GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
2006年10月16日、メキシコ農務省はMonsanto社やDuPont 社の子会社Pioneer Hi-Bred International社を含むバイオ工学開発メーカーから申請されていたGMトウモロコシ試験栽培7件すべてを却下すると発表し、騒ぎになっている。
参照記事1
TITLE: Mexico rejects biotech corn planting
SOURCE: AP by Mark Stevenson
DATE: Oct. 19, 2006
この措置に対し申請当事者側は驚きを隠さない。試験栽培の申請は、トウモロコシ原産種や野生種に対し影響を与えそうな地域を避けて計画されていたからだ。申請は殺虫剤と除草剤試用を減少させる品種のみに制限されており、これらは地元の農民に莫大なメリットがあるにちがいないとする一部のバイオ工学支持者からも、「臆病な措置」と怒りの声が上がっている。
一方、環境保護主義者たちは、トウモロコシ原産地のメキシコにおけるGM種子と土着種子との交雑を防止するのに役立つだろうとこの拒絶を一応歓迎してはいるものの、これが最終決定とはなるまいと醒めた見方をしている。12月1日に就任する新政権に対して、多国籍企業から大きな圧力がかかるだろうから、これは一時的な措置だろうと言うのだ。
メキシコ食品安全庁の担当者も、進行中の議論は申請された地域が原産種や土着種に対し影響の無い場所であるかであり、研究者や専門家の意見が割れている。影響が無いと特定された地域で、試験プロジェクトの第一段階が認可される可能性があると示唆している。しかし、現在のところ肝心の安全地帯マップは未完成のままであるらしい。
これらの背景は複雑だ。メキシコは98年からGM作物栽培にモラトリアムを課してきた。しかし、05年2月15日、現政権はバイオセキュリティ法案を成立させ、GM作物栽培に諸条件を定め、将来的なGM作物栽培へ向けた道を開いた。
この間01年11月の土着種からGMトウモロコシのDNA配列を発見したという論文のNature誌掲載と同誌による取り下げ及び05年8月の事後検証結果(松永和紀氏の論評参照)や04年11月の関連NAFTA報告書(拙稿参照)などが、耳目をそばだたせてきた。
このようにGMトウモロコシ問題だけでも充分にややこしいのだが、NAFTA(北米自由貿易協定、94年発効)を廻る米国との農産物貿易に係わる軋轢が加わるから事態はさらに複雑である。04年1月1日にNAFTAにより農産品約300品目の関税が撤廃された。しかし、トウモロコシは粉ミルク、オレンジジュース、一部糖類などと共に08年1月1日まで、関税撤廃が延長されている。
それでも、米国からメキシコへのトウモロコシ輸入は94年を境に劇的に増加する。この米国産トウモロコシの大量流入は当然トウモロコシの価格下落を招いた。メキシコの小規模農家が立ちゆかなくなるという懸念が当初指摘されたが、現実には小規模農家も生産を増やしたという統計があるらしい。
メキシコで小規模農家を中心に栽培されているのは食用のホワイトコーンであり、米国からの輸入は主に飼料用途のイエローコーンである点には注意を払う必要がある。しかし、原因はそれだけではないという分析が、05年5月のJANJANに8回連載で取り上げられており、ネットで読める。このNAFTAを廻る米・墨関係は、ネット検索でも面白い論考が多数ヒットするので興味がある読者は試みて欲しい。
農産物などでは、対米貿易に大きく依存しなければならないのが現実のメキシコだが、最後に自前開発しているGMトウモロコシの話題にも触れておこう。
参照記事2
TITLE: GM maize protects chickens from deadly virus
SOURCE: SciDev.Net by Wagdy Sawahel
DATE: Aug. 18, 2006
the Center for Research and Advanced Studies (CINVESTAV)の研究者たちが開発した家禽のニューキャッスル病ウィルスに対する経口ワクチン入りのGMトウモロコシだ。06年8月12日に論文発表されている。これは、途上国に多い養鶏業者にとって非常に期待される成果であり、今後の発展が注目される。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)