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GMOワールド

年末・年始のGMOワールドを整理・整頓(下)〜北・中・南米編、オセアニア編・アジア・アフリカ編

宗谷 敏

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 年末・年始をキャッチアップするために、世界をブロック別に分けてログ形式で各地の動きを追う作業を続ける。前回扱ったヨーロッパ以外の全地域を概観するが、ISAAA(国際アグリバイオ事業団)の2008年サマリーレポートも出たし、こればかりやっている訳にもいかない。スペース上の都合もあるし、トピックがほぼ限定されている地域や諸国ではログ形式は煩瑣になるので、その問題をハイライトして概説する方法も併用した。

<北・中・南米編>
注記:米国は日付が先頭、その他諸国は国名→日付で時系列に並べ、日付の後に<キーワード>を追加する。なお、掲載項目はかなり絞っており、リンクは適宜選択。

 11月5日<GAO(米国会計検査院)>が、相次いだ未承認GMOの環境、食品と飼料チャネルへの流出・混入を防ぐためには、EPA(環境保護局)、FDA(食品医薬品局)、USDA(農務省)など政府規制諸機関の間でさらなる管理と調整が必要との報告書 を発表した。

 カナダ12月1日<加SemBioSys Genetics社>は、GMベニバナから得られたインシュリン(SBS – 100)のボランティアによる人体実験を英国で実施中と発表した。

 12月4日<カリフォルニア大学Davis校>の研究者が、イネの冠水耐性遺伝子を特定した研究により08年度USDA National Research Initiative Discovery Awardを受賞。

 12月4日<EPA>が、瑞Syngenta社の鱗翅目害虫抵抗性GMトウモロコシの新Agrisure Viptera形質を認可、12月22日にはFDAのガイダンスも終了。

 12月5日<CBOT (シカゴ商品取引所)>のトウモロコシ先物価格終値ブッシェル当たり3ドル割れ(2.935$)、夏の最高値は7.625$。ダイズも7.83$で夏の最高値16.65$から下落。

 12月9日<DOE JGI (米国エネルギー省共同ゲノム研究所)>が、ダイズゲノムの全塩基配列を公表。

 ブラジル12月11日<CTNBio(国家バイオセーフティ委員会)>が、米Pioneer Hi-Bred社(米Dupont社傘下)と米Dow AgroSciences社の害虫抵抗性GMトウモロコシHerculex I系統の国内栽培を承認した。
 キューバ12月11日<CIGB(遺伝子工学とバイオ工学センター)>が、害虫抵抗性と除草剤耐性GMトウモロコシを独自開発し試験栽培中とハバナバイオ工学会議で発表した。

 12月12日<米Monsanto社>が、米BusinessWeek誌により世界で最も影響力を持つ企業の1つに選ばれる。

 12月16日<独Bayer CropScience社>が、シェア拡大を目指し新LibertyLinkダイズを発表。

 1月6日<米Donald Danforth Plant Science Center>が、東南アジアでコメ生産の障害となっているイネわい化病ウイルス(RTVB)に対し抵抗性を持つGMイネを開発に成功したと発表 。

 1月7日<米Monsanto社>は、独BASF社と共同開発中の干ばつ耐性トウモロコシ開発が最終フェイズに達し、米国食品医薬品局(FDA)に申請も提出したので、2012年までには上市できるだろうと発表 。

 1月13日<OIG (USDA内部監査局)>が、開発が進みつつある諸外国から米国未承認GM動・植物が輸入され食品ルートに入る潜在的なリスクに備えるよう警告する監査報告書 を発表した。

 1月15日<FDA>は、遺伝子組み換え動物の規制に関する産業のための最終的なガイダンスを公表 した。08年9月の原案には、60日間で約2万8000通ものパブリックコメントが寄せられたが、相変わらず表示は義務化されない。

 1月20日<Barack Obama氏が第44代大統領に就任>したが、バイオテクノロジー支持者でバイオエタノール推進者と評されるTom Vilsack元アイオワ州知事を農務長官に指名したことなどから、GMO に友好的な規制の枠組みを継承するものと見られている。

 メキシコ1月28日<環境保護グループ>Greenpeaceなどが、チワワ州でGMトウモロコシが違法栽培されていた件などを、北米自由貿易協定(NAFTA)環境委員会に提訴。

 1月29日<DOE JGI (米国エネルギー省共同ゲノム研究所)>などの国際協力チームが、ソルガム(モロコシ)の全ゲノムを解読したとNature誌に発表した。干ばつ抵抗性作物研究が、また一つ有力な武器を入手したことになる。

 ブラジル1月30日<独BASF社とEmbrapa(ブラジル農事試験場)>は、97年以来協力して開発を続けてきた除草剤耐性GMダイズを11年までに上市すると発表した。

 2月5日<米国地方裁判所>が、99年のミシガン州立大学施設放火犯の反GM女性運動家に対し、410万ドル以上の弁済および禁固21年10カ月の実刑判決を言い渡す。

 2月6日<FDA>が、米GTC Biotherapeutics 社のGMヤギの乳から作られる抗凝血剤Atrynを承認 。GM動物によって生産された製品では初の米国認可。

 2月10日<米Dow AgroSciences社>が、08年2月に流出・混入事故を起こした未承認GMトウモロコシDAS59132(Event 32)に対する日本のモニタリング検査強化が平常レートに戻された。

