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パリは萌えているか? -フランスの環境政策と欧州委員会のGMO承認

宗谷 敏

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 フランスの国旗はフランス革命翌年の1790年以来有名な三色旗だが、これを緑一色に塗り替えんばかりの勢いなのが、2007年5月に就任して「緑の革命」を提唱するNicolas Sarkozy大統領だ。10月25日に公表された行動計画では、かねて噂されていたGMOの商業栽培凍結が条件付きながら明示された。一方、欧州委員会は10月24日、懸案の4種類のGM作物に輸入承認を与えた。先週のEUの複雑な動きを分析する。

参照記事1
TITLE: France Suspends Planting of GMO Crops
SOURCE: Reuters, by Sybille de La Hamaide
DATE: Oct. 25, 2007

 Sarkozy大統領は、地球温暖化への懸念を強く訴え、フランスの環境政策の早急な見直しを誓約する。その政策決定に重要な意味を持つのが、環境懇談会(Grenelle Environnement)の設置であった。政府、科学者、環境保護NGO、産業団体などの代表者約40名を一堂に集め、政策協議を行うシステムだ。その第1回会合が10月24日、25日にパリの大統領府において開催され、行動計画が公表された。

 APなどによれば、採択された行動計画は、省エネ自動車の優遇税制、鉄道路線新設と道路建設制限、消費する以上のエネルギーを生産する新設ビル、断熱二重サッシ採用など公共建物の省エネ化改修と2010年からの白熱灯使用禁止、10年以内に農薬使用量を半減する(フランス農民連合FNSEAの激しい抵抗で努力目標化)、現在2%の有機農産物の栽培面積を5年以内に6%に、2020年までに20%にし、学校と公共建物の食堂には週1回有機栽培食品を提供させる、2020年までにエネルギー20%以上を更新可能エネルギーにする、などである。

 注目を集めたGMO商業栽培については一時的に凍結し、年内もしくは08年早々にも結論が出される新たに設立されたリスク評価機関からの報告を待つというものだ。恒久的な完全凍結ではなく、この一時的措置は研究を妨げるものではないことを、Sarkozy大統領は強調している。農業部門代表が激しいバトルを展開し、環境NGOが望んでいた全面禁止からはやや緩和された言い振りである。

 従来からリスク評価を行ってきた農業省傘下のバイオ工学委員会(Commission du Genie biomoleculaire)は、96年以来栽培が許されてきたMON810の10年目の承認更新に当たり「特段のリスクは認められず再評価は不要」と、去る6月に答申した。しかし、Jean-Louis Borloo環境・持続可能開発大臣は、これに満足せず8月末にこの上位リスク評価機関の新設を明らかにした。

 欧州域内で栽培が許されている米Monsanto社のBtトウモロコシMON810は、フランスでも全トウモロコシ栽培面積の1.5%に相当する2万2000ヘクタールで商業栽培されている。そのフランスがGM作物の商業栽培凍結を計画しているという話は、9月20日にBorloo環境・持続可能開発大臣からLe Monde紙にリークされ、Michel Barnier農業大臣もこれを完全には否定しなかったため、さまざまなリアクションを呼んだ。

 9月21日には、欧州委員会Stavros Dimas環境委員の報道官が「計画の細部を見なければならないが、GM作物の商業栽培全面凍結はEU規則で許されない」とコメントする(AFP)。10月3日のGM推進派農業グループからの世界の農業技術から取り残されるという懸念表明(Reuters)や、10月19日のMonsanto社によるGMトウモロコシ試験圃場破壊活動(犯人は不特定のまま)告訴(Reuters)などの動きがこれに続く。

 10月24日には欧州委員会Mariann Fischer Boel農業委員も「完全な禁止令はEU規則違反で、もし実施すればフランスは敗訴するだろう」との警告を発する(Reuters)。一時的凍結公表後の10月26日にはDimas環境委員報道官からの再警告がなされた(AP)。同26日にはGMO開発メーカー業界団体のCropLife Internationalからも批判の声が上がる。

 さて、9月10日付本稿で進捗振りを概観したEUのGMO承認作業であるが、欧州委員会は5月24日、米Pioneer Hi-Bred社(またはPioneer Overseas社、米DuPont社傘下)と米Mycogen Seeds(米Dow AgroSciences社代理)の害虫抵抗性トウモロコシ59122 Maize(商品名Herculex RW)および害虫抵抗性と除草剤耐性との掛け合わせトウモロコシ1507xNK603、Monsanto社の除草剤耐性と害虫抵抗性との掛け合わせトウモロコシMON810xNK603並びに米Monsanto社と独KWS SAAT AG社が共同開発した除草剤耐性GMテンサイH7-1系統の食品と動物飼料で使用と輸入に対し10年間の承認を与えた。

参照記事2
TITLE: EU allows imports of four GMO crop varieties
SOURCE: Reuters, by Jeremy Smith
DATE: Oct. 24, 2007

 しかし、欧州委員会内にも亀裂が走る。次に承認のタイムテーブルに上がっている共に害虫抵抗性と除草剤耐性を掛け合わせたスイスSyngenta社のデントコーンBt-11及びPioneer Hi-Bred社とMycogen Seedsの1507系統について、Dimas環境委員が環境影響評価の不確実性を理由に承認反対のポジションにあるというのだ。但し、Dimas環境委員の意見は欧州委員会内の大勢を占めるものではなく、承認に支障を来すものではないと観測されている。

参照記事3
TITLE: EU environment chief opposes two GMO maizes
SOURCE: Reuters, by Jeff Mason
DATE: Oct. 25, 2007

 フランスの小泉とも称されるSarkozy大統領は、Chirac前大統領がほとんど無視したため環境政策ではEU内でも後進国に落ちたフランスを、一気に域内盟主に押し上げる「環境保全ニューディール」を打ち出した。たしかに「構造改革」も「気候変動対応」も、正面切って反論しにくいお題目だ。

 だが、環境懇談会に「時の人」Al Gore米元副大統領や「モッタイナイ」のケニヤWangari Maathai女史を呼んで、ノーベル賞2枚看板にヨイショさせるポピュリズムの危うさも見え隠れする。そして、さまざまな調査でフランス国民の少なくとも80%以上がGMOを嫌っている点には注意を要する。

 これらの政策を具体化する法案整備は、Sarkozy大統領の属する国民運動連合が数的優位にあることから、かなり可能性があるとの見方が一般的だ。GMO凍結に関しては、自国農業ロビー・経済界との摩擦、欧州委員会からの牽制や就任以来舵を切ってきた親米路線との融合などの高いハードルが並ぶ。

 域内他国を見渡せば、MON810を05年1月から栽培禁止にしているハンガリー、今年5月に種子販売者に環境影響モニタリング計画提出を義務づけたドイツ、欧州委員会とバトル中のオーストリアなどは強力な同調者を得た形だ。GMO承認投票では棄権に回ってきたEU新規加盟国を中心に、域内各国へ与える今後の影響も注視していくべきだろう。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)