斎藤くんの残留農薬分析
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
最近の「中国」製品という言葉は、本当に分が悪い。何か間違ったことがあれば、「やっぱりねえ」と思われる。そんな中で米国食品医薬品局(FDA)は6月28日、昨年10月から今年5月まで調査した結果、養殖時に使用されない抗菌剤が検出されたナマズ、basa(白身魚)、エビ、デイズ(コイの一種)、ウナギについて、残留していないことが明らかになるまで米国内に入れないと発表した。この件を報道した新聞やインターネット7媒体ほどを比較してみると、朝日新聞だけ少しニュアンスが違って、日本国内での対応のフォローもあり、読者が少しは安心できる記事であった。
FDAの発表の概要は、養殖魚に安全とはいえない抗生物質などの残留があり、米国の消費者を守るための措置として中国からの輸入を停止するが、これは予防的な措置であるというもの。米国内で販売されている中国産の魚介類から、不法な物質がしばしば検出されるが、FDAは安全性が確保されれば今後受け入れるだろうと展望している。
モニタリングで残留が判明した化合物は、抗菌剤のニトロフラン、マラカイトグリーン、ゲンチアナバイオレット、フロロキノロン。前3者は実験動物の長期暴露試験で発がん性が示されており、フロロキノロン剤は食用動物に使うと抗生物質の耐性菌の出現を招く重大な危険性がある。これらの薬剤使用は米国では禁止されているし、ニトロフランとマラカイトグリーンは中国でも禁止されている。ただ、フロロキノロン剤については、中国の水産養殖現場で使用されており、その使用は中国当局も認めている。
とはいえ、FDAの調査結果によれば残留レベルはとても低く、ほとんどが検出限界に近い濃度であったことから、FDAは市販の商品をリコールを求めず、家庭にある商品を回収、廃棄することも進めることもなかったという。今後、輸出業者が上記4つの物質の残留がないことを証明し、予防措置を続けることができれば、FDAは中国産養殖魚の輸入販売を認めるとしている。
ちなみに今回のFDAの発表では、12項目のQ&Aを設けて、詳しく説明している。原文が苦手な方は国立医薬品食品衛生研究所・畝山智香子さんの食品安全情報blogに分かりやすく紹介しているので、こちらも参照されたい。例えば、家のフリーザーに入っている魚介類はどうすればいいのかとの質問に対して、「既に購入した商品は食べても良いですよ」とはっきり言っている。今回の措置は、今後の長期暴露を避ける予防的なものである。
多くの報道が、中国産養殖魚から禁止されている抗菌剤などが検出され輸入禁止・停止・規制(この部分はいろいろ)され、中国産の食品や製品の安全性に改めて疑問が突きつけられた、不信感は一段と高まりそうだ、消費者不安が再び広がりそうだなど、読者に平穏無事な生活をしていると駄目ですよ、とささやくような文面となっている。
これだけを見るとまた不安になってしまうが、これはあくまでも海の向こうの米国のFDAが自分の国の対応として発表したもの。参考にはなるが、日本の厚生労働省(実務的には検疫所)がやっていることとは違うのである。例えば、ここで問題となっているマラカイトグリーンにしても、以前から日本に輸入される中国産ウナギでは指摘されており、2005年8月から命令検査(輸入業者が登録検査機関にあらかじめ検査を依頼し、合格したものだけ輸入・流通が認められる)が実施され、現在も続いている。
その辺りは厚生労働省輸入食品監視業務ホームページを見ていただけると分かるが、この仕組みがきちんと機能しており、違反したサンプルは廃棄か差し戻しされており、日本のほうが2年前から進んでいるのだ。
6月30日付朝日新聞は、この国内対応について「国内では規制すでに整備」述べている。こういった安心させるフォローは実際のところ少ない。マラカイトグリーンを例に取り上げてどうして使われるのか、その経緯などを紹介している。良い記事である。この時期に皆がFDAの発表に関心を持ったのは、「土用の丑の日」が近いので、中国産ウナギは大丈夫かと思ったからだろう。
これからもいろいろな報道、特に平穏な生活をしている消費者を漠然とした不安に陥れるような報道が多く出てくると思う。そういうときこそ、今回の朝日新聞のように現状がきちんと理解できるような情報発信があると有難い。消費者個人にとって問題解決の優先度が分かるような、丁寧な報道が増えることを切に願うものである。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)