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GMOワールド

苦いGMサトウダイコン〜USDAの商業栽培承認に違法裁定

宗谷 敏

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 判例主義からは予想通りと言うべきか、09年9月22日米国カリフォルニア北地区連邦地方裁判所は、07年2月のGMアルファルファ違法裁定を踏襲し、米Monsanto社の除草剤耐性GMサトウダイコンのUSDA(米国農務省)商業栽培承認は違法との裁定を下した。この裁定は、GMアルファルファと同様にGMサトウダイコンの商業栽培禁止へと発展する可能性があり、08年1月23日に訴訟を起こした米国サンフランシスコのThe Center for Food Safety(CFS)、環境保護グループや有機栽培農家などの原告団は、GM作物栽培訴訟で連勝したことになる。

http://www.reuters.com/article/rbssIndustryMaterialsUtilitiesNews/idUSN2236459020090922
 TITLE: US court rules against Monsanto’s GMO sugarbeets
SOURCE: Reuters
DATE: Sep. 22, 2009

 審理を担当したのは、GMアルファルファ違法判決を下したCharles Breyer判事とは別人のJeffrey S. White判事http://en.wikipedia.org/wiki/Jeffrey_Whiteである。USDA/APHIS(Animal and Plant Health Inspection Service)は、商業栽培を承認する前にGMサトウダイコンの環境影響評価を十分に行わなかったことで連邦法に違反しており、非GMサトウダイコンや近縁種への交雑の可能性についての査定を行うべきだったというのが裁定の主旨で、原告側の主張がほぼ全面的に認められている。

 ただし、White判事は法的措置(栽培禁止を含む)をまだ決めてはおらず、ステークホルダーからの公聴会を09年10月30日に予定している。このヒヤリングでオーガニック食品関係者からGMサトウダイコン栽培禁止要求が、White判事に出される見込みだ。仮にGMサトウダイコンが全米で栽培禁止になった場合の農業部門や関連業界への影響は、GMアルファルファの比ではない。

 GMアルファルファの栽培面積は、判決当時全アルファルファの1%程度に過ぎなかった。一方、09年におけるサトウダイコン全栽培面積115万エーカー(46.5万ヘクタール)の約95%をGMサトウダイコンは占めている(the American Sugarbeet Growers Association)からだ。そして、サトウダイコンは、米国の砂糖供給量のほぼ半分を賄っている原料でもある。

 GMアルファルファでは、去る09年6月24日、連邦巡回控訴裁判所がカリフォルニア地裁の栽培禁止判決を支持(3人の裁判官の判定は2:1)し、USDAとMonsanto社などから08年9月に提出された再審請求を退けた。行政・開発企業側に残された途は、最高裁への控訴か、Breyer判事がUSDAに対し要求した「完全な」環境影響報告書を提出して認めてもらうことしか残されていない。環境影響報告書はまだ準備中で、今秋のGMアルファルファ栽培復活は見送られた形だ。

 ネブラスカ州で開催されたObama政権の地方ツアー協同体フォーラムに参加したTom Vilsack USDA長官は、GMサトウダイコン裁定に関し09年9月27日、コメントした。カリフォルニア地裁が09年10月30日に予定している公聴会について「産業全体に影響を与えるかもしれない審理を行っている判事を教育することは重要である。鍵は科学であり、我々は科学のマーケッティングについて、より良い仕事をする必要がある」。ウーン、公式コメントとは言えないだろうが、司法に対しかなりの上から目線だ・・・。

 栽培時期の関係からGMサトウダイコンの開花が、原告の主張するように近縁種と交雑するリスクはほとんどありえないというのがVilsack長官の「科学的」見解なのだが、風媒を考慮すれば非GMサトウダイコンへの交雑抑止対策の方は、厳しいものになるかもしれない。例えば、07年2月6日にワシントンD.C.地裁で同じく違法裁定を受けた米Scotts社の除草剤耐性GMシバの場合、13マイル(21キロメートル)花粉が飛んだという研究が裁定に大きく影響しているからだ。

 ところで、このカリフォルニア地裁裁定は、東方のコロラド州に大きな影響を与えたとして、サイド・ストーリーを加えた米国メディアも多かった。08年12月、コロラド州ボルダー郡の有力農家6名がGMサトウダイコン栽培認可を郡政委員会に求めた。

 ボルダー郡では、既にGMトウモロコシが栽培されており、カリフォルニア州の一部地域のようにGM栽培を禁止している土地柄ではない。しかし、960エーカー(約390ヘクタール)のGMサトウダイコン栽培予定地は郡所有であり、農家にリースされている公共地であったことが問題を大きくし、有機農法グループなどからの猛反発を招いた。地場産業振興と環境保護との板挟みとなり、栽培可否の決定をズルズル遅らせてきた郡政府にとって、カリフォルニア地裁裁定は格好の口実となるだろうという分析である。

 USDA/APHISを巡るもう一つの動きは、08年10月9日に官報告示されたGMO環境放出規制改定案だ。従来、開発メーカーに任せてきたGM作物の野外圃場試験に対する規制強化(GM製薬作物もターゲット)が狙いなのだが、パブリックコメントは意見が多数殺到し、09年4月29日の公聴会を経ても、まだ結論には至っていない。

 3年前のGMアルファルファの時に「ファストトラックのGM作物承認で産業振興を優先し、明確な共存ルールを定めず当事者に任せてきたUSDAには、ツケが回ってきたとの印象も拭えない」と筆者は書いたが、もしもGMサトウダイコンまで司法介入で停められるようなことになれば、USDAの権威は深刻な打撃を受け、米国農家からの信頼も揺らぐだろう。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)