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GMOワールド

改組前欧州委員会の置き土産〜NK603の食用認可

宗谷 敏

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10月末で任期満了を迎えた欧州委員会は、10月26日、米国Monsanto社の除草剤耐性トウモロコシNK603とその製品の食品への使用を向こう10年にわたり承認した。5月19日のスイスSyngenta社の除草剤耐性GMスイートコーンBt11認可に続くGMモラトリアム解禁第2弾である。

参照記事1
TITLE: Commission approves GM maize for human consumption
SOURCE: EurActive
DATE: Oct. 27, 2004
 2001年1月、指令2001/18/EC(環境放出指令90/220の改訂版)に基づきMonsantoがNK603の申請をスペイン政府に提出し、スペインがその安全性を確認したと欧州委員会経由加盟各国へ通知してからの流れは、次の通りである。
03年12月5日、EFSA(欧州食品安全庁)がヒトと動物の消費に問題なしと結論。
04年2月18日、法制度委員会が飼料としての輸入と上市認可に失敗。
同4月30日、法制度委員会が食品としての輸入と上市認可に失敗。
同6月28日、環境閣僚理事会が飼料としての輸入と上市認可に失敗。
同7月19日、農業閣僚理事会が食品としての輸入と上市認可に失敗。
同日、欧州委員会が飼料としての輸入と上市を認可。
同10月26日、欧州委員会が食品としての輸入と上市を認可。
 NK603は、04年4月18日より施行になったGM食品・飼料法(GM Food & Feed Regulation 1829/2003)とトレーサビリティおよび表示法(Traceability and Labeling Regulation 1830/2003)の適用を受けるため、表示やトレーサビリティの対象となる。また、域内での栽培は未承認のままだ。
 冒頭記した通り11月1日から欧州委員会は、人事を刷新した。認可途上の諸段階にあるGMOの承認手続きは、99年9月15日に選任された20名の旧委員会に代わり、Jose Manuel Barroso委員長(ポルトガル)が率いる24名の新メンバーに引き継がれる。この新委員会が、前委員会同様プロGM路線を踏襲して行くのかどうかは非常に興味深い。
 GMO関係に縁が深い人事では、農業・農村開発(ポストを増やすため水産は独立)担当はFranz Fischler氏(オーストリア)からMariann Fischer Boel女史(デンマーク)に、環境担当はMargot Wallstrom女史(スウェーデン、新委員会では機構関係・広報戦略を担当する副委員長に就任)からStavros Dimas氏(ギリシャ)に、保健・消費者保護担当は隠れGMサポーターだったDavid Byrne氏(アイルランド)からMarkos Kyprianou氏(キプロス)に各々交代となる。P>
 注目されるのは、デンマーク農相として6月9日、世界初のGMOと在来・有機農産物との共存のための国内法を成立させたBoel女史の出方である。共存をガイドラインに留めた前欧州委員会は厳格強固な栽培規制を好まなかった。しかし、10月18日開催の農相理事会では、共存問題に対してEU政府としてさらに踏み込んだ措置が求められた。この流れからBoel女史は自国の厳しい共存法を欧州基準に持ち上げようと考えるかもしれない。Thatcher首相になれるか、田中真紀子外相で終わるか・・・
 さて、EUのNK603の食用・飼料認可を受けて、栽培国の米国側の反応はどうか?株価もあがったMonsantoが、お喜びであることは間違いない。一方、生産現場では、全米トウモロコシ生産者協会(NCGA)が、トウモロコシ生産者に対し注意を喚起している。
参照記事2
TITLE: NCGA Encouraged by Completion of EU Food Approval Process for Monsanto’s Roundup Ready Corn 2 Technology
SOURCE: The National Corn Growers Association (NCGA)
DATE: Oct. 26, 2004
 NK603は、現在米国内においてはRoundup Ready Corn 2として販売・流通している。Roundup Ready Corn 2ハイブリッド品種(シングルトレイト、スタッキング以外)のみがEUの認可に該当する訳だが、販売する農家は集荷業者の買い取り方針を良く確認しろというのだ。
 6月30日米国農務省公表のGMトウモロコシ作付け調査では、GM45%のうち害虫抵抗性27%、NK603を含む除草剤耐性13%、害虫抵抗性と除草剤耐性のスタッキング5%となっている。スタッキング品種はもとより害虫抵抗性も、Bt11などを除いてEU未承認のままである。ありがた迷惑とは言わないまでも、Starlink事件のトラウマを抱える生産・流通現場は分別にナーバスにならざるをえないようだ。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)