GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
4月第3週、GMOワールドでは花見酒に酔う暇もなく、ネガティブな三つのトピックに報道が集中した。副題をつけるなら、「告白の代償〜EU」「告発の正味〜中国」「拒否の距離〜米国」といったところになるのだろうか。
参照記事1
TITLE: EU calls for checks on some US feed imports after GMO scare
SOURCE: AFP
DATE: April. 15, 2005
EUでは、スイス本拠Syngenta社のBt10を巡る対米関係がこじれている。4月15日、EU加盟国は、米国からの飼料用コーングルテンと醸造用穀物が、 Bt10 を含まないことを証明される必要があるという欧州委員会の緊急法案に賛成の票決をした。Syngenta社もこの検査プログラム(第三者検査機関の証明が必要となる)への全面的協力を発表している。この緊急措置は、10月末にレビューされる。
米国側は、EFSA(欧州食品安全庁)も実リスクはありそうもないとしているのに、この実質的禁輸に当たるセーフガード措置は過剰反応だと主張する。しかし、例のご立派なトレーサビリティ・ルールなどが画餅だったと完全にコケにされた訳で、EUの怒りも収まらない。
米国から欧州向け飼料用コーングルテン輸出は年間350万トン、約4億4900万ドル相当と伝えられる。米国が恐れる日本のEUフォローを回避するためには、やはり米国政府がBt10にフル・アプルーバルを与えるしかない。これをやらないのでは、「本当に実リスクはないのか?」という疑惑が日々深まるのは目に見えている。
参照記事2
TITLE: Scandal: Greenpeace discovers illegal GE rice in China
SOURCE: Greenpeace
DATE: April. 13, 2005
お次は中国。4月13日、Greenpeaceが、中国湖北省で過去2年にわたり商業栽培未承認のGMイネが種子販売、生産、消費されていた疑惑があると発表し大騒ぎになった。Greenpeaceは、当地の種子会社、農家、製粉業者者などから、イネの種子、玄米、精米のサンプル25を集め分析したところ19のサンプルから組み換えDNAが発見されたという。検査に当たったのはドイツのGeneScan社、検査業界の大御所である。
事実関係は上記であるが、お約束の怒濤の煽りが後に続く。いわく、輸出されていたかもしれない、いわく、発見されたBtイネはヒトにアレルギーを起こす可能性があるかもしれない。フィリピンのIRRI(国際イネ研究所)が、GMOがヒトに有害であったという証拠がないと述べている(05.4.14. New York Times)通り、筆者も寡聞にして「Btイネがマウスにアレルギー反応を誘発したかもしれない」というGreenpeaceの主張する学術論文の存在を知らない。
中国政府は調査を約したものの、詳しいコメントは出していないので、現在の材料はGreenpeaceの一方的リリースしかない。付近に試験圃場のある農業大学からの(意図的?)GM種子大量流出が疑われているが、GeneScan社の検査が正しいという前提で、無作為にサンプル抽出したのであれば、76%という異常に高い検出率に対してはやや疑問も残る。
参照記事3
TITLE: Genetically modified rice won’t be planted near Bootheel fields
SOURCE: Post-Dispatch Washington Bureau, by Bill Lambrecht
DATE: April. 15, 2005
最後はお膝元米国だが、さすがにこちらは決着も早かったようだ。セントルイスに本社を構えるAnheuser-Busch社をご存じなくても、ビールのBudweiserなら知らない人はいないだろう。A-B社はBudweiserの製造元、全米一のビールメーカーである。4月11日そのA-B社が、もしミズーリ州でGM製薬コメが栽培されるなら、同州のコメをボイコットすると宣言した。
母乳に含まれるヒトのタンパク質をGMコメで生産する計画を持つのは、カリフォルニア州サクラメントのVentria Bioscience社である。同社はGMに抵抗感が強いカリフォルニア州からミズーリ州への移転を計画した。地域産業振興、雇用促進などメリットがある一方、食用のコメとのコンタミネーションを警戒する声も強く、地元では賛否の議論が盛んだった。3月には、米国最大の精米業者であるRiceland社も反対を表明している。
しかし、4月15日になると、米国のメディアはA-B社とVentria社があっけなく和解に達したと報道した。GMコメの栽培は、主要な稲田地帯から少なくとも120マイル離すというのが合意の内容である。政治介入があったのかどうかは分からないが、これは120マイルというガイドラインを獲得したVentria社の勝ち、一歩前進だろう。なお、Riceland社がこの条件を受け入れたどうかは明らかにされていない。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)