GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
先週に続き、年末・年始のGMOワールドをスナップショットする。ヨーロッパ、アジアおよびアフリカを取り上げるつもりだったが、年明けからヨーロッパの動きが激しく、分量的にも多くなったため、アジア・アフリカは次回に回す。先週に倣い、クローンとバイオ燃料にも少し触れておく。
世界をブロック別に分けて日付順に並べる。今回はヨーロッパを取り上げる。国名は日付の前に置き、日付の後に<キーワード>を追加する。<GJ>は筆者お薦めの必読記事、<BF>はバイオ燃料の略。記事へのリンクは全部貼ると煩瑣になるため適宜選択し、直リンさせない場合には最後に(媒体名)を置いた。
<ヨーロッパ編>
ドイツ・フランス12月11日<Bayerナタネ>独Bayer CropScience社は、仏Euralis Semences社とヨーロッパ冬捲きナタネのハイブリッド品種開発で協定を結ぶ(SeedQuest)。
英国12月13日<政府主席科学顧問>David King卿から政府主席科学顧問を引き継ぐJohn Beddington教授が、GM作物栽培と原子力発電建設は共に英国の将来に重要であるとして支持を表明(Times)。
ドイツ・EU 12月15日<ドイツ農相のGMO承認作業改革提案>11月26日にドイツの農業大臣が、GMO承認作業の改革を求め、現在のEU承認作業の一時凍結を提案したが、その真意は現在の政治的介入(投票)による承認作業の遅延を嫌い、医薬品と同様に科学的見地からの評価機関(EFSA)の評価結果を重視し、より迅速化を計れというものだという分析。
フランス12月19日<Mon810禁止>環境大臣は、専門家パネルが安全性を証明できなければ、2月9日までのMon810暫定禁止令を延長するだろうと語る(Reuters)。
EU 12月18日<GMO承認作業>、欧州委員会が、Monsanto社の掛け合わせGMトウモロコシ3品種(抗生物質耐性マーカー遺伝子nptIIを含む)と独BASF社のGMジャガイモEH92-527-1「Amflora」の輸入と食品・飼料用途の承認を欧州閣僚理事会に提案(AFX-CNN、GMO Compass)。
ドイツ12月18日<Bayer干ばつ耐性>Bayer CropScience社は、RNA干渉技術により干ばつや寒さなどのストレスに遭うとポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)遺伝子のスイッチが入り作物が自身を守る方法を開発した。
EU・米国12月20日<GMコメ検査>EUは、2006年8月から実施してきた米国産コメ輸入時の未承認GMコメLLRice601に対する水際検査を解除(Reutersなど)。
ポーランド・EU 12月23日<EU規則違反>ポーランドのGMO禁止は欧州規則違反ではないかとの欧州委員会に対する回答期限を迎えたが、ポーランドは正当性を裏付ける科学的証拠を出せなかった(Warsaw Business Journalなど)。
EU 12月26日<GJ・Btトウモロコシの安全性論争>Stavros Dimas環境委員がBtトウモロコシの環境安全性に疑義を提出し以後の承認に反対する立場を表明(11月21日)し欧州委員会内に亀裂が走った。New York Timesの「Both Sides Cite Science to Address Altered Corn」は傍目八目で、一読の価値がある。
英国12月26日<クローン>96年に初の体細胞クローンヒツジであるDollyを誕生させたEdinburgh大学のIan Wilmut教授に対し、英国王室からナイトの爵位が授与されると発表された(BBCなど)
フランス1月3日<Jose Bove>GM圃場破壊活動家Jose Bove氏が、Mon810の栽培禁止継続を求めて支持者たちとハンガーストライキに突入(APなど)。
EU 1月11日<EFSAクローン>欧州食品安全機関(EFSA)は、欧州委員会からの諮問に対し、体細胞クローン動物由来の肉や乳は食品として安全という意見案を公表し、2月25日までパブリックコメントを求める。一方、体細胞クローン動物自体の安定性には疑問も呈すが、1月15日の米FDAからの安全宣言に対する露払いも果たした。
