植えをする不耕起栽培とレンゲ米を兼ねた栽培方法もあるとか。

菜の花もミツバチにとっては大切な蜜集めの場所だったが、今では菜の花畑が話題になって観光地となるほど、珍しいものとなってしまった。花が減ってミツバチが活躍する場も減っているのが現状である。そうなってしまっている原因の一つは田植えが早くなるお米が増えたことが大きいらしい。コシヒカリなど有名ブランドのお米がそれを助長している。確かに早く植えれば早く収穫できるので、台風時期前に刈入れが終わるメリットもあるが。

このように考えてみると、ミツバチの減少ひとつを考えてみても私たちのライフスタイルと密接に関係しており、一筋縄ではいかないことが理解できる。ヒトが自然の中で自分達のために行う農業という活動と、それが与える負荷とのバランス感覚が問われている。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)

<日経BP社FoodScience2009年6月4日掲載の「ミツバチの減少の理由はそんなに単純な話ではないだろう」の記述の一部変更について,2015年1月13日>

2009年6月4日に日経BP社Food Scienceで公開し、Food Scienceの終了後、2011年4月からFOOCOM.NETで公開してきた本記事の中で、農水省資料などを基に、「日本は年間1万匹以上の女王蜂をオーストラリアなどから輸入していたが、病気の発生で07年11月から輸入の途絶が続いている」と記述してきました。しかし、関係者から「事実関係に間違いがあるとの指摘を農水省に対して行い、農水省のQ&Aも変更されました」とのご連絡をいただきました。

農林水産省の農薬による蜜蜂の危害を防止するための我が国の取組(Q&A)で、「オーストラリアの一部の州で蜜蜂の病気届出制度が変更され、同国から蜜蜂を輸出する時に病気がないことを保証するための方法などに関する日本とオーストラリアの間の取り決めの内容が見直されるまで、オーストラリア政府が自主的に女王蜂の輸出を見合わせていたものです」と説明されています。そのため、2015年1月13日、従来の記述に取り消し線を引き、変更致しました。