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GM混入・流出事故は防げるか?–BIOのスチュワードシッププログラム

宗谷 敏

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 2007年7月25日、米国BIO(バイオ産業協会Biotechnology Industry Organization)は、農業バイオテクノロジー企業群が自社製品への責任と品質管理問題を扱う場合に、高品質の標準を提供するためのスチュワードシッププログラムを実行すると発表を行った。同プログラムは、USDA(米農務省)、EPA(米環境保護局)およびFDA(米食品医薬品局)の規制3当局にも提出された。

参照記事1
TITLE: Biotech crop sector sets standards, seeks to ease fears
SOURCE: Reuters, by Carey Gillam
DATE: July 25, 2007

参照記事2
TITLE: Firms take on do-it-yourself regulating
SOURCE: St. Louis Post-Dispatch, by Rachel Melcer
DATE: July 26, 2007

 神の信託によりヒトがその責務を果たすべきというキリスト教に根ざすスチュワードシップとは、概念的に正確な日本語訳を当てることが難しい言葉である。一般的には管理責任と呼ばれ、会計用語としては受託責任などと訳されている(宗教史的由来があるが、長くなるのでここでは触れない)。この場合には、倫理的側面も重視した自社製品に対する企業責任といった理解で話は通じるだろう。

 BIOのスチュワードシッププログラムは、3段階になっている。08年早々に各企業は米国内のオペレーションにプログラムを採用したことを自己証明する。08年終わりまでにBIOが訓練し認定した第三者機関によるそれらの監査を終了させる。09年には、BIO会員各社が、米国以外の外国でのオペレーションにもプログラムを導入する。

 このスチュワードシッププログラムの目的は、開発企業にとって海外市場を傷つけ、消費者の信頼を損ない、訴訟によりばく大なコストを課せられるかもしれない(GM)遺伝子の偶発的な拡散を防止するための自己規制にある。ゴールは研究開発、試験栽培、商業化と最終的な段階的撤去までを通して(GM)遺伝子作物のトレイトを追跡し、コントロールすることにある。

 BIO関係者は、「科学が進展し、(GM)製品の使用が広まっているから、我々の努力も同様に進展すべきであると感じた」「決して政府の規制をないがしろにするものではない。産業界は強力な科学ベースの連邦規制を支持しており、これはその代替ではなく補完的性格を持つ」などときれいごとを並べている。

 しかし、最近頻発した流出事故や訴訟判決および政府規制の緩さが全く動機になっていないとは考えにくい。上に引用した二つの記事でも業界代弁的なSt. Louis Postに対し、Reutersは辛口で、そのあたりを突いている。

 最近のGM流出や混入事故としては、05年3月、スイスSyngenta社の未承認GMトウモロコシBt10が商業ルートに流出、06年8月、ドイツBayer CropScience社の未承認(06年11月にUSDA事後承認)GMイネ長粒種LLRICE601の微量混入および07年3月のドイツBASF社の非GM長粒種イネClearfield CL131への混入などが起きており、関係各社は農家などからの補償訴訟の対応に追われた。

 政府規制の問題点は、05年12月のUSDA監査局(OIG)による動植物保健検査局(APHIS)のGM試験圃場の規制ぶりが怠慢だったとの告発、07年5月の連邦地方裁判所による05年7月にUSDAが承認した米国Monsanto社のGMアルファルファ商業栽培禁止判決など苦しい見出しが並ぶ。USDAもGM作物の監督強化に一連の変更を提案しているが、パッチワークの感は否めない。

 連邦の監督が改善されるまで、GM作物の試験栽培はモラトリアムすべきだと提案している米国のNGOであるCenter for Food Safetyは、このBIOイニシャティブに対しても「作物の安全性を改善するより、産業のイメージを改善することを狙ったものと思われる」と手厳しい。

 しかし、規制の弱点をもっともよく知るのは産業界だろう。過去にも、耐性害虫の発生を抑止するためBt作物の栽培に待避ゾーンを設置する提案は、産業界側から政府にもちかけられた。このスチュワードシッププログラムが、BIOの目論み通り今後有効に働くかどうか注目したい。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)