斎藤くんの残留農薬分析
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
これは、2002年の学会(日本食品衛生学会、マイコトキシン研究会)で発表された事例である。科学的な牛乳中アフラトキシンM1汚染実態調査データを、ハザード報道的な見出しを付けるとこうなるのだろうか。しかし、「発がん性カビ毒のアフラトキシンがほとんどの牛乳から検出!」といったハザード報道ではびっくりさせられることはあっても、正しい実態は伝わってこない。読み手のためになるリスク報道になっていないからである。
事実を正確に記述すると、この調査は長年カビ毒分析に携わってきた地方衛生研究所などの専門家たちが、全国で購入した208検体の市販牛乳をアフィニティークロマト(アフラトキシンなどを選択的に捕捉する)を用いた精密微量分析法で検査したものである(Nakajima Mら、Food Addit Contam.21(5):472-8(2004))。その結果、トウモロコシなどの飼料に由来するカビ毒アフラトキシンB1が体内で代謝されて乳中に排泄されるアフラトキシンM1が207検体(99.5%)から微量に検出された。その濃度は0.001〜0.029ppb(μg/kg)、平均0.009ppbであった。確かに検出はされるが、その濃度はCodexの基準乳0.5ppbと比べて平均で50分の1位なので、まあ大丈夫かなと判断できる。
同時に調査された飼料中のアフラトキシンB1は平均で0.5ppb検出されたが、飼料の基準10ppbは十分にクリアしていた。この餌を食べた牛の体内で0.3〜6.2%程度のB1がM1に変換(水酸化体)したものと推定されている。このように、検査データに基づく飼料管理をきちんとやっていれば牛乳中のアフラトキシンM1をわざわざ分析しなくても有効であることも理解できる。日常的に、この程度の牛乳中アフラトキシンM1を摂取していると肝がん発生率が年間50億人に1人程度の増加することとなり、現状レベルでは問題はないと判断されている。こういうデータこそ、嫌になるくらい報道してもらいたいものである。しかし、とかくリスク報道になると問題の本質が正確に伝わらないのも事実である。
自然界ではアフラトキシンB1、B2、G1、G2が産生される。その中で発がん性が強いのはB1なので、日本では現在、B1だけが規制されている。液体クロマトグラフィーで分離後検出する場合、ある波長を当てると発生する蛍光を検出するのだが、B1、G1といった毒性の強いほうの感度がはなはだ悪い。そのため試薬を使って化学構造の一部(ビスフラン環の二重結合)を切って水酸化すると立体構造が変化してB2、G2と同じように蛍光物質に変化して劇的に感度がよくなる。オタクっぽいが、中々面白い分析である。
カビ毒の産生に関しては、アフラトキシンはAspergillus属(真菌)が産生するカビ毒であるが、日本国内では気候的にアフラトキシンが産生されないと言われている。検出される多くが、輸入されるピーナッツやピスタチオなどのナッツ類やトウモロコシなどである。そのため、輸入時の検査は継続的に行われており、厚生労働省の輸入時検査結果でも違反事例が報告されている。日本では全食品でアフラトキシンB1が検出されてはならないとなっているが、検査方法の検査限度から10ppbという濃度が実質的な基準として運用されている。そのため、トウモロコシから11ppbのアフラトキシンB1が検出されれば違反廃棄となる事例が報告されている。
アフラトキシンはB1以外にもG1、B2、G2という構造が少し異なるものがあり、諸外国では総アフラトキシンとして規制値を設けており、日本でも総アフラトキシンでの評価が行われている。食品安全委員会の資料(H20.9.17最終更新日)をみると、米国は総アフラトキシンで20ppbの基準値を設けている。EUでは穀類でアフラトキシンB1は2ppb、総アフラトキシンは4ppbとなっている。現実には日本に輸入されている飼料のアフラトキシンB1濃度は先の調査結果では0.5ppb程度と安全に管理された状態となっているが、米国とEUの基準の違いは何かごたごたが起きそうな気がしないでもない。出来るだけグローバルハーモナイゼーションを目指してほしいものである。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)