EU 1月11日<WTO>当初07年11月21日だったWTOのGMO紛争処理パネル最終報告(06年9月29日)に基づく、EU承認済みGMO禁止を継続するオーストリアなどの共同体規則違反改善延長期限を迎えたが、さらに2月までの再延長が米国などと合意される。
フランス1月11日<Mon810禁止>専門家パネルは、Mon810の国内栽培は環境安全性に対する「重大な疑い」を拭いされないと結論し、政府はEU法に基づくセーフガード条項の適用を発表、 Mon810の栽培モラトリアム態勢に(ただし、一時的措置の延長と環境大臣は弁明)。
Jose Bove氏らはハンガーストライキを中止。
EU 1月14日<新奇食品法改正案>欧州委員会は、新しく革新的な食品のEUマーケットへのアクセス改善のため、新奇食品法(97年5月制定)の改正を提案(EurActivなど)。
ドイツ1月15日<GM食品表示>ドイツ農業省は、GM飼料で飼育された家畜由来の畜産製品にもNon-GM表示を許すことを検討していると一部メディアが伝えた(Food Navigatorなど)
英国1月15日<BF>英国下院環境委員会は、バイオ燃料は高価で非効率的、食糧を圧迫しかねないとの報告書を出す(Observerなど)。
英国1月16日<リスク諮問機関を新設>英国政府は、公共のリスクやGMOに対する懸念などを扱い、閣僚に助言を与える専門家パネルとして「リスクと規則諮問委員会(RRAC)」の新設を計画(Business Insurance News)。
オランダ1月17日<共存ガイドライン>GMと慣行・有機栽培との共存ガイドラインに全業界が同意したと、GMO Compass が伝えている。因みにトウモロコシの隔離距離は250メートル。
スペイン1月18日<GMO栽培禁止誓願>スペインは、GMトウモロコシ(Mon810系統)のEU域内最大(75,000ヘクタール)の栽培国であるが、フランスの動きに刺激された科学者と環境ロビーグループ300人以上がGMO栽培を禁止する誓願に署名した(Cordis)。
EU・米国1月21日<米USTR代表訪欧>米国通商代表部(USTR)Susan Schwab代表が、欧州委員会Peter Mandelson通商委員と会談し、GMOや温室効果ガスなどの環境問題を保護貿易主義の弁解に使うなと警告する。しかし、渦中のDimas環境委員は多忙を理由にSchwab女史の面談要求を謝絶(AFPなど)。
ポーランド・EU1月21日<EU規則違反>欧州委員会の弁護士がポーランドのGMO禁止措置を止めさせる動きに入った。
英国 1月21日<BF>英国下院の環境監査委員会( EAC )が、英国政府とEUは雨林などの環境破壊を促進するバイオ燃料使用を増やすべきではないとの結論を出した(Guardianなど)。
EU 1月23日<BF>欧州委員会が20年までに域内の温室効果ガス排出量を90年比20%削減する温暖化・エネルギー対策の実施ガイドライン案を発表、バイオ燃料志向を「環境破壊を招き、道義的に受け容れがたい」と批判。
ドイツ1月24日<GJ・GMダイズのロシアラットスタディ>07年に大騒ぎしたロシアのIrina Ermakova博士のGMダイズラットスタディを「GMO Compass」が総括している。いまだにこれをGMへの反対理由や商売道具にしている方たちに良く読んで頂きたい。この他にも、1月の「GMO Compass」は非常に興味深いアーカイブが多数アップされており、一読の価値がある。
ドイツ1月24日<BASF・中国>BASFは、トウモロコシ、ダイズ、コメなどのGM農作物開発で中国国立生物学研究所(NIBS)との研究共同を行うと発表(AFX)。
ドイツ1月25日<新GM規制法と表示法>議会(下院)はNon-GM食品表示を許す立法案と、Mon810栽培時に非GMトウモロコシとの間に150メートル(有機の場合300メートル)の緩衝地帯設置をGM農家に義務づける新たなGM規制法を成立させた(Bloombergなど)。
危ういポピュリズムにやや傾いたフランス、バランスするかのようにGMポジな発信が相次いだ英国、あくまで合理的に判断しようとするドイツと昨年末に指摘した通り目まぐるしく動いた3国に対し、困難な運営に苦渋の欧州委員会という構図が良く示されている。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)