<オセアニア編>

 <オーストラリア>この国のキーワードはGMカノーラである。栽培を開始したニューサウスウェールズ州とビクトリア州では初の収穫を迎え、栽培した農家はおおむねその結果に満足している。一方、両州の公的機関による試験栽培では、GMカノーラの反収がやや低かったことが論議(詳しく立ち入ると長くなるため今回は省略)を呼んだ。

 注目されるのは政権交代によりモラトリアム維持が怪しくなった西オーストラリア州の動向だ。09年には1,000ヘクタールの試験栽培が予定されており、農家の関心も高い。この結果が良ければ商業栽培に進むには必然的と見られている。
 一方、連邦政府はGMにポジな報告書を次々に発表している。12月には、BRS (地方第一次産業局)から気候変動に対抗するGM作物の有効性を訴え開発投資を促す報告書、1月にもABARE(農業経済局)から国内のGM作物由来の家畜飼料は増加しており、消費者にも受け入れられていることから、それを作ったり使ったりしても市場的に不利になることはありえないという報告書が刊行された。

 GM試験栽培では、CSIRO(オーストラリア連邦科学産業研究機構)から申請されたトウモロコシ(12月)とコムギとオオムギ(2月)がOGTR(オーストラリア遺伝子技術規制局)により承認された。

 <ニュージーランド>一方、こちらの国ではGM野菜がキーワードだ。11月に、ニュージーランド作物食糧研究所によるGMタマネギ、ニラおよびニンニクの試験栽培がERMA(ニュージーランド環境リスク管理局)により認可された。

 ところが、1月になって、7年前から試験栽培を先行していたGMキャベツ、ブロッコリーおよびカリフラワーの後代種が試験圃場で自生していることが、反対派NGOにより発見された。安全管理規定遵守の違反した形となり、政府はGM野菜試験栽培計画の存続自体を問われる厳しい状況に追い込まれている。

 <FSANZ(オーストラリア・ニュージーランド食品基準局)>が、11月にオーストリア政府が公表したGMトウモロコシMON810xNK603のラットスタディ(世代間の生殖影響性)に対して否定的な見解 を1月9日発表した。

<アジア編>

 <アジアのバイオ食品の受け入れに関する消費者意識>が、5カ国(中国、インド、日本、フィリピンおよび韓国)を対象にAFIC(アジア食品センター)により実施され、1月に発表 された。インド、中国とフィリピンでは、バイオテクノロジー食品の利益を受け入れる準備が特に整っており、政府の政策もそれを支持する動きに傾いている。

 インド人の84%がバイオ食品を購入する準備ができており、中国人の94%が持続可能な食糧生産に関連する植物バイオテクノロジーを支持した。このレベルは、フィリピン92%、韓国71%だったが、日本は67%に留まった。

 <中国>GMイネをいつ上市するかが最大の関心事だろう。情報の出にくい国だし、この期間では特筆すべきこともないので、記事を2本紹介しておく。12月8日付APの「Gene-altered crops gain favor」と、10月15日付Natureの「Agriculture-Is China ready for GM rice?」(日本語版 )を参照すれば、総論・各論ともアウトラインはつかめる。

 <インド>1月7日、ICAR(インド農業研究評議会)がBikaneri Nerma (BN-Bt)と名付けられた国産初の害虫抵抗性GMワタ種子の販売準備が整ったと発表した。安価でかつ農家の自家採種も認める方針という。

 移行するのではと予想されていた印Maharashtra Hybrid Seeds社 (Mahyco)のBtナスは、Greenpeaceなどからの激しい反対運動に遭遇し、暗礁に乗り上げている。ワタと異なる純食料GM作物に対する抵抗は依然として根強く、コメやコムギの先行きもそう簡単ではないと思わせる事例となっている。

 <フィリピン>IRRI(国際イネ研究所)が、ビタミンAを強化したGMゴールデン・ライスの11年実用化と、東南アジアから期待されている冠水耐性イネ(非GM)の開発を続けている。

 <韓国>08年に食品(スターチ)用にGMトウモロコシが輸入されたが、穀物価格高騰の沈静化に伴い一過性に終わる公算が大である。GM混入が一切認められないGMフリー食品表示と3%以上のGM義務表示を巡っても、それらの中間に3%までの混入を認める非GM(任意)表示が検討されたが、実現はしていない。

<アフリカ編>

 98年からアフリカでGM作物(ワタ、トウモロコシおよびダイズ)を唯一商業栽培してきた南アフリカに続き、08年はエジプト(トウモロコシ)とブルキナファソ(ワタ)が追随したとISAAAは報告している。

 <南アフリカ>政府相手にGM情報公開請求訴訟(03年)を起こし、これには勝訴したものの裁判費用を請求された環境圧力団体Biowatchは、この支払いを拒否しており2月中に最高裁で控訴審が開かれる模様。

 <ケニヤ>08年末にバイオセーフティ法案が議会を通過し大統領の署名待ちだが、国内のGMO栽培を許すものと小農家などからの激しい抵抗に遭い立ち往生している。

 <ウガンダ>NCRRI(国立作物資源研究所)は、温室試験栽培を終了したキャッサバモザイクウイルス抵抗性などのGMキャッサバの野外試験栽培に対する国家バイオセーフティ委員会による認可待ちと09年1月に伝える。

 新種の真菌病で減産・絶滅の危機にあると言われるバナナ(キャベンディッシュ種)をGMで救おうとする科学者国際チームによる戦いが、IITA (国際熱帯農業研究所)で続いている。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)