斎藤くんの残留農薬分析
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
環境省が約10万人の子供を対象に、ダイオキシン、水銀、鉛、有機ふっ素化合物、臭素系ダイオキシンの5種類の有害化学物質について、胎児の段階から長期にわたり血液、尿、毛髪中の濃度を年に1回測定し5年ごとに途中経過を取りまとめて評価する疫学調査に来年度から乗り出すという(7月25日付け「中日新聞」「中国新聞」)。子供に焦点を絞った長期的かつ大規模な調査は国内では少なく、大いに期待したいところだ。ただし、この5種類を測定し、近年増加している小児喘息やアトピーなどとの因果関係を追究しようと、焦らないほうが良い。
いろいろな環境汚染物質濃度が相対的には減少傾向にある中で、増加している疾病との関連をどう捉えるかは、なかなか難しい問題である。このビッグプロジェクトに一番期待したいのは、とても貴重なサンプルの永年保存をどうするかである。汚染物質の問題は言い方は悪いが、はやりすたりがある。近年問題となっているものを測定して、実は別のものが原因らしいとか、日々の機器分析の日進月歩で昔は分からなかったことが今なら再解析、解明できるということは枚挙に暇がない。出生から数十年追跡調査するつもりなら100年間はサンプルを同質で保存できる条件と施設をまず考えてほしい。
環境省ならば当然大気、水など環境要因も配慮するだろうが、厚生労働省サイドが行っている食品のトータルダイエットスタディとのコラボレーションもぜひ考えてほしい。健康を考える上で一番大きな因子である。できたら、2005年10月6日このコラムに書いた「トータルダイエットスタディセンター」を発展させた環境省版を作ってほしい。目まぐるしく大臣が変わってもゆるぎない組織で。
この発表の後、8月3日に東京都から2007年度化学物質保健対策分科会評価結果が2006年度の調査結果に基づいて発表された。分科会の委員名簿を見ると国立環境研究所の森田昌敏先生を委員長としたそうそうたるメンバー。さすが東京という布陣である。内容は、都民が通常の食事から摂取するダイオキシン類は、1.47pgTEQ/kg体重/日と緩やかな減少傾向が見られた。PCBs、水銀、鉛、カドミウム、有機塩素系、有機リン系農薬も、摂取量はほぼ横ばいの穏やかな減少傾向にあるか、耐容一日摂取量を下回っており、バランスの良い食生活を送れば健康上問題はないと考えられるとの結論であった。空気、魚介類中の濃度も同様な結果であった。
食の不安が渦巻く中、こういった情報こそ有意義で人々の不安の根元の部分をほぐしてくれる妙薬だと思うのだが、新聞、テレビで大々的に報道された気配はない。こういったものを大々的に報道し現状を十分理解してもらった上で、中国でどうした、米国でどうした、どこどこでどうしたと大々的に報じていただいても結構である。誰だって、自分の立っている舞台がきちんと地面についていることを知らなければ、急に大きな揺れが来たとき、やぐらの上と勘違いして大慌てするではないか。
奇しくも3日後の8月6日には厚生労働省食品安全課より、2006年度の食品からのダイオキシン類一日摂取量の調査結果が発表された。我が国の平均的な食生活における食品からのダイオキシン類の一日摂取量は、1.04±0.47pgTEQ/kg体重/日(0.38〜1.94pg)と推定され、耐容一日摂取量TDIの4pgTEQ/kg体重/日より低く、一部の食品を過剰に摂取するのではなく、バランスのとれた食生活が重要であることが示唆されました、との報告であった。
東京都の結果も、国の結果も同様な値であり、結果に対する表現も同様であり、ご同慶の至りである。7-8年前までのいろいろな騒動のときと比べると雲泥の差である。いかに全体的な状況判断できる情報、経時的に俯瞰できる情報が大切かをしみじみ実感する。こういった基本情報を今回の環境省のプロジェクトも作っていただけるとありがたい。末永く、末長く継続されることを期待する、貴重なサンプルを大切に保管しながら。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)