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GMOワールド

GMモラトリアムに雪崩を打った豪州諸州

宗谷 敏

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 引き続いてオーストラリア関連の報道が目立った。先週は主にニューサウスウェールズ(NWS)州を取り上げたが、今週の主役の座は西オーストラリア州、ビクトリア州及び南オーストラリア州に移った。3州は各々GM商業栽培の禁止もしくはモラトリアム(一時的凍結)延長を公表した。

参照記事
TITLE: Australia’s Biggest Grain-Growing State Bans GM Food Crops
SOURCE: Bloomberg
DATE: Mar. 24, 2004

 小麦1070 万トン(全オーストラリア生産量の43%、以下同じ)、大麦300万トン(35%)、ナタネ 61万トン(38%)を生産するオーストラリア最大の農業州である西オーストラリア州は3月23日、GM商業栽培を行わないと発表した。

 同州は2006年までGM商業栽培モラトリアムの状態にあり、その動向が注目されていたが、商業栽培禁止という厳しい政策に踏み切った。なお、研究施設内や小規模のGM試験栽培については、これらを認めるとの意向である。

参照記事
TITLE: Bracks says ‘No’ to GM food
SOURCE: AAP, Nick Lenaghan
DATE: Mar. 25, 2004

 一方、ビクトリア州政府も今年5月で期限が切れる3年間のGM商業栽培モラトリアムを、さらに4年延長する(08年まで)と3月25日公表した。試験栽培をどう扱うかは未定の模様である。さらに南オーストラリア州も、3年間のGM商業栽培モラトリアムを決定する動きである。

参照記事
TITLE: NSW goes it alone with GN crops
SOURCE: The Sydney Morning Herald, by Stephanie Peatling, Environment Reporter
DATE: Mar. 26, 2004

 こうなると、GMナタネの大規模試験栽培認可を考慮中のNWS州の立場も微妙である。

参照記事
TITLE: South Australia passes GM moratorium bill
SOURCE: ABC
DATE: Mar. 26, 2004

 相次いだ地方政府の反乱に、昨年GMナタネの商業栽培に認可を与えた連邦政府は困惑を隠せない。また認可を受けたモンサント及びバイエル両社にとっても衝撃的な事態だろう。お気付きのことと思うが、このような摩擦の構図は隣国ニュージーランドをはじめ、EU委員会と加盟各国、英国政府と地方州政府やアイルランドなど今や世界各地で起きている。

 百花繚乱のモラトリアム賛否両論が拠って立つところは、一言で整理できるものではない。しかし、モラトリアム肯定論では農業生産現場における有機農産物や在来作物に対するGMクロス・ポリネーション(交雑)の存在がやはり大きい。 
 交雑問題は、健康危害など仮想リスクの領域になく既に現実的に発生していることから、開発社側からの技術的解決の提示とともに規制側は被害の認定、賠償責任なども明確にしていかないと硬直状態を脱しきれないだろう。おそらく次のGM小麦やコメの商業栽培に進むためには、避けて通れないハードルになる。

 いくら自国や自州、自地域がNon-GMを貫徹しても、現実的にGMを栽培している他国が存在し国際的に貿易が行われている以上、栽培中の風媒のみならず播種用種子のレベルから製品流通に至るまであらゆるステージにおいてコンタミネーションの可能性は存在する。リスクと同様ゼロはないという現実的認識の上に「意図せざる混入」に対する一定の合意も求められる。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)