GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
2006年4月9日から12日、米国のシカゴでは、Bio2006が開催された。バイオ作物生産の中心地である中西部に初めて会場を移したこのバイオ産業界最大のイベントには、約60カ国から1万9000名の人々が参加したと伝えられる。
Bio2006を覗く前に、先週のフォローアップでEUに触れておく。4月12日、欧州委員会は、環境担当Stavros Dimas委員(ギリシャ)と保健・消費者保護担当Markos Kyprianou委員(キプロス)からの提案を容れ、GMOリスク評価のレビューを検討すると発表した。
これは、加盟国や地域のGMOフリーゾーンがWTOに抵触することが明らかになった今、共存を推進するためのトレード・オフと見るのが大局的には正しい。GMO認可と表示やトレーサビリティとがトレード・オフされたのと同じ理屈だ。依拠する法律のフレームワークは変えないものの、個別のリスク評価が現在より厳しいものになることは間違いないから、開発メーカーにとっては頭の痛い話だろう。
シカゴに話を戻そう。非食用も加えた各社の開発パイプラインについては、BTJの現地レポートに詳しいので、そちらを参照願いたい。上述の通りWTO裁定にもかかわらず、欧州へのGMO売り込みが依然不透明な開発メーカーとしては、既存のマーケットである北米を中心に競争を激化させざるを得ない、という観点からアグリバイオに絞って一連の流れを追う。
この見地からの最大のニュースは、4月10日発表されたスイスSyngenta社が保有する米国GreenLeaf Genetics社への米国DuPont社50%出資により実現した両社のジョイントベンチャーである。この契約には両社のクロスライセンスが含まれるため、北米種子市場においては非常にインパクトのあるものとなった。
この結果、Syngenta社 はDuPont社傘下の米国Pioneer Hi-Bred International社が所有する glyphosate 耐性技術GAT(Glyphosate ALS Tolerant、本家米国Monsanto社のRoundup Readyより除草剤耐性が強いと言われている)と除草剤を使え、一方、DuPont社はSyngenta社の害虫抵抗性Btトレイトへのアクセスが得られる。
両社が米国とカナダで販売を狙う主な種子は、ダイズとトウモロコシである。これは、農家の種子選択性を広げ、現在、米国ダイズの87%のGMダイズのほぼ全てとトウモロコシ種子の20%以上を独占するMonsanto社に対するあなどれない挑戦となる。
受けて立つMonsanto社は、今後の開発パイプラインを、干魃抵抗性トウモロコシ(2〜5年先)、藻の遺伝子を導入したオメガ3系油脂を含むダイズ(1〜3年先)、エタノール製造用の高スターチトウモロコシ(開発済み)と位置つけた。
第三勢力としては、ドイツBASF社と米国Dow AgroSciences社からのリリースも注目を集めた。
BASF社は、植物バイオに対し、2006年から08年までの3億2000万ドルを含めて10年までに10億ドルを注ぎ込む計画だという。開発目標はヨーロッパの製紙・繊維、接着剤工業向け高スターチのGMトウモロコシ、干魃抵抗性GMトウモロコシ(2010年商品化)と公表された。
GMを使わないユニークな開発手法を持つDow AgroSciences社は健康油に特化し、飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、コレステロールの三悪追放が旗印だ。既に販売されているトランス脂肪酸対策のNetreonカノーラ油とヒマワリ油の販売量拡大が当面の目標である。これらはMonsanto社が販売好調の低リノレン酸ダイズ(油)と競合する。飽和脂肪酸低減は2010年が目標だ。
最後にGM反対派の動きにも触れておこう。昨年フィラデルフィアで開催されたBio2005では、デモ警備の地元警官が小競り合いの直後、心臓発作で亡くなるという不幸な事件があり、反対派は批判を浴びた。これを教訓に、過激な抗議活動は影をひそめたようだ。
反対派は、BioETHICS2006に代表される集会をBio2006会場近辺で催行した。BioETHICS2006のプレスリリース「バイオ工学に大きな可能性があることには我々も同意する」は、「しかし、確立された規制なしでは危険なものになる」と続くものの、今までの反対派には見られなかった主張である。
しかしながら、表舞台に立つ役者たちは、相変わらずカナダの共存戦士Percy Schmeiser氏や米国のヒンズーカルトJeffery M. Smith氏であるところに、反対派の人材供給パイプラインの貧弱さが露呈している。
先週のGMOワールドを俯瞰すれば、ブリュッセルとシカゴは離れているし、表面的にやっていることは正反対のような印象を受ける。しかし、動機こそ異なれ、両者の隠された課題とキーメッセージは意外に近いところが面白い。それは、加盟国や消費者に対するコンセンサス獲得と透明性の開示である。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)