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「隠れ馬」と「テキーラ効果」〜カルタヘナ議定書第3回締約国会議

宗谷 敏

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 2006年3月13日から17日 まで、ブラジルのクリチィバにおいて開催されたカルタヘナ議定書第3回締約国会議(COP/MOP-3)が終了した。例の通り16日は徹夜の討議となるなど七転八倒の末、懸案の第18条2項はどうやら条件付き合意に達したらしいが、本稿執筆時点では、公式のログはもとより有力各紙による報道もまだあがってはいない。

 同議定書の第18条とは「LMOの取扱、輸送、包装及び表示」に関するもので、就中2項の締約国の義務中の「食料もしくは飼料として直接利用し又は加工すること(FFP)を目的とするLMOに添付する文書」が論点になっている。極言すれば、これらのLMOを特定し記すべきか、「含まれる可能性がある(may contain)」という表記を認めるかにある。

 前回の締約国会議(05年5月30日〜6月3日、モントリオール)において、まとまりかけていた18条2項に対する議長提案に対してLMO輸出国の立場からLMO表示に最後まで強硬に反対し、結局脱線させたのはブラジルとニュージーランドだった。

 今回の会議では、様々な政治的要因が働いた結果、ブラジルは立場を変えてFFPへの混入LMOを特定する義務表示を支持、妥協案として4年間はmay containも認めるという議長国提案を行うに至る。変心した議長国ブラジルが、今回も主役であることは間違いないところだが、重要な敵役は前・後半で交替した。

参照記事1
TITLE: Brazil backs stronger GMO export labeling -ministry
SOURCE: Reuters
DATE: March 14, 2006

 会議前半の敵役ニュージーランドは頑なに前回の立場に固執し、環境保護団体から米国の「隠れ馬」(猟師が陰に隠れて獲物に近づく馬)と揶揄された。実は、米国、カナダ、アルゼンチン、オーストラリアなどLMO生産・輸出大国は、カルタヘナ議定書に署名していない。これら諸国の立場・権益を代表し議場で代理戦争を行うのがニュージーランドだと目されていた。

参照記事2
TITLE: Is NZ a US “stalking-horse” on GE issue?
SOURCE: Scoop, Press Release of Green Party
DATE: March 14, 2006

 ところが、3月16日夜前述のブラジル議長国提案に対し、もっとも強い抵抗を示して立ちふさがったのはメキシコであり、パラグアイもメキシコをサポートした。メキシコは、Non-GMOに5%までの非意図的混入を認め、非意図的LMOの混入には表示を課さない米国・カナダとのNAFTA条約を遵守する立場から、義務的表示に難色を示した。

参照記事3
TITLE: Mexico and Paraguay Block Agreement on Biosafety
SOURCE: IPS by Roberto Villar Belmonte
DATE: March 17, 2006

 かくして17日明け方まで夜を徹して、関係者による調整のための会議が行われた。その結果、ブラジルのLMO特定をベースとしmay containを暫定的に認める提案は、メキシコの「テキーラ効果」により4年目にレビュー、実施する場合も6年に延期された模様だ。つまり、レビューの結果次第では、表示義務化が見送られる可能性を残したと思われる。

参照記事4
TITLE: Biosafety Protocol Alive, but Restricted
SOURCE: IPS by Mario Osava
DATE: March 18, 2006

 さらにメキシコが勝ち取った妥協は、この他にも非締約国(米国・カナダ)との貿易にはこの条項を必ずしも適用しなくとも良いという可能性を残した(2国間協議や非締約国との関連は別の条項にもあるので、これらとの整合も必要となるだろうが)ことらしい。

 限られた情報源ではここまでしか分からないが、日本の代表団もさぞやご苦労されたことと思う。ともかく、議定書本体の存在意義さえ問われかねない空中分解だけは避けられたようだが、重要課題は結局先送りされた感も否めないではない。前述のLMO大国の議定書非署名と共に、アフリカ諸国からの参加が、今回低調であったことも今後に問題を残す。

 ここで、筆者には思い起こされる一つの言葉がある。それは、1999年8月の我が国農水省食品表示問題懇談会遺伝子組み換え食品表示部会において、一部GM食品表示義務化が決定された時、座長が残した「誰もが不満足な制度が出来た(だから皆少しずつ我慢しろ)」という名言(議事録からは削除)である。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)