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GMOワールド

原理自体は新しくないが〜花粉と種子から組み換え遺伝子を除去する技術

宗谷 敏

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 米国University of Connecticut植物科学部の研究者たちが、組み換え遺伝子の非組み換え作物への交雑や、自然界への遺伝子流出を抑止する技術開発に成功したという興味深い論文を、Plant Biotechnology Journal 2007年3月5日号に発表した。GM-gene-deletorと名付けられたこのツールは、ターミネーター論争を終わらせる可能性も持つとも伝えられている。

参照記事1
TITLE: UConn Breakthrough in Plant Biotech Could Lead to Safer genetically-modified Crops
SOURCE: University of Connecticut
DATE: Feb. 21, 2007

参照記事2
TITLE: ’Gene deleting’ tool could lead to safer GM crops
SOURCE: SciDev Net by Wagdy Sawahel
DATE: Feb. 16, 2007

 この技術は、必要な場合に遺伝子組み換え植物の花粉と種子から、組み換え遺伝子を同時にすべて取り去ることができる。研究者たちが当初取り組んでいたのは、バイオエネルギー利用を目的としたポプラであり、組み換え技術による成長促進と、併せて組み換えに用いられた遺伝子の自然界への流出を妨げる技術研究だった。

 それは、花粉に組み換え遺伝子を発現させないことで達成される。GM-gene-deletorは、従来から抗生物質耐性マーカーの除去に利用されてきた部位特異組み換え法(flp-FRT)と同じ原理を用いてこれに挑む(だから革新的というほどのものではない)。flp-FRTは、組み換え遺伝子を目的部位に挿入した後、ホストゲノム内の標的遺伝子に対し失活変異を起こさせる技法だ。

 ホストゲノム内に、目的とする特徴を有する組み換え遺伝子、マーカー遺伝子、flp recombinase(酵素)遺伝子を挿入する。植物の特定部位やFRTを誘引して発現させたい部分をプロモーターで特定すれば、塩基配列中のloxp-FRTで挟まれた細胞内に、FRTが発現しすべての組み換え遺伝子が除去される。この結果、ホストゲノム内にはloxp-FRTが一つだけ残るというのが、この技術の概略らしい。

 戻し交配が必要なGM作物に対しては、さらにもう一工夫必要になる(このままでは戻し交配もできない)が、この技術が実用化されれば、特にハイブリッドが主流のトウモロコシやナタネ、イネなどにおいて組み換え農産物と非組み換え・有機農産物との交雑、あるいは近縁野生種への組み換え遺伝子の流出を抑止できるだろう。

 この結果、ヨーロッパ諸国で掛け声ばかりの共存農業や、米国さえ及び腰の製薬目的植物開発にも拍車がかかるだろうし、どこかの国の自治体が行っているGM花粉の交雑距離を調べることなど予算のムダ遣いになってしまうかもしれない。

 一方、種子への組み換え遺伝子発現抑止というと、すぐ思い浮かぶのは国連CBD(The Convention on Biological Diversity:生物多様性条約)でモラトリアム状態にあるターミネーター技術だろう。ターミネーターは、種子のそのものを不妊にしてしまうため、農家は毎年新しい種子を買わなければならない。

 従って、途上国の小規模な貧農は彼らの自家採種権を侵害され、多国籍企業の種子支配を助長するという反対派の主張から、ターミネーターは鳴かず飛ばず状態に留め置かれている(常々不思議に思うのだが、著しく普及したハイブリッド種子も条件は同じなのに、反対派はこれらを一切攻撃対象にはしない)。一方、開発メーカー側から見れば、自社組み換え農産物の農家による自家採種は、特許権侵害に当たるからこの技術は望ましい。

 GM-gene-deletorは、このジレンマに対してもあっさり解決手段を与える。遺伝子組み換え農産物からの後代種子は、組み換えられた特徴を発現しないだけで、普通の非組み換え種子と同じに働くからだ。農家は、組み換え種子のメリットを認めれば翌年もその種子を買う、もし経済的に厳しいなら自家採種した種子を使うという選択が自由になる。GM交雑問題を巡って大立ち回りを演じ、いまや教祖に祭り上げられたカナダのナタネ農民は、世界の反対派からの講演招待の機会を失うかもしれない。Good-by Mr. Schmeiser!である。

 University of Connecticutのグループは、多年生植物のポプラの次に単年生のモデル植物としてよく利用されるタバコにもGM-gene-deletorを用いて、組み換え遺伝子の100%除去に成功したとしている。さまざまな組み換え農産物への利用も期待されるが、食用植物への応用は慎重に進められるべきだし、実用化までにはまだ時間がかかるだろう。

 しかし、組み換え作物を巡ってもっともやっかいで論争的な複数のテーマについて、一挙にブレークスルーの可能性を示した意味は小さくない。また、University of Connecticutにおいてこの研究の中心を成したのが、中国人の研究者たちであったことは、別の意味で感慨深いものがある。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)